Web3.0の“寵児”「ビジネス界で大谷翔平のような存在に」

Web3.0の“寵児”「ビジネス界で大谷翔平のような存在に」
「僕らの世代、僕らの時代でもう一度、トヨタやソニーのレベルの企業を作らないと日本経済はいつまでたってもよくならない。起業家って、それに対してアクションを起こせる職業だと思うんです」

今世界で注目を集める若き日本人起業家がいます。スタートアップ企業「Stake Technologies(ステイクテクノロジーズ)」の創業者・渡辺創太さん、27歳。経済誌「フォーブス」アジア版の「世界を変える30歳未満30人」にも選ばれ、現在のインターネットを補完する“Web3.0”の実現に取り組んでいます。見据える未来をインタビューで語りました。
(経済部記者 永田真澄)

Web3.0とは

Web3.0(ウェブスリー)とは、暗号資産などですでに実用化されているブロックチェーン技術を使い、現在のインターネットを補完する次世代のネットワークの概念です。

その特徴は、特定の事業者にデータや価値が中央集権的に集中せず、誰でも情報の管理に参加できること。
現在のインターネットの世界(Web2.0)は、GoogleやAppleなどのGAFAと呼ばれる巨大なプラットフォーマーがいわば“支配”し、その不透明さが課題となっています。

これに対して、Web3.0は無数の参加者がデータを分散して管理するブロックチェーン上に構築されるネット空間。透明性が高く改ざんもできないブロックチェーンの特性をいかすことで、デジタル空間上に新たな経済圏が誕生するとも言われています。

ただ、現状では、ブロックチェーンが数多く乱立し、互いに連携もされていません。例えば特定のブロックチェーン上で購入したNFT(非代替性トークン)をほかのブロックチェーンを使っている人と取り引きできないなど、相互運用の仕組みも不十分です。

ユーザーにとっては利便性が低く、今のままではとてもインターネットに置き換わるネットワークにはなりえません。

世界を飛び回る若き起業家

スタートアップ企業「Stake Technologies」の創業者・渡辺創太さんは、このブロックチェーンどうしをつなぐプラットフォームをつくろうとしています。
渡辺創太さん
1995年 神奈川県生まれ
慶應義塾大学経済学部を休学中にシリコンバレーの企業でインターンを経験
帰国し、大学卒業後の2019年に日本で起業
現在、渡辺さんは世界22か国に点在するおよそ50人の社員を率い、その開発にあたっています。

みずからはシンガポールに拠点を構え、エンジニアなど技術系の人材はヨーロッパ、マーケティング担当はアメリカを中心に編成し、文字どおり世界を飛び回る生活だといいます。

ただ、ブロックチェーンどうしをつなぐには技術的な高いハードルがあります。このプラットフォームは、さまざまなブロックチェーンをユーザーが意識することなくつなげていくハブのようなイメージです。
ブロックチェーンの仕組みは、複数のコンピューターによる大量の計算が必要で、トランザクションと呼ばれる取り引きデータが増えすぎるとシステムの処理性能が追いつかなくなって処理に時間がかかる「スケーラビリティ問題」と呼ばれる課題があります。

そうした、いわば“弱点”を持つブロックチェーンどうしをつなごうとする場合、情報漏えい対策やセキュリティの確保など、大きなハードルがいくつもあります。

渡辺さんはそれを解決するアプリケーションのプラットフォームを開発することで、Web3.0の実現を目指しています。
渡辺創太さん
「新しい技術の領域で今後10年での大きな波って、Web3.0とAIだと思うんですよね。今のブロックチェーンは、ユーザーがサービスごとにどのブロックチェーンにデプロイ(展開)されているかを意識しないと使えないんです。将来的には、ブロックチェーンを意識せずにだれもがWeb3.0を使っている世界観。今のインターネットのような世界観にしていかないといけないなと思っています。そのためのプラットフォームを日本発で作っていきたいんです」

大谷翔平選手のような存在に

実はいま、日本は大きな追い風を受けていると渡辺さんは言います。

Web3.0業界は2021年から2022年にかけて世界的に爆発的な盛り上がりを見せましたが、2022年11月にアメリカの暗号資産の交換業大手「FTXトレーディング」が経営破綻すると、状況が一変。
リスクが顕在化したことで、これまで業界をけん引してきたアメリカを中心に各国で勢いが衰え、当局も規制強化の構えを見せています。

