人手不足に悩む企業 解決のカギはどこに?

需要はあるのにこれ以上の増産には踏み切れない…。いま、多くの企業の経営者がこのような悩みに直面し、頭を抱えています。コロナ禍からの経済活動の正常化が進み、ようやく明るい兆しが見えてきた日本経済。一方、足元では慢性的な人手不足が企業の大きな課題となっています。

“うなぎパイ”の需要回復 工場はフル稼働も…

静岡県浜松市にある菓子メーカーでは、土産物の生産量がコロナ禍前を上回る水準まで戻った一方、人手不足からこれ以上の増産には踏み切れないでいます。

「うなぎパイ」を製造する「春華堂」は、2019年には1か月あたりおよそ600万本を生産していましたが、コロナ禍で需要が減少し、生産量は半分の月300万本ほどにとどまっていました。

その後、徐々に人の移動が活発になって土産物の需要も高まり、新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行したあとは生産量が2019年を上回る水準まで戻っていて、現在、工場はフル稼働の状態だということです。

一方、コロナ禍で生産体制のスリム化を図ってきたため、これ以上の増産を行うには人手が不足していて、土産物フェアなどへの参加を見合わせることもあるということです。

ブランド戦略室の高橋睦美さんは「帰省などの際に購入してもらえる機会が増え、売り上げも伸びてきているが、今は需要を完全にとらえきれていない部分がある。今後は人員を徐々に戻していきたい」と話しています。

ホテルの利用客数も回復 しかし…

金沢の人気の観光地「近江町市場」近くにあるホテルでは、外国人観光客も含め利用客が戻ってきましたが、必要な人手が確保できずサービスを一部制限しながらの営業が続いています。

金沢市の人気の観光地「近江町市場」近くのホテルではおよそ200ある客室が満室になる日もあるなど、利用客数はコロナ禍前に近い水準まで回復しています。

その一方で、ホテルがいま頭を悩ませているのが人手不足です。

新型コロナの影響で去年まで2年連続で従業員の新規採用を見送り、この間に退職した人もいたため、コロナ禍前に100人ほどいたスタッフは、およそ80人に減っています。

ホテルでは給与水準をコロナ禍前より2割ほど上げて求人を出していますが、必要な人手を確保できていない状況だということです。

このためホテル内のバーや懐石料理店の営業は団体の予約があった場合に限定しています。

「金沢ニューグランドホテル」の中田鉄夫マーケティング部長は「体制が整わず苦しい状況です。働きたいという人の応募はありますが、まだまだ足りていません。人手不足はどこのホテルも一緒なので人材の獲得競争も厳しく感じます」と話していました。

宮崎市のタクシー会社「運転手が足りない!」

宮崎市にある繁華街「ニシタチ」では、最近、タクシーがつかまりにくいという声が聞かれます。

週末にニシタチによく飲みに出るという20代の男性は「タクシーがとまってくれず、予約の電話をかけてもつながらない。コロナ禍前よりタクシーが少なくなったと思う」と話していました。

別の男性は「本来なら日付をまたぐぐらい楽しみたいが、最近はタクシーがまだつかまりそうな時間に切り上げたりする時もある。なかなかつかまらず不便だ」と話していました。

宮崎市に本社を置く県内で大手のタクシー会社では、5月時点で運転手の数が309人と、コロナ禍前の2019年と比べて80人ほど減っています。

以前から若いなり手が減っていたものの、コロナ禍で激減し、退職者分の補充もままならなかったということです。

このため運転手が足りず、動かせる車両の数は2019年の同じ時期より2割ほど減っています。

特に配車の依頼が集中する週末の夕方以降の時間帯には、予約の電話が入っても断らざるをえないことがたびたびあるということです。

この会社では、インターネット広告や説明会を通じて募集をかけているもののの、応募は少ないということです。

会社の取締役は「乗務員不足は非常に痛手だ。最近は需要が戻りつつあり、週末の夕方や雨の日などは配車の依頼が集中するが、動かせる台数に限りがあり、要望に応えられない時もある。なんとか乗務員を確保していきたい」と話しています。

【人手確保に向けたさまざまな取り組みも】

“人への投資”を強化

北海道では、北海道新幹線の札幌延伸に伴う再開発などで、札幌圏で住宅や商業施設の建設が相次いでいるほか、建設業界では来年4月から時間外労働の上限規制が始まります。

このため北海道の建設業界では人材の獲得に向けた競争が激化しています。

建設資材の高騰で経営環境が厳しさを増す中、“人への投資”を強化することで人材獲得を目指す動きが出ています。

このうち社員およそ250人が働く札幌市東区の建設会社では今年度、定期昇給とベースアップを合わせて5%の賃上げを行ったほか、大卒の初任給を5000円余り引き上げました。

さらに、今年度からは奨学金を返済している社員に対し毎月1万2000円を支給し、返済を補助する新しい制度を設けました。

すでに10人の社員がこの制度を利用しているということです。

建設会社の「中山組」の眞鍋俊行専務は「昔は求人を出せばある程度、人材が集まったが、今は本当に厳しくなっている。中途採用も募集しているがなかなか集まらない。人材獲得に向けて給料面と福利厚生の面でさまざまな積み重ねが大事になってくる」と話しています。

工場の自動化に踏み切る動きも

福岡県朝倉市に本社を置く「オーケー食品工業」は、創業以来56年間豊かな地下水も利用していなりずしなどに使う味付けの油揚げを製造しています。

国内に10か所の営業拠点を構え、従業員はおよそ400人に上りますが、求人を出しても必要な人数を確保できないなど、慢性的な人手不足が課題になっていました。

そこで、この会社が踏み切ったのが、積極的な設備投資による工場の自動化です。

会社の年間の売り上げの半分ほどにあたる43億円を投じて新たな工場を建設し、去年からフル稼働させました。

これまでは生産ラインのポイントごとに従業員を配置して目視でチェックしたり、人手を介して生産ラインから別のラインに加工品を移し替えたりしていましたが、新工場では大幅に労力を減らせた上、24時間化も実現できたということです。

会社を取り巻く環境は、原料の大豆や食用油の値上がりに円安も加わって、厳しさを増していると言います。

自社の努力だけではコストの上昇分を吸収できないため、取引先と交渉して値上げを受け入れてもらっているということですが、会社では“攻めの投資”によって生産を一段と効率化し、収益力を高めていきたいとしています。

オーケー食品工業の秋山雅彦工場長は「かなりのところまで自動化できたが、製品の検査はまだ人の目に頼っている。この部分の自動化とAI=人工知能の導入が今後欠かせないと考えている」と話していました。

専門家「設備投資で対応を」

こうした状況ついて、マクロ経済に詳しい専門家は以下のように話しています。

SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミスト

「日本経済が回復軌道に乗る中で、人手不足でビジネスの機会を逃してしまい、需要に対応できないということになると、今後、企業として先細りになってしまう。そこをいかにクリアしていくのかが重要です。賃上げによる人手の確保が必要だが、日本経済全体で考えると取り合いになってしまい必要な人材を確保できるかがわからない。したがって生産性を上げていくことも必要になります。AIを含めて生産性を上げていくための設備投資に真剣に取り組み、人的資源の量を減らしていくという流れだと思います」