26歳医師が自殺で遺族会見 “極度の長時間労働”で労災認定

亡くなる直前の1か月の時間外労働は、207時間余り。
およそ3か月間、休みはありませんでした。

去年、神戸市の病院に勤務していた当時26歳の医師が自殺し、労働基準監督署が極度の長時間労働が原因だとして労災と認定した問題で、医師の母親などが会見を開き「病院は労務管理をしておらず、労災認定されても息子は帰ってこない」と訴えました。

亡くなる直前 およそ3か月間休みなし

会見を開いたのは、神戸市東灘区の「甲南医療センター」に勤務し、去年5月に自殺した高島晨伍さん(当時26歳)の母親と兄です。

高島さんは、3年前から研修医として勤務し、より専門的な技術や知識を学ぶ「専攻医」として消化器内科で研修を受けながら患者の診療を行っていましたが、去年5月に自殺しました。

遺族の代理人弁護士によりますと自殺する直前の1か月の時間外労働は207時間余りにのぼり、およそ3か月間、休みはなく、西宮労働基準監督署は、極度の長時間労働が原因だとしてことし6月、労災に認定したということです。

母親「労災認定を受けても息子は帰ってきません」

母親の高島淳子さんは、「優しい医師になりたいと夢を持っていました。病院は労務管理をしておらず、労災認定を受けても息子は帰ってきません。家族にとっては泣いて笑って育てた宝物です」と訴えていました。

また、高島さんは、診療のほかにも、上司からの指示を受けて学会で発表するための準備にも追われていたということです。
しかし、病院側は「業務ではない」と主張しているということです。

兄「病院には長時間労働に向き合ってもらいたい」

これについて、みずからも医師である高島さんの兄は「3年目の医師にとってはすべてが業務だと思う。弟が過労であることを訴える環境がなかったのではないか。病院には長時間労働に向き合ってもらいたい」と話しています。

今後、遺族は病院を運営する法人に対して損害賠償を求める訴えを起こすことを検討しているということです。

「おかあさん、おとうさんへ」残された手紙

高島晨伍さん(26)は両親に向けて手紙を残していました。

「おかあさん、おとうさんへ」と書かれた手紙には「本当に感謝しています。最後にお母さんが来てお父さんが電話をくれたこと嬉しかったです。幸せでした。」と両親への感謝がつづられています。

そのうえで「おかあさん、おとうさんの事を考えてこうならないようにしていたけれど限界です」と記しています。

また、「お母さんへ改めて」と母親に宛てて「もっといい選択肢はあると思うけど選べなかった。本当に本当に有難う。自責の念は持たないで大好きです。」と結んでいます。

病院側「過重な労働をさせていた認識はない」

神戸市東灘区の「甲南医療センター」は17日、記者会見を開き「過重な労働をさせていた認識はない」などと説明しました。

会見によりますと、同僚や上司の話では高島さんは仕事熱心で、朝早くから夜遅くまで勤務していたということです。亡くなったことを受けて設けられた外部の医師や弁護士で作る病院の第三者委員会が出退勤の記録を調べたところ、

▽亡くなる前の月の去年4月の時間外労働は197時間36分
▽5月も亡くなるまでに133時間15分だったということです。

一方で、病院は「出勤している時間すべてが労働時間ではなく、自己研さんや休憩も含まれる」として、医師が申告した分だけを時間外労働として把握し、高島さんの去年4月の申告は30時間30分だったということです。

これについて具英成院長は「医師の働き方には自由度の高い部分があり、個々の医師でないと正確な労働時間を把握するのは難しい」とした上で「過重な労働をさせていた認識はない」と述べました。

病院によりますと、高島さんは入院患者6、7人を担当していたほか、学会発表の準備もしていたということですが、病院側は、「こういう学会があるので発表しないか」と上司が声をかけたもので、病院の業務として命令したものではないと説明しています。

一方で病院は、高島さんが亡くなったことを受けて、ことし1月以降、出勤時間のうち▽所定の勤務時間と▽申告した残業以外に具体的に何をしていたか上司に報告するよう医師に義務づけたということです。

来年4月開始「医師の働き方改革」とは

勤務医の時間外労働に上限を設ける「医師の働き方改革」は来年4月から始まることになっています。

時間外労働の上限規制は多くの企業では2019年から適用されていましたが、患者への影響を考慮して勤務医については5年間猶予されていました。

来年4月からは勤務医も労働基準法に基づき、休日や時間外労働の上限は「年960時間」と、「月間100時間」までとなります。

地域の医療提供体制を維持するためにやむをえず上限を超える場合は「年1860時間」、1か月の平均で155時間という特例の水準も設定されていますが、2035年度までを目標に終了するとしています。

改革の背景「自己犠牲的な長時間労働によって支えられている」

働き方の見直しが行われる背景にあるのが、医師の長時間労働です。

国の検討会が2019年にまとめた報告書では、日本の医療について「医師の自己犠牲的な長時間労働によって支えられている」と指摘されています。

同じく2019年に厚生労働省の研究班が行った「医師の勤務実態調査」では、時間外・休日労働時間について、病院の常勤勤務医のおよそ4割が一般的に「過労死ライン」とされる年間960時間を超え、さらにおよそ1割は年間1860時間を超えていました。

特に救急や産婦人科、外科、若手の医師は長時間労働の傾向が強くなっています。

自己研さんは労働時間に含まれるか

勤務医が診療や業務のかたわらで行う知識の習得や技能の向上を図るための学習といった「自己研さん」について国は通達を示していて、労働時間に該当するケースとしないケースがあるとしています。

労働時間に含まれるケースとしては▽所定労働時間内に医師が上司に指示された場所で行う場合や▽所定労働時間外でも上司の指示によるものであるとされていて、上司の指示がある場合には診療などの本来業務と直接の関連性がなかったとしても労働時間に該当するとしています。

また、学会や外部の勉強会などは参加しないことで人事評価などで不利益がある場合は労働時間に該当するとしています。

一方で、所定労働時間外に本来業務と直接、関連性がなく上司の指示がない場合には労働時間には該当しないとしています。

ここでは上司や先輩医師から論文の作成などを奨励されている事情があったとしても、業務上必要ではない行為を所定労働時間外に行う時間は該当しないと考えられるとしています。

不安や悩みを抱える人の相談窓口は

不安や悩みを抱える人の相談窓口です。

厚生労働省では、ホームページで相談窓口を紹介しています。

スマートフォンやパソコンで「まもろうよこころ」と検索すると、大人や子どもが電話やLINEなどで相談できるさまざまな窓口が案内されています。

電話での主な相談窓口は
▼「よりそいホットライン」が0120-279-338
▼「こころの健康相談統一ダイヤル」が0570-064-556となっています。

また、電話での相談がしづらい場合は、LINEやチャットを使った相談窓口もあります。