AV出演被害防止・救済法を詳しく解説 裸の映像どう消せる?

AV出演被害防止・救済法を詳しく解説 裸の映像どう消せる?
ことし6月に施行されたAVの出演によるトラブルに対応する法律。
出演契約はやめられるってどういうこと?
個人で撮影しネットに投稿された動画は消せるの?

新しい法律でできることを専門家に聞きました。

目次

※項目をクリックするとその場所に飛びます

ネットに拡散する性的動画AV、リベンジ、パパ活…

東京都内で活動するNPO法人「ぱっぷす」。
ネット上に性的な映像をさらされた人などの支援を行っています。
深夜の繁華街に出向き、若者に声をかけるのも活動の1つ。
そのとき見せるのがこのチラシです。
「飛びたい、辞めたい、消したい」

つらい現状から逃げ出したい、今の生活を変えたい、そして、裸などネットに流出してしまった映像を消したい…。
もしそうした悩みがあれば相談にのるよ、というメッセージです。

最近、多いのは「消したい」を選ぶ若者。
個人で撮影した映像がネット上で拡散したケースが多いといいます。
NPO法人ぱっぷす代表 金尻カズナさん
「パパ活などで撮影に応じたものや性風俗産業に従事している方が知らない間に撮られたものが、アダルト動画としてネット上に拡散してしまうという被害が頻発しています。
そこには児童ポルノもあり、アダルトビデオもあり、リベンジ動画※も含まれています」
※交際相手などの裸の映像を流出させたもの
新しい法律では、個人で撮影した映像であっても、法的根拠をもって投稿者やプロバイダなどに強く削除や配信停止を求めることができます。

法律ができてからは、削除の要請をすると、ネットから映像が消えるのが早くなったと感じているといいます。
金尻さん
「これまでは“お願いベース”で削除を要請してきましたが、今回法律が整備されたことによって、かなり強力な抑止力として使うことができるようになりました。ゲイビデオも含まれることになるので、男性の被害者も救済されると思います」

新たな法律でできること 無理やりかどうかは関係ない

新たな法律では、出演者に大きく2つの権利を認めています。

1.出演契約は、やめることができる
2.AVの販売や配信の停止を請求できる

嫌だったのに無理に出演させられたという場合だけでなく、そのときは出演してもいいと思い、みずから契約した場合も対象となります。
また、個人で撮影した動画が公開された場合にも対処できます。

当初は、出演を強いられたことによって起きた問題と受け止められがちでした。
しかし、そうでないケースでも、意図せず映像がネット上に流出したり、周囲の人に知れ渡ったりするなど、悪影響は起こることがあります。

このため出演の経緯に関係なく、やめたいと思った時にやめる権利が保証されています。
【詳しく】
1.出演契約は、やめることができる
AVの出演契約は、無条件で解除できる期間が設けられています。
現在は、映像が公表されて2年間で、2025年6月以降は原則1年になります。
またこの期間を過ぎても、契約や撮影のしかたに問題があった場合は一定期間、解除ができます。
これは、法律が施行された6月23日以降に結んだ契約が対象です。

2.AVの販売や配信の停止を請求できる
契約をやめた場合には、制作会社などに映像の販売停止や削除を求めることができ、請求を受けた側は応じなければなりません。
この権利は、法律ができる前に結んだ出演契約でも、使える場合があります。
具体的には、撮影を強要したり、いつまでも販売を続けたりして性をめぐる尊厳が損なわれているような場合で、契約自体が無効となるときは、販売などを停止させられます。
また、ネット上に投稿した人に連絡が取れない場合などには、プロバイダに対応を求めることもできます。

