政治

概算要求114兆円超に 過去最大 防衛費や社会保障費が増加

来年度=令和6年度の国の予算案の概算要求が31日締め切られ、防衛費や社会保障費の増加を反映して、要求総額は一般会計で114兆円を超え過去最大です。

目次

要求総額 一般会計で114兆円超 過去最大

国の来年度予算案の編成に向けて、各省庁が財務省に提出する概算要求は31日締め切られ、予算を査定する財務省主計局の担当部署ではオンライン会議で各省庁の職員に要求した事業の金額などを確認していました。

各省庁からの要求総額は一般会計で114兆円を超え、コロナ対策の事業などが相次いだ2年前の111兆円も上回り、過去最大です。

省庁別では、防衛省が今年度予算を9000億円余り上回る7兆7385億円。

厚生労働省は、高齢化に伴う社会保障費の増加を踏まえ、今年度予算より5900億円多い33兆7300億円。

財務省は、長期金利の上昇を踏まえて、国債の償還や利払いに必要な「国債費」について今年度予算より2兆円以上多い28兆1400億円を要求しました。

さらに、今回は、こども家庭庁が担当する少子化対策の強化策をはじめ、政府が重要政策とする分野で具体的な金額を示さずに要求することを認めていて実質的な要求額はさらに膨らむ見込みで、今後の予算編成に向けては、歳出の膨張を抑えるためメリハリのきいた査定が求められます。

松野官房長官「重要政策を着実に前に進めることが重要」

松野官房長官は、記者会見で「構造的な賃上げの実現や官民の連携による投資の拡大、こども・子育て政策の抜本的な強化を含めた『新しい資本主義』の加速など、重要政策を着実に前に進めていくことが重要だ」と述べました。

そのうえで「『骨太の方針』で、歳出構造を平時に戻していくとともに、緊急時の財政支出を必要以上に長期化、恒常化させないよう取り組むとされていることも踏まえ、歳出改革の努力を継続し、経済成長と財政健全化の両立に向けた取り組みを進めたい」と述べました。

概算要求 主な事業

「新しい資本主義」

概算要求では、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けて、リスキリング=学び直しを行う労働者や、スタートアップ企業に対する支援などが盛り込まれました。

資本主義1 学び直し
文部科学省は、社会人が大学などで学び直す「リカレント教育」を促すため、受講した従業員が職場で成果を発揮した場合に給与に反映させるといった企業の先進的な取り組みを推進するために104億円、厚生労働省は、非正規雇用の人たちなどが働きながら学べるよう、オンラインなどを活用した職業訓練を行うモデル事業に3億3000万円を要求しています。

資本主義2 スタートアップ
内閣府は、海外への進出を目指すスタートアップ企業の取り組みなどを支援する事業として25億円を要求しています。

資本主義3 デジタル関連
デジタル庁は、デジタル化の推進に向けマイナンバーカードの利便性の向上や国からの給付金などを受け取る「公金受取口座」の登録を促進する費用などとして、6億8000万円を要求しています。

物価高騰対策

物価高騰対策の事業も各省庁から要求が相次ぎました。

農林水産省は、輸入する肥料価格の高騰を受けて国内で生産される肥料の活用の支援に36億円、厚生労働省は、飲食店やクリーニング店などの事業者が原材料費の高騰などで値上げをした際、利用者に理解を求める広報活動を支援するためとして3億9000万円を盛り込みました。

経済産業省は、物価高騰の中で生産性の向上に取り組む中小企業や小規模事業者などの成長を下支えする事業を「事項要求」として求めています。

防衛力強化に向けた事業

政府は、今年度から5年間かけて防衛力を抜本的に強化する方針で、防衛省の要求額は7兆7385億円と今年度予算よりも1兆円近く増えました。

弾道ミサイルも含めたさまざまなミサイルへの防衛能力を高めるため、迎撃用の誘導弾の整備など「統合防空ミサイル防衛能力」に1兆2713億円、「反撃能力」としても活用できる敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の開発などにかかる経費として7551億円を要求しています。

また、防衛産業のサイバーセキュリティー対策など「サイバー領域における能力強化」の事業として2303億円を要求しています。

このほか、ほかの省庁も防衛関連の経費を要求しています。

外務省は、OSA=「政府安全保障能力強化支援」という、価値観を共有する他国の軍に防衛装備品を提供する取り組みに21億円を要求しています。

総務省は、国の情報通信研究機構で防衛体制の強化に向けた研究開発を推進するための事業を「事項要求」で盛り込んでいます。

国土交通省も自衛隊が有事に備えて空港や港湾を活用できるよう設備を改修する費用を「事項要求」として盛り込んでいます。

脱炭素社会の実現に向けた事業

経済産業省は、脱炭素エネルギーとして期待される水素やアンモニアなどの大規模なサプライチェーンを構築するため、生産設備に関する投資などを支援する費用として1171億円を要望しています。