Web3.0は「冬の時代」を迎えたとも言われます。

しかし、そんな中で例外的なのが日本だといいます。日本の大手企業が続々とWeb3.0への参入を表明。渡辺さんの会社は、NTTドコモ、ソニー、博報堂との協業を始めています。

今こそ出遅れを挽回するチャンスだと言います。
渡辺さん
「野球で言うと、4番バッターはずっとアメリカで、日本は6番バッターとかだったんです。それでずっと三振してたんだけど、最後に9回裏満塁で日本に打順が回ってきたと。ここで見逃し三振するか、ホームランをねらうか。
僕は一起業家として、グローバルで勝っている企業とプロダクトを作って、日本からデファクト・スタンダートをとれるように頑張りたい。大谷翔平選手のような存在になりたいですね」

結果を出して 仕組みやルール作りにつなげる

その一方で、渡辺さんが日本ではなくシンガポールに拠点を置いたのは、日本に課題があったからだといいます。

起業当初は日本に会社を設立しましたが、税制などのルールがネックとなり、事業環境が整っていたシンガポールに移らざるを得なかったと言うのです。

渡辺さんの会社を含めて、Web3.0関連の企業の多くが自社で暗号資産を発行し、一部を取引所を通じて流通させています。

日本の税制では、発行して自社で保有する暗号資産は毎年、時価評価されて法人税として課税されます。売却せずに持ち続けて利益としては実現していないにもかかわらず、毎年課税されることが、経営上の大きな負担になるというのです。

このため、現実問題として日本で事業を続けることができなかったといいます。
渡辺さん
「純粋に悲しかったですね。別に悪いことをしようとしているわけではないじゃないですか。むしろ、クリアなルールがないが故に海外に出ざるを得なかったのは、ちょっと悔しかったです。
ただ、大事なのは、今ロールモデルを作ることだと思います。日本の状況は、新しいビジネスが出てこないと仕組みやルール作りにつながらないし、逆に、仕組みやルールがないから新しいビジネスが生まれてこない、“鶏が先か、卵が先か”なんですよね。
なので、僕みたいな若い人が海外でちゃんと結果を出して日本にフィードバックして、仕組みやルール作りにつなげるのが重要かなって思います。それができると、法律を変えるにしても、それが誰のためになって、どんなビジネスにつながるかという議論ができるようになる。
僕のあとに続く今の10代の人とかが、何か日本で新しいサービスをやりたいってなった時にそれができる環境を作るのが僕の仕事かなっていうのはすごい思いますね」
渡辺さんら起業家の間からの声を受けて、今年度の税制改正でこの課税方法の見直しがようやく行われることになりました。

それでも日本のために

「日本発で世界に」「日本の存在感を高めたい」

渡辺さんが今でもよく語ることばです。

シンガポールに拠点を移してからも、日本国内でWeb3.0の構想を広めるための活動を続けています。
渡辺さん
「生まれてこの方、日本の経済は伸びてないし日本企業も元気がないじゃないですか。やっぱり悔しいです。日本経済は緩やかに死んでいると感じるんですよね。1年ごとに見ていると小さな変化ですが、10年、20年、30年で見ると明らかに国力は落ちています。
僕らの時代で、もう1度、トヨタとかソニーレベルの企業を作らないと日本経済はどうにもならないと思います。誇れる日本を取り戻したいですよね」

未来はどうなる?ではなく「未来を作る」

実は、Web3.0ビジネスに対応した法律やルール整備が遅れたことで、日本からシンガポールやドバイといった海外に日本人起業家が相次いで流出しています。

その数は、少なく見積もって50人以上とも言われています。

環境整備の遅れによって、目の前の大きなチャンスを逃すことは避けなければなりません。

日本の若者たちが目指す未来に対して、社会としてできることはまだまだあります。

Web3.0が実現するとどんな未来や社会になりますか?
質問に対して、渡辺さんは勢いよくこう答えました。
渡辺さん
「自分がどれだけ社会を動かせるか、そういう頭の使い方をしていますね。だから、未来はどうなると思いますか?とかじゃなくて、未来を作っている側なんで、頑張るしかないですね!」
経済部記者
永田真澄
平成24年入局
秋田局や札幌局を経て現所属
総務省や情報通信業界を担当