映像が拡散する前に!こんなケース、やめられます

ここからは、法律がどう使えるのか具体的なケースをもとに内閣府の担当者に聞きました。

もしあなたが今、撮影を迷っているなら。
そこで一度、立ち止まることができます。
Case1・「いいバイトがある」行ってみたらAVだった
駅前で話しかけてきた人が親切そうだったのでSNSのアカウントを交換した。一人で寂しいときなど、SNSで相談にのってもらうようになった。
「お金がない」と送ったら「いいバイトがあるよ」と返事があり、行ってみたらAVの撮影だった。
◎法律でできること
法律では契約書を交わして具体的にどのような行為を撮影するのか事前に説明することが義務づけられているため、事前に知らせていない場合は、取り消しができます。
また契約から1か月たたないと撮影してはいけないため、現場に行ってその場でAVの契約をさせられ、撮影されたという場合でも契約を解除できます。
Case2・アイドルとして活動するはずだった
アイドルになりたくてタレント事務所に応募したら、すぐにオーディションに来るように言われた。「仕事が決まったよ」と言われたが、その仕事はAVの撮影だった。
◎法律でできること
AVであることを隠して契約していた場合は、その契約は取り消すことができます。
またテレビ出演など一般的な芸能活動のマネジメント契約の中にAV出演が入っていたとしても、いつどのようなものに出演するのか特定していない場合は、AV出演の義務を課す条項は無効です。
Case3・断りたくても断れなかった
AV出演することになったが、怖くなったので断ろうとすると「もうオーディションが決まってしまった。行くだけ行って断ればいいよ」と言われて、オーディションを受けたら「まさか、今から断らないよね?」と言われて、出演を断れなかった。
◎法律でできること
うその説明をしたり、ことばや行動で威圧するなどして出演者がどうすればいいのか分からないような状況に置いたりして、契約解除を妨害することは禁じられていて、罰則が科される可能性があります。
こうした違法行為があった場合は、再び契約の解除を申請すれば解除することができます。

そもそもAV出演被害って何?

この問題が注目されるようになったのは6年ほど前。
NPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」が、AV出演を強要される被害が相次いでいるという報告書を出したことでした。

主にタレントやアイドルを目指す女性と、プロダクションとの間の問題を指摘しています。
報告書の制作に携わったNPO法人ヒューマンライツ・ナウ副理事長 伊藤和子弁護士
「芸能界で活躍する第一歩と言ってAVに出演させるのは、典型的な形です。社会経験のない若い女性と業界の人という力関係の中で選択させられる。これは広い意味での出演強要にあたります。
ただ、現在は強要にあたるかどうかは問題ではなくなってきています。出演する本人の判断力や、出演によってもたらされる結果についての告知が十分ではない中で意思決定させられること。これを被害と捉えていく必要があります」
こうした指摘を受け、AV業界は5年前に第三者機関「AV人権倫理機構」を設置し、対策を進めています。
トラブルを防ぐため、契約書の説明などを徹底する、20歳未満の出演は原則避けるといった自主ルールを定め、制作会社などに守るよう呼びかけています。

機構では「今後も改善を重ねていく。新しい法律についてもしっかり対応していく」としています。

消せるとはいえ…デジタルタトゥーの怖さ

性的な映像をさらされた人などの支援を行っている「ぱっぷす」。

法律によって映像が消しやすくなったとは言え、すべてが消せるわけではないといいます。
個人で撮影した動画は、撮影者の連絡先がわからないと、どのサイトに載っているのかもはっきりせず、そもそも削除の要請ができないのです。
金尻さん
「個人で撮影したものは掲載されたサイトを探すのも大変ですし、簡単にダウンロードできてしまうので知らないところでまた投稿され拡散が続くこともあります。完全に消すことが難しいデジタルタトゥーなので、気をつけてほしい」

どうか、1人で抱え込まないで

ことし5月、AV出演被害防止・救済法をめぐる会見で、支援者の1人はこう訴えました。

「AVに出演した女性は、契約した自分が悪いと自分自身を責めてきました。そうすることしかできなかった人が、相談してもいい立場なんだと知ってもらえる、声をあげられる法律になってほしい」

このひと言から、今回の取材は始まりました。

実際に出演した人や支援団体の取材を通して、AVに出た人の中には後悔し、苦しみ続けている人がいること。
その苦しみを取り除く方法が、非常に限られていることを知りました。

今回の法律を批判的にとらえている人たちもいます。
これまで支援を続けてきた団体の中には、金銭を伴う性交渉を合法化するものではないかと懸念を示しているところもあります。
またAV業界で働く人たちの中には、法律の規制が厳しいせいで仕事の機会を失ったと訴えている人もいます。

ただ、ひとつ確かなのは、出演したことで、いま苦しんでいる人がいたら、頼ることができる法律だということです。

1人で抱え込まず、諦めずに、相談してみてください。

この法律が使えないか、別の方法で苦しさを取り除くことができないか、一緒に考えてくれる人たちがいます。

相談窓口はこちら

◎性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
全国共通ダイヤル #8891
(ネットワーク報道部 柳澤あゆみ)