あすのごはんが買えない・・・ 暮らしを脅かす“スーパー閉店”
今、全国でスーパーの閉店が相次いでいます。それによって買い物に往復1時間かかるなど都心でも“買い物困難者”が増えています。鳥取県では17店舗が一斉閉店し、16キロ先にしかスーパーがないという住民も。買い物が減ることで栄養が偏る、外出が減り引きこもりがちになるなど心身へのリスクも。スーパーと取引のあった業者や農家は売上が減り、地域を揺るがしています。財政支援に乗り出す自治体などの対策を追いました。
出演者
- 浅川 達人さん (早稲田大学人間科学学術院教授)
- 桑子 真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
“スーパー閉店”で買い物が困難に
桑子 真帆キャスター:
こちら、全国のスーパーの店舗数です。閉店するスーパーもある一方で、都市部などでは新規出店が相次ぎ、実は全体としてはスーパーの数は増加しています。
しかし、日常の買い物が困難になっている地域が広がっているのです。その可能性が高い地域を推計したものですが、赤い色で示したエリアは自宅から半径500メートル圏内にスーパーやデパート、コンビニなどの店舗がなく、さらに車を利用できない65歳以上の高齢者が多く住むと見られる地域です。色が濃いほど、その人数が多いことを示していまして、全国で数百万人に上ると見られています。
生活に欠かせない食材が手軽に買えない。そんな事態は東京でも起きています。
近所が閉店 数キロ離れたスーパーへ
東京郊外で暮らす85歳の本田さん(仮名)は、近くのスーパーが閉店したため、買い物は、およそ3キロ離れた大型スーパーに通っています。
4年前、両足の股関節を手術した本田さん。買い物ルートにある75段の階段は、休み休み上っています。歩きとバスで往復1時間以上かかるといいます。
本田さんの住む団地の中には1年前までスーパーがありました。肉や魚などの生鮮食品から日用品まで豊富な品ぞろえで、団地の住民1,600世帯の生活を支えていました。
しかし、2022年11月。
「やっぱりここ(スーパー)がないのは、いちばん困ります。(食品を)ここで買えたじゃない。きんぴらでも里芋の煮物でも、なんでもあった」
「お店を少しずつ縮小してでも残してほしかった」
本田さんが住む団地と、その周辺です。閉店したスーパーの先には、別のスーパーやコンビニエンスストアがあります。しかし、先ほどの階段に加え、長い坂道が200メートル以上も続き、買い物袋を持って往復するのはつらいといいます。
そのため、本田さんは最寄りのバス停まで歩いて向かい、バスに乗って、およそ3キロ離れた隣の県のスーパーまで買い物に行くのです。
「リュックが重かった。これだけ背負ってくるには」
宅配サービスやネットスーパーで食品を注文できると聞いていますが、これまで利用したことがないため、気後れがして不安だといいます。
遠くまで買い物に行くようになり、一度に買える食材の種類や量が減りました。
「(キャベツを)1個背負うのは重い。他の物を買ったら、これ(キャベツ)が4分の1になる」
食卓のおかずも以前とは変わってきました。
「食べるおかずの皿の数が少なくなった」
“スーパー閉店”で 家に閉じこもりがち
スーパーが閉店してから家に閉じこもりがちになったという人がいます。
本田さんと同じ団地に住む鈴木さん(仮名・82)です。2人の子どもは独立し、今は1人で暮らしています。この1年、人と話す機会が少なくなったといいます。
「この日、一歩も出ていない。外に出ずって書いてありますね」
「(スーパーがあった頃は)まず外に出ないことはなかった」
鈴木さんが家族でこの団地に引っ越してきたのは51年前。スーパーは団地の仲間と世間話をしたり、子育ての悩みを相談したりする情報交換の場でした。
「いちばんコミュニケーションを感じるところは、やはりスーパーです。外へ出て、そういうところでおしゃべりするというのは」
亡くなった夫との大切な思い出もあります。夫が家族に手料理をふるまおうと買い物に出かけたときのこと。
「ちょうど5000円札しかなくて、お父さんがカレーを作るというから『これで買ってきて』と。『海鮮カレーを作る』といって、5000円全部使ってこられました。子どもは喜んで食べましたが、私だけちょっと渋い顔で」
暮らしのそばにあった地元のスーパー。なくなった今、その存在の大きさに改めて気付いたといいます。
「若いときより歳をとってからの方が本当は必要、近くにスーパーが。いま、いちばん必要性を感じます、スーパーはね」
“スーパー閉店”なぜ都市部で?
