防衛省 来年度予算案の概算要求決定 過去最大の7兆7385億円

防衛省は、来年度予算案の概算要求で、過去最大となる、およそ7兆7400億円を求めることを決定し、イージス・システム搭載艦を2隻建造する費用などが盛り込まれています。

防衛省は31日、防衛力の抜本的強化の2年目にあたる来年度予算案の概算要求で、過去最大となる7兆7385億円を求めることを決めました。

この中では、イージス・システム搭載艦を2隻建造する費用として、3797億円が盛り込まれました。

これは、改修が必要となることが判明したため配備を断念した、陸上設置型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策で、最初の1隻は2027年度の就役を目指すとしています。

また、相手のミサイル発射基地などを攻撃できる「反撃能力」としての活用が念頭にある「スタンド・オフ・ミサイル」については、改良を進めている「12式地対艦誘導弾」よりも射程が長く正確性も高いミサイルを新たに開発する費用として、320億円が盛り込まれています。

このほか、先の日米首脳会談で共同開発することで合意した、極超音速ミサイルを早い段階で迎撃するミサイルの開発や、有事の際に南西諸島に隊員や物資を迅速に輸送する専門の部隊を新設し、機動力が高い小型の船舶を導入することなども盛り込まれています。

常設の「統合司令部」来年度末までに設置へ

防衛省は、陸海空自衛隊の部隊を一元的に指揮する常設の「統合司令部」を、来年度末までに設置することを決めました。

設置場所は東京の防衛省の敷地内で、司令部の人員はおよそ240人を見込んでいます。

統合司令部は、12年前の東日本大震災を踏まえて、設置に向けた検討が進められてきました。

現在の制度では、自衛隊制服組トップの統合幕僚長が防衛大臣を補佐するとともに、部隊を実質的に指揮する役割も担っていますが、東日本大震災では両方の役割を担う統合幕僚長に負担が集中し、役割を分担する必要があるという指摘が出たためです。

統合司令部では、新たに置かれる統合司令官が部隊を指揮し、統合幕僚長は防衛大臣の補佐により専念することになる見通しです。

統合司令官は、陸海空自衛隊トップの各幕僚長と同格の将官が務めるということです。

防衛省関係者によりますと、統合司令部の設置場所は、陸上自衛隊の司令部がある朝霞駐屯地や、海上自衛隊の司令部がある神奈川県横須賀市などが検討されましたが、防衛省内部から「統合司令官は総理大臣や防衛大臣などと緊密に意思疎通を図れる場所にいるべきだ」という意見が出たことなどを踏まえ、防衛省内に決まったということです。

統合司令部には全国の部隊を指揮する権限が集中し、緊急事態の際にはアメリカ軍との作戦の調整も中心的に担うことから、シビリアンコントロール=文民統制のもと、政治の判断を適切に反映していくことが一層重要になります。

船舶専門の輸送部隊「海上輸送群」を新設

防衛省は、南西地域の離島などに部隊や装備を速やかに運べるようにするため、船舶専門の輸送部隊を新設します。

船舶の運用は主に陸上自衛官が行うということです。

防衛省によりますと、来年度末までに新たに設置するのは、船舶を使って陸上自衛隊の部隊や陸海空自衛隊の装備などの輸送を行う「海上輸送群」です。

司令部は広島県の海上自衛隊呉基地に置き、2027年度末までに積載量が2000トン程度の中型の輸送船2隻と、離島の港湾でも接岸できる喫水の浅い小型の輸送船4隻、高速で航行できる「機動舟艇」と呼ばれる輸送船4隻の、合わせて10隻を配備する計画です。

このうち中型と小型のそれぞれ1隻は、来年度、呉基地に配備する計画ですが、それ以外の配備先は検討中だとしています。

船舶の運用に必要な隊員は、1隻当たり中型がおよそ40人、小型がおよそ30人で、部隊の人員は発足時はおよそ100人となりますが、最終的な規模については検討中だとしています。

また、「海上輸送群」は陸海空自衛隊の共同の部隊となりますが、船舶の運用は主に陸上自衛官が担うとしています。

理由について、防衛省関係者は、陸上自衛隊の部隊を速やかに展開する方策を検討するなかで新設が決まったことや、海上自衛隊は北朝鮮の弾道ミサイル対応やアフリカ・ソマリア沖での海賊対処などの任務が重なり、人員がひっ迫していることなどを挙げています。