また、脱炭素化に向けた企業や社会の取り組みを促す「GX=グリーントランスフォーメーション」の事業を「事項要求」として盛り込んでいます。

環境省は、エネルギーの使用量を抑えるため窓ガラスの断熱の改修などに伴う費用の一部を助成する事業に1170億円、商用車を電動化するための補助金について、これまでのトラックとタクシーに加え新たにバスを対象とするための費用に341億円を盛り込みました。

自宅でテレワークをしたり製造過程で二酸化炭素の排出量を抑えた製品を導入したりするなど、脱炭素につながる新しい生活様式「デコ活」を推進する事業に52億円を要求しています。

少子化対策

ことし6月にまとめた「こども未来戦略方針」に掲げられた児童手当の拡充など多くの事業は、今後、具体化を進めるとして金額を明示しない「事項要求」となっています。

こども家庭庁は、児童手当の所得制限を撤廃したうえで対象を高校生まで広げることや、保育の質の向上に向けて1歳児や4、5歳児の保育士の配置基準や待遇の改善、それに親が就労していなくても子どもを保育所などに預けられる『こども誰でも通園制度』を試験的に実施する事業を要求しています。

また、教育にかかる負担を軽減するため、理系の大学生や実家が多子世帯の学生などについて、授業料の減免や給付型奨学金の対象を広げる措置も求めています。

専門家「“事項要求”増える傾向 概算要求の仕組み見直す必要」

概算要求では、この数年、金額を示さずに要求する「事項要求」が増える傾向にあるとして、専門家からは概算要求の仕組みを抜本的に見直す必要があるという指摘も出ています。

概算要求では、各省庁が来年度に実施したい事業とその具体的な経費を財務省に提出します。

その際、歳出の拡大に歯止めをかけるため前の年度の当初予算額を基に要求額の上限などを定めた「概算要求基準」に従うよう求められ、この基準は「天井」を意味する「シーリング」とも呼ばれてきました。

一方で、8月の段階で内容や規模を見積もるのが難しい場合に限り「予算編成過程において検討する」として、具体的な金額を示さない「事項要求」という形で要求することが例外的に認められています。

予算制度が専門の白鴎大学の藤井亮二教授によりますと「予算編成過程において検討する」という言い方は、平成元年度予算の概算要求で始まったとみられます。

当時は、雇用保険における国の負担額や沖縄の米軍基地関連などに限定されていました。

ところが、今回は、この事項要求が少子化対策や新しい資本主義に関する施策、それに物価対策など政府が重要と位置づける幅広い政策で認められました。

事項要求は去年も防衛や脱炭素などで認められていて、藤井教授はこの数年、増加傾向にあるといいます。

藤井教授は「物価高騰や少子化対策など、幅広い政策が事項要求に含まれると、今まで縛りをかけていたものが機能しなくなる。事項要求は、本当に予算の支出や規模が決まらないものに限定するのが一番の理想だ」と話しています。

そのうえで、現在の概算要求の仕組みについて「今までのようなシーリング枠というものが機能しなくなっているので抜本的な見直しが必要だ」と指摘しています。

「“事項要求”が歳出抑制の逃げ道に」

次の年度に向けて「事項要求」した事業がその年の補正予算に前倒しの形で計上されるケースが相次いでいて、専門家は、歳出抑制の逃げ道になっていると分析しています。

予算制度が専門の白鴎大学の藤井亮二教授は、国会からの求めに応じて各省庁が提出した事項要求の事業や予算査定後の結果などを調べました。

それによりますと、今年度・令和5年度予算に向けて各省庁が去年、事項要求とした事業のうち、少なくとも34事業は去年12月に成立した昨年度の第2次補正予算に計上されていました。

たとえば、文部科学省によるロケット開発の支援事業として188億円、国土交通省がETCの普及に向けて行う高速料金の割引に必要な事業として78億円が盛り込まれています。

藤井教授は、次の年度に向けた事項要求の事業を緊急性があるなどとしてその年の補正予算に計上することで歳出抑制の逃げ道になっていると分析しています。

藤井教授は「緊急性や必要性に乏しい事業もあえて緊急かつ必要と解釈して補正予算に組み込んでいることが多いのではないか。今のシーリングは、あくまで当初予算しか縛りをかけていないが、補正予算を含めて上限を決めることも考えられる」としています。

そのうえで、事項要求の事業について査定の実態を検証するためにも、政府全体で積極的に情報を開示することが必要だと訴えています。

藤井教授は「事項要求としてどれ位が使われたのかをわかる形で示してもらわないと、この事項要求がふさわしかったかどうかが曖昧になる。政府には事項要求の内容を検証することや一覧表としてまとめてもらうことをお願いしたい」と話しています。

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