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、買い物環境の変化による影響を長年研究している浅川達人さんです。
スーパーの閉店といいますと、そもそもの人口減少の影響、あとは大型店舗ができたことで、そのあおりを受けてというのはずっと言われてきましたが、いま見ると都市でも起きている。これはどうしてなのでしょうか。
浅川 達人さん (早稲田大学人間科学学術院教授)
買い物環境の変化による影響を研究
浅川さん:
大きく分けて3つぐらい原因があるかと思います。
そのうちの1つは、いまVTRで見ていただいたように団地という環境に要因があると思います。団地というところは、開発の時期に合わせて同じような世代のたくさんの人たちが大量に入居してきます。
そうすると、買い物のニーズの変化も一斉に変化するわけですよね。例えば、ファミリーで郊外のショッピングセンターに買い物に行くということを好むようになりますと団地のスーパーに行かないでそちらのほうに行くと。そういうことが大量の人数の中で行われる。そういう特性があります。
桑子:
そうすると、近くにあったスーパーのニーズが一気に落ちてしまうということになるわけですね。
改めてですけれども、買い物が困難になっている可能性が高いと見られる地域。先ほどもお見せしましたが、地図でお見せしようと思います。
赤く示しているところは半径500メートル圏内にスーパーなどがなく、さらに車を利用できない65歳以上の高齢者が多く住むと見られる地域ですが、これを見てどんなことが読み取れますか。
浅川さん:
大都市の郊外部において赤いところが広がっているのかなと見ることができると思っています。
郊外というところは、鉄道の駅のそばとかではなくて少し離れたところに住宅を構えるということが起きまして。そういう方々が、500メートル以内にお店がないところにも住宅を建てるということが郊外においては起きていますので、そういうところで高齢化が進行していきますと、今のような問題が起こると。そういうメカニズムかなと思っています。
桑子:
さらにもう一つ変化があるとすると、どういうことでしょうか。
浅川さん:
3つ目の変化は、例えば生鮮食料品を置いているコンビニエンスストアができたりとか、ネット通販といったものが普及してくる、そういったことが起きましてスーパーと競合してしまう。そういう新しい業態が出てきているということも要因として挙げられるかと思います。
桑子:
そうすると地元のスーパーがなくなってしまうということになると思うのですが、ネットスーパーとか宅配を使えばいいじゃないかという声もあると思うんですね。そちらに対してはどうでしょうか。
浅川さん:
そもそも、そういうものを知らない。そういうものの存在を知らないという方もいらっしゃいますし、また知っていてもやはり扱い方が分からないとか、レジでのやり方が分からないとか。
桑子:
注文票の書き方とか?
浅川さん:
そうですね。注文票を書くとか、マークをするとかといったことがとても難しいということがありますので、知っていても使えないということがあるのかもしれないなと考えます。
桑子:
スーパーが引き起こす影響というものをこちらに挙げました。
・食生活の偏り
・孤立のきっかけ
まず「食生活の偏り」があるのではないかということで、VTRでも買い物のための遠出が負担になり、おかずの種類が減ったという話がありましたが、買い物環境の変化が食生活にどのような影響を与えるのか。栄養学が専門の今井具子さんはこのように指摘します。
「たんぱく質の質、ビタミンやミネラルの摂取量は大幅に減る。バランスが悪くなる。食事のバランスが崩れることによって筋肉量も変わってくる。少しずつ筋肉量が減ることにより、今まで身近に感じていた外出がおっくうになったり、人と会うことがおっくうになったり、どんどん悪循環になっていく」
桑子 真帆キャスター:
悪循環していくということでしたが、浅川さんは健康面での影響をどう見ていますか。
浅川さん:
バランスの取れた食生活を維持できていれば、これまでどおり外出、あるいはきちんと食事をすることができますので病気にならず過ごせたのですが、買い物環境の悪化に伴い買い物に行けなくなるということから、だんだん買い物が困難になりまして、その結果、体調が崩れて入院をする、あるいは介護が必要な状況になる。そういった形で社会的に費用を使うような形になってしまう可能性があります。こういう意味で社会的な損失というところにもつながっていってしまう問題であると私は捉えています。
桑子:
高齢の方に多いかもしれないのですが、若い方も同じようなリスクというのはあるのでしょうか。
浅川さん:
若い人たちは体調がよいので、すぐに影響が出るということは考えにくいのですが、そのあと長い人生の中では徐々にそういったものが影響してくると考えています。
