歌手になりたかっただけなのに…私がAV出演を語る理由

歌手になりたかっただけなのに…私がAV出演を語る理由
AV=アダルトビデオに出るつもりは、初めは全くなかったといいます。
しかし、街角で声を掛けられてからおよそ10か月でヌードに。
1年半後にはAVの撮影に臨んでいました。

歌手を夢見ていた大学生が、なぜ出演することになったのか。
同じ被害に遭ってほしくないと、体験を語ってくれました。

水着の撮影のはずが…

現在、30代前半の女性。
始まりは10年前、大学3年生のときでした。
東京都内の繁華街で芸能プロダクションの役員という男性から声をかけられたといいます。
女性
「名刺を渡されて『ある大手(プロダクション)の取締役です。グラビアできる子を探してるんだけど』と話してきて。断ったんですが、別の日に、また同じ人に同じ場所あたりでスカウトされて。『この前、音楽やりたいって言ってたよね、音楽デビューもさせるしボイストレーニングにも通わせるから、1回水着になってくれない?』と」
「信じ切っていたわけではなくて。でも本当にことばが巧みで、そのあとお茶したりして、一生懸命(私に)夢を語らせてきたりとか。大学の時にバンドのサークルにも入っていたので、22歳で最後のチャンスみたいな気持ちもあって」
このプロダクションの「所属タレント」として、雑誌のグラビアの面接に臨みました。
そこで話は思わぬ方向に進んでいったといいます。
女性
「『この子はヌードもできます』みたいな話をされてしまって。全然聞いてないんだけどなと思いながら、ちょっとにらみつけられる感じもあって、ここで断っちゃいけないという空気感も出されちゃって。
『できるよね?』って。
海外での撮影だったんですけど、週刊誌でデビューするということになって」
撮影は海外で行われたそうです。
当時の混乱する思いを、メモに書き留めていました。
女性
「初日の撮影日でした。なぜだかわかりませんが、涙が止まりません。自分の今、生きている方向性がわからないからです。芸能界でトーク番組を持ちたい!ということを社長に言ったのです。社長はまず脱ぐことだ、と言い、『あなたはエース』と言われ、今この状況にいます。
正直言うととても不安です。本当はやりたくないことだけど『ただグラビアというだけであれば頑張っても10年かかるよ、脱いだらすぐ売れるよ、時代は変わったんだよ』という軽いひと言を信じるしかない状況です」
街角で声を掛けられてから、10か月後のでき事でした。

脱ぎ損って知ってる?

アダルトビデオ出演の話は、ヌードの撮影を終えた直後から始まったといいます。
女性
「『脱ぎ損ってことば知ってる?』とか言われて」
「十何人とかに最終的に囲まれて、AVの話をしてくる。ちょっとそれ無理ですって泣き出しちゃう日もあって。事務所に行くたびに、重い気持ちになってくんですよね。呼び出されて、またあの話をされるのかなと思って。とにかく、それをやらないともう次の話はないよ、くらいのイメージで」
ヌード写真が販売されてから、大学の友達とは疎遠になってしまったという女性。
家族にも言えず1人で悩むうちに、やるしかないという気持ちになっていったそうです。
「電話でたまにどなられてたんですよ。『あなたさぁ、面接行った時に、あれもこれもできないとか言わなかった?』とか。怒らせないようにしなきゃっていうのと、『契約期間があるからやめられない』と言われちゃったというのもあったので。怖いっていうのが大きくなって。
あとは自己責任の気持ちでした。やっちゃったのは自分だしっていうこともあって。周りに相談しても、あんたが悪いんでしょってなるだろうなと」

撮影現場で起きたこと

事前に「できない行為」を決め、撮影現場でもできないと伝えましたが、撮影は続行されたといいます。
「あなた、これもできないの、あれもできないの、じゃあどうすんのと言われて。じゃあせめて、これやんないと帰れないからって。できません、できませんって言ってたんですけど、朝になっちゃうよ、と。みんな家族も子どももいるんだよって。みんな迷惑してんだよって言われて。やらざるをえなくなったという感じでした」

食い違うプロダクション関係者の主張

当時の活動に関わっていたプロダクションの関係者の男性に、女性の訴えをどう受け止めているのか聞きました。
記者
「はじめは水着という話がなぜヌード、AVに?」
関係者の男性
「事前にどういう話があったかはスカウトと本人の問題で、プロダクションとしては本人がAVをやるというので契約しました」
一方、女性は契約書にサインした記憶はありますが、その写しはもらえなかったと話しています。
また、出演料について具体的な説明を受けた覚えがなく、撮影後にスカウトの男性から5万円が支払われたといいます。

