進む“宇宙農業”

進む“宇宙農業”
ことし夏に起きた「過去500年で最悪」とも言われるヨーロッパの記録的干ばつ。さらに日本でもたびたび台風や記録的大雨による農業被害が起こっています。食料の確保が世界的な課題となる中、新しい技術による食料生産のさまざまな研究が行われています。
今回は農業に関する最新の研究についてです。

問題に挑戦!

問題
写真は新しい技術を使った野菜栽培の様子です。
このような野菜栽培が行われることについて、どのような利点が考えられますか。

(桜美林中学校 2022年 社会 改題)
写真は土を使わない水耕栽培で、野菜を育てる植物工場と呼ばれる施設です。

解答例は「人工的な施設で生産するため生産量や品質を均一に保つことができる」といった点などがあげられます。

こうした植物工場などの農業に関する研究が行われる中、なんと今、「月面での農業」の研究も進んでいるんです!

進む宇宙開発「食料調達」が課題に

11月16日、月までの試験飛行を行う無人の宇宙船を搭載した大型ロケットが打ち上げられました。
2025年を目標に宇宙飛行士の月への着陸を目指す国際プロジェクト「アルテミス計画」の第一歩で、将来的には「月面基地」の建設も見据えています。
アメリカが中心となり、日本も参加するこの計画。
月面での長期滞在が現実味を帯びる中でその先にあるのが食料調達の問題だといいます。

宇宙での食料生産について研究する千葉大学教授の後藤英司さんに聞きました。
後藤さん
「地球から農作物など、いろいろなものを全部持って行くのはとても大変なので、食料の現地生産が必要になる。食用作物などを栽培して、それを月の居住者が食べることが求められている」

「月面農場プロジェクト」とは

そこで発足したのが、月で食料生産を行う「月面農場」プロジェクトです。
各国でこの分野の研究が進む中、日本でも2021年から国が主導して動き始めました。
民間企業や研究機関などが参加していて、後藤さんはサブリーダーを務めています。
どんなプロジェクトなんでしょうか?
後藤さん
「地下に農場を作って、そこで主食となるイネ、大豆、ジャガイモや副食となるトマト、イチゴ、キュウリ、レタスなどを狭い空間で育てる研究を行っている」
こちらが、月面農場のイメージ図です。
イネや野菜を栽培する植物工場のような施設に100人規模が生活することを想定した居住空間も設けられています。
建設されるのは月の表面ではなく月面を掘り進めた地下です。
月はほとんど大気がないため太陽の放射線が直接降り注ぎ、昼と夜の温度差も大きいので地下に基地を作る計画が検討されているのです。
月の厳しい環境でも、イネがきちんと育つのか。
後藤さんは今、国内で月を想定した「低圧栽培装置」を使い、繰り返し実験を行っています。

さらに宇宙空間での野菜栽培の研究も、すでに進んでいます。
去年、国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」で宇宙飛行士の星出彰彦さんが行ったのが「袋栽培レタス」の実証実験です。
後藤さん
「ぺったんこの袋に、種と肥料だけを入れて、食べたくなったときに宇宙船内の水を追加する。30日から60日ほどすると、袋の中で発芽・発根して、レタスが大きく育つ」
このレタスは、真空パックのようにして宇宙船に積むことができるので、月面探査時の食物の補給にも利用できると考えられています。
月面農場の研究は民間でも進んでいます。
プロジェクトに参加している愛知県のベンチャー企業はことし2月、月の成分に近い砂を加工した人工の土壌で、小松菜を栽培することに成功しました。
月の砂はそのままでは粒が細かいため、作物の成長に欠かせない微生物が住みつきにくく、農業には適していません。
この企業では微生物が活性化するよう砂を加工する独自のノウハウを探り当てました。
地球の土を運ばずに月面の砂を農業に適した土に変えることができるので、月面農場の道をひらく成果として期待を集めています。

“月面生活”の時代 すぐそこに!?

さまざまな形で進められている月面農場の研究。
私たちが月で生活できる時代が、すぐそこまで来ているのかもしれません。
後藤さん
「月面農場は、おそらく2030年代に小型のものができると思っている。さらに10年20年後に100人、1000人が滞在するようになったら、好きな農作物を育てて、それをレストランで食べて、みんなで楽しく生活していく。そういうイメージを持っている」
ちなみに、後藤さんに「宇宙で栽培した野菜の味は、私たちが食べているものと変わらないのですか」と聞いてみました。

後藤さんは「袋栽培レタス」の研究にも関わっていましたが、実はすべて実験用に使ってしまい、食べていないそうです。

ただ、成分を分析した結果では、味も栄養素も地上のレタスと変わらないとのことでした。
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