桑子:
蓄積されていくとリスクになるということですね。そしてスーパーの閉店が「孤立のきっかけ」になるということで、こちらはどういうことでしょうか。
浅川さん:
買い物に行くというのは、実は非常に大事な外出の機会だったんですね。ですので、買い物に行かなくなる、そうすると外出をする機会が減ります。人に会わなくなります。人とお話しすることも減ってきます。そういったことで徐々に社会的な孤立につながっていってしまうのではないのかなと考えております。
桑子:
そもそも外出の機会が減って孤立していく。もう一つ、買い物がそもそも持っていた効果というのがあるとすると、どういうことでしょうか。
浅川さん:
買い物をして食事の準備をするというのは、非常に創造的なクリエイティブな活動なんです。いつまでに食事の用意をして、どういう段取りで準備をして食事をすればいいのかということを考えなければいけないので、すごく頭を使う、そういう活動なんです。
なので、それをしなくなるということは知的な好奇心がどんどん下がってしまいます。あるいは物事の段取りを考える力が少し衰えてしまう。そんなことが危惧されると考えています。
桑子:
それで孤立もより深まっていくということになるわけですね。
浅川さん:
そうですね。
桑子:
相次ぐスーパーの閉店は、地域全体にも深刻な影響を与えることが分かってきています。鳥取県では2023年度、17店舗が一斉に閉店することになり、暮らしが大きく揺らいでいます。
スーパー17店舗閉店へ その時 取引先は…
鳥取 9月
鳥取県内に展開するJA系のスーパー17店舗すべてが、2023年度、一斉に閉店することになりました(6店舗が引継ぎ決定)。高齢化や人口減少、大型スーパーの相次ぐ進出で赤字が拡大。中山間地に展開してきた店舗の閉店は地域に大きな影響を与えています。
最寄りのスーパーが16キロ先になってしまったという住民も。
「本当に困ります。何をおいても、いちばんだと思う、買い物は」
閉店したスーパーは地域経済の中心的役割を担ってきました。食品メーカーや卸売会社など、地域の事業者との取引額は少なくとも50億円を超えていました。今回の閉店は地元業者に深刻なダメージを与えています。
スーパーと年間5億円余りの取り引きをしてきた卸売会社の社長、德田豪さんです。
「こちらはトスク(スーパー)があった当時は台車が置いてあって。(今は)スッカラカンになっている」
「月に数千万円という取引がなくなっているという状況」
德田さんの会社は江戸時代から続く老舗です。従業員は正社員やパートを合わせて150人。当面、雇用や給与水準を守ることはできますが、この先、どう維持していくのか頭を悩ませています。
「売り上げも減っていく。ここの人員も減っていく。ちょっと大丈夫かなという不安があった」
「もちろんボーナスもできる限り出したいが、会社の母体が揺らいでしまうといけないので、かなり厳しい状況にある」
会社では物流コストの抑制を図るほか、県外の新たな取引先を開拓しようとするなど試行錯誤を重ねています。
スーパーの直売所に野菜を納めていた農家の岡本幸子さんです。
「(野菜を)何個出したかを毎日出すたびに書いている。もっと頑張ろうという気になる」
岡本さんは地域の農家の仲間、およそ40人とともに毎日、野菜を出荷していました。手塩にかけた野菜を買ってくれるお客さんと会えることが何よりもうれしかったといいます。しかし、スーパーが閉店してからはその楽しみを失ってしまいました。
「本当に誰とも会わない。“何してるのかな”と、全然もう話していない。ぷっつり切れちゃいました。左のところにコーナーがあって(野菜を)置かせてもらっていた。生きがいですね。悔しいですね。涙がでる」
“スーパー閉店”地域への影響
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
・取引先への影響
・雇用喪失のおそれ
「取引先への影響」や「雇用の喪失のおそれ」もあるということでしたが、浅川さん、いま見たような事態は実際にどれぐらい広がっているとみていますか。
浅川さん:
これは鳥取だけの問題ではないと考えております。ご承知のとおり、日本は2008年から人口減少社会になりました。こうした状況というのはこれから日本各地で観察されることになるのかなと考えていますので、この鳥取の事例は人口減少のトップランナーといいましょうか。先進事例でありますので、そこからわれわれは学ばなければいけないのではないかなと考えます。
桑子:
こうした中、鳥取県ではいち早く取り組みを始めています。買い物が困難な地域を支援するため「買物環境確保推進交付金」というものを創設しました。2023年6月の補正予算で1億円を計上したということなんです。