この件についても尋ねました。
関係者の男性
「契約書は渡しているはず。出演料も口座に振り込んだ。振り込みの記録もあった」
記者
「それを見せてもらえますか?」
関係者の男性
「会社がその後売却され、当時の社長もいないので、いま手元にはないです」
記者
「強いことばでAV出演を説得されたり、どなられたりしたと話しています」
関係者の男性
「すべて合意のうえで、契約も撮影も強要はしていない。声を荒げたりは一切していない。やりたいと言うから営業していた。AVの撮影でのことは、現場に行っていないからわからないが、その後、AVメーカーの面接にも一緒に行っている。嫌なら普通一緒に行かないですよね」

誰かが言わなければ、救われない人がいる

出演後、しばらくは忘れようと考えていたという女性。
しかし、ネットでの転売や、動画を切り取った写真が掲載されているのをたびたび目にしました。

支援団体に相談すると、女性の証言や販売されているAVなどから、出演のさせ方に問題があったとして、メーカーなどに販売の差し止めを要請することになりました。

販売は取りやめになったといいます。
女性はその後、同様の被害を苦に自殺した子がいるという話を聞いたことがきっかけで、自身の体験を社会に広く伝えることを決意しました。

ユーチューブで使っている「くるみんアロマ」という名前で、顔も出して訴えています。
くるみんアロマさん
「今後、自分だけじゃなくて、もし仮に子どもができたとしても言われるだろうなと思うし。そうなってくると、もう本当に一生負っていかなきゃいけないみたいな気持ちはあります。
これからを生きる子たちが、ちょっとした過ちで、そういうことをやってしまって、となるのは、本当になんか、苦しいなって思いますね。誰かが言わなければ、救われない人たちもたぶん、多いと思うんです」

個人で撮影 あふれる“同人AV”

さらに問題は複雑化していると訴える人もいます。
「フラフラしている時に声をかけられて。普通のおじさんでした。
裸の写真とか見せられて、こういうの撮ってるんだけど2万でどう?と」
こう話す22歳の女性。
4年前、街で声をかけてきた見知らぬ男性に、性行為を撮影されました。

女性は幼いころから父親の虐待を受け、当時は都内の繁華街が居場所だったといいます。
女性
「住む場所もない中で、ネットカフェにいたので。なんかもう、無理、死にたい、何やってもいいやって。20歳で死のうと思っていたので。自分を裏切ってきたというか、助けてくれなかった大人になりたくなかった。
この先、生きてるかわからないんだったら、目の前の2万とったほうがいいのかなって」
男性は性的な動画の投稿サイトを見せ、そこに載せると話したそうです。

プロダクションなどではなく個人が撮影・制作した動画は、「同人AV」「個撮(こさつ)」などと呼ばれます。

男性は、広告などで収益を得る目的だったとみられますが、本当に載せたのか、今どうなっているのか、全くわからないといいいます。
女性
「調べようとは思ったんですけどサイトの名前も、背景くらいしか覚えられてなくて。どこにあるのか、そういうサイトがありすぎてわからない。撮った人の情報は何も知らないので、動画の削除を求めることもできていないです。当時より今のほうが恐怖心はありますね。電車の中や街なかで、隣の人が知っているかもしれない、見ているかもしれないっていうのは…」
女性はその後、支援団体とつながり、今では悩みを抱える若者の相談に応じる側になりました。
「同人AVの相談がすごく増えてしまっていて。女の子たちや男の子もですけど、中にはたぶん撮られているの知らないよねっていう映像もあったりして。あとは、マスクだから大丈夫だよ!と言ってるらしくて。やっぱり、そういう子たちの未来を守りたいというか」
「強要されたとなるとかわいそう、となりますが、そうじゃないと同意したんでしょ、と自己責任論にすぐなりますよね。でも出演被害というのは未来にあるのに。その時は同意した。けれど、10年後20年後30年後にもデジタルタトゥーは消えないし、すぐ顔バレ身バレする。それに、就職や結婚、子どもができた時に気付くのかなと思ってて」

私が決めたから、と悩み続けて

体験を語ってくれた女性は2人とも「自己責任」ということばを使いました。
確かに、AVの出演をめぐるトラブルでは、出演した側の責任を問う声があります。
しかし、話を聞くと彼女たちだけの責任ではないと思わずにはいられません。

国はことし6月、こうした被害を防止・救済するため、新しい法律をつくりました。

AVへの出演で不安や悩みなどを抱えた場合は、契約書を交わしていてもやめることができます。
動画の販売や配信も止めることができます。

もし今、あなたが悩んでいるなら。
法律で救済されるケースがあることを、知ってほしいと思います。
(ネットワーク報道部 柳澤あゆみ)