進むか“脱ランドセル”

進むか“脱ランドセル”
入学式には“ピカピカのランドセル”。

そんな風景が、今、変わりつつあります。

富山県立山町は、通学に使うリュックサックを新1年生に無償で配る全国的にも珍しい取り組みを始めました。

あなたはリュックサック派?それともランドセル派?

それぞれの思いを取材しました。

(富山放送局記者 橋本真爾)

新しい入学式の風景

4月7日、富山県立山町の立山中央小学校で開かれた入学式。

保護者に付き添われ、新1年生がランドセルを背負うおなじみの風景のなか、見慣れないリュックサック姿の子がいました。
大手アウトドア用品メーカーが製作した通学用のリュックサックです。

町が、ランドセルに代わるものを作ってほしいと企業を募ったところ、このメーカーが選ばれ、開発されました。

今年度から少なくとも3年間、町立の小学校に入学するすべての児童に無償で配布されることになっています。

保護者からは、歓迎する声が聞かれました。
保護者
「無料で提供して下さったのでそれで即決です。軽いしかっこいいし、これで十分」
保護者
「ランドセルもいい値段するので、無料でもらえるのならそちらを使います。ランドセルのほかに買うものはいっぱいありますから」

「子どもたちにさみしい思いをさせたくない」

子育て支援の一環で始まったリュックサックの無償配布。

背景にあるのは、年々上昇しているランドセルの購入価格です。
かばんメーカーでつくる日本鞄協会ランドセル工業会が、令和4年度に小学校に進学した児童のいる全国の保護者1500人に聞いたアンケート調査では、購入したランドセルの平均価格は5万6000円余りで、4年前と比べておよそ4000円上昇していました。

祖父母が購入した割合がおよそ55%を占め、孫への入学祝として装飾が付いたものや高価な素材でできたランドセルが選ばれる傾向にあるほか、少子化で子ども1人にかけられる費用が増えていることが要因とみられています。
立山町 舟橋町長
「ランドセルを手に入れるのに苦労されている家庭がある。それなら、リュックサックをすべての児童に配ることで保護者が助かるのではないかという思いで始めた。子どもにさみしい思いをしてほしくない。経済的に余裕のある家庭は、ランドセル以外の自転車やヘルメットなど子どもの生活や学びに使ってもらえれば」

随所にアウトドア用品メーカーのノウハウ

町の提案から生まれたこのリュックサックは、ランドセルと同じA4サイズが収納でき、ナイロン素材のため本体の重さがおよそ930グラムと従来の皮革製のランドセルと比べてとても軽いのが特徴です。

アウトドア用品メーカーとして培ったノウハウも盛り込まれ、防水性や耐久性にすぐれた素材が採用されているほか、持ち手を大きくして開閉のしやすさや、荷物の入れやすさにもこだわりました。

ランドセルを連想させるデザインと機能性の高さから、全国から購入を希望する声が多く寄せられ、去年12月に一般に発売されましたが、注文が殺到し生産が追いついていないなど大きな反響を呼んでいます。
大手アウトドア用品メーカー 辰野会長
「自分たちの欲しいものを作ろうというコンセプトのもと、試行錯誤を繰り返して随所に工夫を凝らした。これまでメーカーが取り扱ってきた専門分野とは切り口が違うところで、われわれのノウハウを生かせることは非常にありがたい」

根強いランドセル人気

一方で、配布されたリュックサックではなく、ランドセルで登校した児童も多くいました。

取材した立山中央小学校の入学式では、全体のおよそ7割がランドセルでした。
ランドセルに憧れていたという女の子。

「ランドセルを買ってあげたい」という親。

思いはさまざまです。
保護者
「子どもがランドセルを気に入って一目ぼれして、これがいいってずっと言っていたので。私たちの時代はずっとランドセルだったので、懐かしいなという思いと、やっぱりかわいいなという思いが湧きます」
保護者
「おばあちゃんに買ってもらったランドセルです。日によってランドセルにしたりリュックサックにしたり、変えてもいいかなと思います」
実は、小学校で使うカバンは、法令や学校の校則などでランドセルでないといけないと決まっているわけではありません。

学校教育に詳しい千葉工業大学の福嶋尚子准教授によりますと、多くの学校で行われる入学前の保護者説明会で、「ランドセルにはこれを入れてきて下さい」とランドセルが前提になって話が進んだり、両親や祖父母が「ランドセルは誰が買うか」などと相談したりしたことで、固定観念として全国に広がっていったということです。

また、ランドセルに代わるかばんを配布した自治体はこれまでもありましたが、配布したカバンしか使えないとしたことで、「家族で選びたかったのに」とか、「お祝いだからこちらであげたかったのに」という声が出て、保護者に受け入れてもらえなかったケースが多かったとのことです。
千葉工業大 福嶋准教授
「ランドセルが文化として根付いているため、保護者が選べる自由を奪うと、受け入れてもらえないと考えられる。そうした意味で、立山町の今回の取り組みは、配布したリュックサックの使用を限定せず、“ランドセルを使ってもよい”としたところが、ランドセルの特殊な性質を理解したいい取り組みだ」

多くの自治体で導入の動き

立山町から始まったリュックサックの無償配布事業は、その後ほかの自治体にも広がりを見せています。
長野県駒ヶ根市と山形県村山市も同様に、この春の新入生にリュックを無償で配布。

さらにメーカーには、全国の20近い自治体から問い合わせが入っているということです。

ランドセルメーカーの受け止めは?

こうした動きを受けて立つ形となるランドセルメーカー。

県内のランドセルメーカーからは、市場の多様化は当然の変化で、選択肢が増えることは歓迎されるべきとの声が聞かれました。

ランドセルも時代によって改良が進み、今では1キロを下回る軽い商品や2万円ほどの比較的手ごろな値段で購入できる商品も販売されています。

また、大阪市内のメーカーはことし、定額で好きなランドセルを選べる、いわゆる「サブスクリプション」のサービスを始め、話題になりました。

取材を終えて

今回の立山町の取り組みは、ランドセル以外の新たな選択肢としてリュックサックを具体的に提示したことや、無償配布することで、子どもの生活や学びにより多くの資金を充てられることから、大きな意味があると言えそうです。

リュックサックが今後、広がりを見せるか注目されますが、なによりも、ランドセルでもリュックサックでも、子どもがお気に入りのカバンを背負って楽しく通学できることが1番大切だと感じました。
富山放送局記者
橋本真爾
2016年入局函館局と小樽支局を経て現在は富山局
経済を中心に遊軍担当