例えば、地域の住民が乗り合わせて週に2回程度スーパーまで買い物に行くバスツアーですとか、スーパーのない山間部まで生鮮食品や日用品を運ぶ移動販売車の誘致など、買い物環境を守るために行う新たな取り組みに対して補助をしているということです。
浅川さんもさまざまなところで調査をされていますが、どういった例が実際ありますか。
浅川さん:
私たちのグループが岩手県の山田町(やまだまち)の買い物環境について調査を行ったことがあるのですが、山田町では震災後、地元のスーパーが出店しまして地元の皆さんに食品の供給を行うとともに雇用の場を提供しているというような事例がございます。
桑子:
雇用を守ったというような事例がある。実際に利用者の方からどういう声が聞かれるのですか。
浅川さん:
山田町はやはり元気だなと。職場もありますし、そういうスーパーとかもありますし、すごく元気があっていいなと言われていると僕個人としては感じています。
桑子:
そうすると孤立にもつながりにくい環境ができるということになりますよね。
浅川さん:
そうですね。
桑子:
さらに行政、企業、住民が協力して、ある試験的な取り組みを始めている地域もあるのです。
“無人スーパー”誕生 行政・企業と連携
6年前にスーパーが閉店した広島県廿日市市の浅原地区。525人が暮らしています。
2022年11月、住民と企業と市が協力して作り上げた無人のスーパーがオープンしました。
このスーパーは、市が土地と建物を無償で貸し出しています。商品や陳列棚、セルフレジなどの設備をそろえるのは企業です。住民たちはキャッシュレス決済を学ぶことで、店員など人件費削減に貢献しています。
企業だけに任せるのではなく、市と住民もそれぞれ役割を担うことで買い物環境を維持していこうとしています。
キャッシュレス決済が初めてという人も少なくないため、住民同士で教え合いながら買い物をします。
「ここにバーコードがあります」
「バーコードはここね」
「お客さま同士が教えあって交流ができるし、会話も弾む。地域が一体となり運営を支えていこうという思いで取り組んでいます」
買い物環境を守るには
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
この取り組みは将来的には他の中山間地域にも広げていきたいということでしたが、浅川さんは地域の買い物環境を守るために今後どういったことが必要だと考えていますか。
浅川さん:
これまで買い物の支援といいますとアクセスを改善するというところに注力されてきたと思うのですが、私はそれだけで多分この問題は解決しないのではないかなと考えています。
もう一つある大きな要因というのは「社会的なつながり」ですね。食料品にたとえアクセスできないとしても、個人がアクセスできないとしても、家族の方であるとか、地域の方であるとか、ご友人の方であるとかが買ってきてくれるということができるのであれば、食料品を手に入れることができるんです。
ですので、そのような人たちとのつながりといいましょうか、お互いに助け合っていくというようなことが非常に大事であり、そういったことを行政は今後、後押しするような政策を展開していっていただけたらいいなと考えています。
桑子:
自分1人でつながりを持とうとすることがそもそも難しいと思うのですが、ヒントというのはあるのでしょうか。
浅川さん:
すごく小さな活動からでいいと思うんです。地域の防災の見回りとか、避難訓練をやってみるでもいいですし、夏祭りをやってみるでもいいのですが、そういう小さなイベントで人々が知り合うということで、あそこにこんな人がいるとか、あそこのおばあちゃん、こんなふうに困っているとか、お互いに気付けて、お互いにサポートできるようになったらいいかなと考えています。
桑子:
確かに町内会の何かイベントとか行事とかは行われているわけですもんね。あとは例えば専門の知識を持っている人に助けを求める、アドバイスを求めるということもありますか。
浅川さん:
そうですね。研究者を含めて専門家はたくさんいますので、そういった専門家をうまく使っていく。あるいはそういう専門家のほうからうまくアプローチをしていくというようなことが今後、重要になってくるのかなと考えております。
桑子:
地域に応じて抱える課題とかはもちろん異なってくるわけですよね。
浅川さん:
そうですね。そういったことに対して専門知識を持っていたり、どうやってアプローチをすればいいのかという方法を持っていたりする人たちが加わって協力していくということがとても大切になってくるのかなと考えています。
桑子:
スーパーの閉店といいますと「不便になるのかな」というぐらいしかイメージしていなかったのですが、まさか健康面、社会面、経済面、さまざまな問題をはらんでいるということを私自身もびっくりしました。それをまさに支えていく仕組みも合わせて作っていっていただきたいと思います。