「海上輸送群」の陸上自衛官は数年間、船舶を安全に運用するために必要な教育訓練を受けるということで、人材育成が課題のひとつとなります。

また、鹿児島県の奄美大島では、自衛隊の大型艦艇が接岸できる岸壁などを新たに整備する計画で、防衛省関係者によりますと、将来、「海上輸送群」の輸送船が配備される可能性もあるということです。

ステルス戦闘機F35B 宮崎 新田原基地に配備 飛行隊発足へ

防衛省は、艦艇からでも飛び立てるステルス戦闘機のF35Bについて、来年度から宮崎県の航空自衛隊新田原基地で機体の配備を始めるとともに、運用にあたる飛行隊を発足させることを決めました。

F35Bは、短い滑走で離陸し、垂直に着陸することができるステルス戦闘機で、防衛省は合わせて42機を調達し、来年度末に最初の6機を新田原基地に配備する予定です。

これに合わせて来年12月に、機体を運用する飛行隊をおよそ110人の体制で新田原基地に発足させることを決めました。

F35Bは、海上を航行する艦艇でも発着できるのが特徴で、防衛省は、事実上の空母化に向けて甲板の改修を行っている海上自衛隊の大型護衛艦「いずも」や「かが」に載せて運用する計画です。

また、護衛艦での発着を想定した訓練を行えるよう、艦艇の甲板を模した施設を鹿児島県の馬毛島に整備する方針です。

防衛省は、F35Bの新田原基地への配備について、「かが」が配備されている広島県の海上自衛隊呉基地や馬毛島に比較的近いことを理由に挙げています。

航空自衛隊には通常の戦闘機と同じように地上の滑走路で離着陸を行うF35Aも105機が配備される計画で、これまでに33機が青森県の三沢基地に配備されています。

海自の地方隊を4つに再編の方針

海上自衛隊は、全国に5つある地方隊のうち、青森県より北を管轄する大湊地方隊を来年度末までに横須賀地方隊と統合して、4つに再編する方針を決めました。

海上自衛隊は、全国を5つの警備区域に分け、青森県大湊、神奈川県横須賀、京都府舞鶴、広島県呉、長崎県佐世保の各基地に総監部がある地方隊が防衛・警備にあたっています。

このうち、青森県より北を管轄する大湊地方隊について、部隊運用の柔軟性を高めるためなどとして、東日本の太平洋側を管轄する横須賀地方隊と統合する方針を決めました。

統合によって大湊地方隊トップの総監のポストを廃止するなど人員を削減する一方、大湊基地で行っている艦艇の整備や弾薬の補給など後方支援の機能は維持するとしています。

防衛省関係者によりますと、海上自衛隊の地方隊の再編は、来年度末までに陸海空自衛隊の部隊を一元的に指揮する常設統合司令部を新設することに伴う人材や財源を確保するねらいもあるということです。

海上自衛隊は「大湊基地が重要拠点であることを踏まえて、再編の細部の検討を進めていく」としています。

吉田統合幕僚長「統合司令部は必要不可欠」

防衛省が、陸海空自衛隊の部隊を一元的に指揮する常設の「統合司令部」を、来年度末までに設置することを決めたことについて、自衛隊制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長は31日の定例の記者会見で「日本を取り巻く安全保障環境を考えたときに、平時からグレーゾーン、武力攻撃に至るまで、切れ目のない対応が求められている。そして、北朝鮮のミサイル発射や、中国軍の艦艇の外洋展開、邦人保護の輸送や災害派遣など対応が必要な事態が同時に起こることが常態化しつつある。全体の作戦構想を作り、指揮をする司令部というものは現在の環境においては必要不可欠だ」と述べました。

また、南西地域の離島などに部隊や装備を速やかに運べるようにするため、主に陸上自衛官が運用を担う船舶専門の輸送部隊が新設されることについては、「船にあまりなじみのない陸上自衛官が要員になるが、すでに海上自衛隊と一緒に教育や訓練を行っており、安全管理についても前に進んでいると認識している」と述べました。