【現地は今】キエフの1か月 ロシア軍“苦戦”の理由は

「ロシア軍の攻撃は日に日に近づいています。キエフは安全だと思っていましたが、そうではなくなったようです」

家族を国外に避難させ、今もウクライナの首都キエフに残る男性が語った街の様子です。

ロシア軍が強める攻勢。一方で最近はウクライナ軍が反撃に転じているという分析もあります。キエフをめぐるこの1か月の攻防からは、プーチン大統領の「誤算」がかいま見えてきました。

「誤算」の中身、“苦戦”の理由、詳しく分析します。

「ウクライナで また家族と一緒に」

ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1か月。
家族を国外に避難させ、みずからは首都キエフにとどまっているゲラ・トゥラベリーゼさん(50歳)がオンラインインタビューで今の状況を説明しました(取材は現地時間の3月24日)。

Q キエフ市内、今の状況は?
「今のところ一部のスーパーなどは営業しているので食料を確保できていますが、この状況が続けばいつまでもつかわかりません。市民は状況がよくならないことに疲れている様子です」

Q ロシア軍の攻撃は?
「自宅から2キロほどの場所で、きのうロシア軍が住宅街に向けて砲撃を行い、ガスのパイプも破壊され、多くの人たちが住む場所を失いました」
「侵攻後数週間は住宅街がねらわれることはありませんでした。ロシア軍の攻撃は日に日に近づいています。爆発音やロケット攻撃の音が毎晩夜通し聞こえます。キエフは安全だと思っていましたが、そうではなくなったようです」

Q いま、願うことは?
「ウクライナで、また家族と一緒に暮らしたい」

キエフをめぐる 1か月の攻防戦

ロシア軍は侵攻開始直後からキエフへの攻勢を強めてきました。
主にベラルーシを経由して南下し、キエフへ向かったとみられるロシア軍。
アメリカ国防総省の高官は当時「彼ら(=ロシア軍)は、ウクライナ政府を崩壊させ、自分たちの統治方法を確立するつもりだと考えられる」と指摘していました。
侵攻開始から約2週間後、ロシア軍はキエフ中心部から約15キロまで近づきます(アメリカ国防総省高官分析)。
最新の戦況については、キエフ北東方向から中心部まで20~30キロにいたロシア軍部隊が、約55キロの位置まで後退しているとみられます(アメリカ国防総省高官分析)。
イギリス国防省は、キエフ北東のロシア軍部隊が物資不足や士気低下といった深刻な問題に直面しているとしています。
ウクライナ軍がキエフ近郊の複数の町で反撃に転じ、北西のブチャやイルピンではロシア軍を包囲できる状況にあるとしています。

プーチン大統領の“誤算”

こうした状況から、この1か月はプーチン大統領の「誤算」がかいま見え、それを象徴するのがキエフをめぐる攻防だったと言えます。

(1) ウクライナ側の抵抗
(2) ロシア軍の準備不足
(3) ロシア軍の士気低下
(4) 通信内容も傍受される
(5) 戦力分散で膠着状態

この5つの要因から、「誤算」を詳しく読み解きます。

ウクライナ側の抵抗

アメリカのメディアは、ウクライナ軍が機動性のある小規模な部隊を構成し、戦力的に優位なロシア軍に対して待ち伏せや夜間の攻撃を仕掛けていると伝えています。

ウクライナ側にはアメリカなどの西側諸国から
▽戦車などの装甲を貫通する対戦車ミサイル「ジャベリン」
▽ヘリコプターや戦闘機などを撃墜できる携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」
といった兵器が供与されているといいます。
強力なミサイルを標的に向けて自動で誘導する精密兵器で、兵士が肩に担いで発射できる機動性も兼ね備えています。

都市部の戦闘では防衛する側が敵の侵入を待ち伏せすることができるため有利になるとアメリカの軍事専門家は指摘していて、ウクライナ側が供与された兵器を活用して効果的に侵攻を食い止めているとみられます。

ロシア軍の準備不足

ロシア軍の部隊は侵攻開始直後から、燃料や食料など作戦を遂行するのに必要となる物資の不足に悩まされ、進軍の遅れにつながっていると指摘されています。

アメリカ国防総省は、短期戦になると見込んだロシア軍が物資補給について適切な計画を立てていなかったと分析していて、現地では防寒具も不足し、一部の兵士が凍傷に苦しむなど戦闘ができない状態になっている兆候があるとしています。

ウクライナ側はロシア軍の前線部隊に補給を行う車両にも攻撃を仕掛けていて、ロシア軍の物資の不足は今も続き、部隊前進の停滞を招く一因になっているとみられます。

ロシア軍の士気低下

アメリカ国防総省によりますと、前線に送られた一部の兵士は、あくまでも“演習に参加するだけ”で戦闘に加わることを知らされておらず、ウクライナ側の抵抗に直面し、士気が低下しているとの情報もあるということです。

通信内容も傍受される

長期間に及ぶ侵攻を想定していなかったロシア軍は、広大なウクライナ領域をカバーできる通信環境を整えることができなかったと、アメリカメディアは当局者などの話として伝えています。

機密情報のやりとりも専用の無線通信システムではなく一般のシステムを使わざるをえなくなり、ウクライナ軍に通信内容を傍受されているとみられるということです。

戦力分散で膠着状態

ロシア軍が首都キエフや第2の都市ハリコフなど複数都市を同時に制圧しようとした結果、戦力が分散し、いずれの地域でも膠着(こうちゃく)状態に陥ったとの分析も専門家から出ています。

「ロシア軍 適切に計画立てたとは思えない」

「ロシアは第2次世界大戦以来、これほど大規模な作戦を行ったことがなく、作戦の規模に対して適切に計画を立てたとは思えない」
ロシア軍が予想以上に苦戦しているとみられることについて、アメリカ国防総省の高官はこう指摘します。

ウクライナへの侵攻当初は“圧倒的優勢”と思われていた、軍事大国ロシア。しかし現実はそのとおりにはなっていません。
それどころかウクライナは対戦車砲などの武器を最大限に活用し、多大な犠牲を払いながらも抵抗を続けています。

一方で、ロシア軍は「第5世代」と呼ばれる最新鋭の戦闘機や爆撃機など、強大な戦力を温存しているといいます。そして状況によっては核兵器を使用する可能性も排除しない姿勢を示しています。
ロシア軍とウクライナ軍による戦局は、予断を許さない状況が続いています。