5. NHKの現状説明と各委員からの問題提起(4)
 

長谷部委員 

 

 私は、法律家ですので、主に制度的な面を考えさせていただければと思っています。確かに諸先生方がおっしゃったとおり、現在、NHKは多少元気がないように見えるところがあります。そこは、反省すべきところは反省する、そして必要な改革はやはり積極的に進めていくべきであることは、確かなことだろうと思います。

 私は必要な改革であるかどうかということを考える際に、やはり本当にコストとベネフィットはどうなるのかということはきちんと計算をした方がよろしいのではないかと考えます。これは私自身が国立大学で法人化を中心とした改革に巻き込まれて、本部の作業を連日のようにやらされて大変消耗しました。現在は大変な徒労感を覚えていますが、何となく改革をしなくてはいけないということで、改革が自己目的化するのは、やはりよろしくないと思います。

 やはりここを変えれば、ここが良くなるんだということがはっきりわかるような形での改革案でないと、これは外側にも説明することになりませんし、やはり内側でも元気が出てこないということではないでしょうか。その時に、根本に遡るというのは大事なことでして、やはり公共放送としての役割とか、存在の根拠は一体何なのかということを、いつも立ち戻って考えていかないといけないと思います。

 その役割や存在根拠が何かということに応じて、では、どういう財源に基づいて、どういう組織を作って、どういう活動をすべきなのかということが、そこが決まってくるだろうと思います。もちろんこれにつきましては、NHKさん内部での今までの議論の積み重ねもあるとは思いますが、これがメディア状況、世の中の状況の変化に対応して、見直しが必要なのかどうかということが問題になってくると思います。

 たとえば、最近の議論ですと、本当にスクランブル化するのが必要適切なのかどうかという問題。私自身はそれについては消極的ですが、あるいは他に受信料の徴収のあり方、何か工夫がないのかとか。いま、永井さんがおっしゃったように、世帯ごとという徴収の単位というのは、本当に世の中の人々の生活のあり方に合っているのかどうか。そういう具体的な問題の答えも、最終的には根本的な問題を問い直すことから決まってくるところがあるのではないかと考えております。
 
 

藤井委員 

 

 私自身、視覚障害があります。全国に約 600 万人の障害のある人たちの内、視覚障害のある人が約 30 万人います。この人たちの中には 、唯一の情報源、または大半の情報源として、娯楽、文化、教養はテレビから得ている方々が少なくないという事実があります。しかし、総務省調べですが、全放送時間帯で字幕が入っている量は 33 %、解説放送は極端に低くて 2.9 %、 海外と比較してずいぶん少ない数値です。

 これは民放ではなかなかむずかしい。本来は民放でもぜひお願いしたいのですが、やはり公共放送がなせる技であって、公共放送の神髄とも関係してくるテーマであろうと思います。したがって 門外漢ではあるのですが、いろいろな意見を言っていこうと思っています。

 各委員のこれまでの意見にも出ていましたように、受信料がかなりメインだと感じたのですが、この会は決して受信料分科会ではないと思います。 他の 3つの委員会、経営委員会、約束評価委員会、あるいは理事会の共通項と個別課題を区分けしてみると、共通項はやはりこの時代にとっての公共放送のあり様、言い換えれば、NHKの役割 であると思います。これは徹底議論をしないと、なかなか対症療法だけではすまないだろうと思います。

 ものごとには原因療法、対症療法があって、原因療法としてはやはり、公共放送のあり様を考えるということが一つのカテゴリーとしてあります。 放送内容、あるいは放送内容を作るしくみという問題と、それから予算 や 財源等があり、これらを もう一度、国民の目線から考えていくべきではないかということです。同時に、いままでも出ていましたが、やはりNHKの体質の改善を含めた内部に対しターゲットを当てること、もう一つは、立法府を含めた法制度等の効果についてもターゲットを当てることだと思います。

 さらに、もう一つの大きな方向は、とくに私の意見としては、NHKが社会や国民との関係でどうあるべきか と いうことをぜひ論じていきたい。確かに、いま降りかかっているのは信頼回復ということですが、信頼回復 だけ ではなかなか受信料はむずかしい でしょう 。先程受益感という言葉がありましたが、信頼とか便利さに加えて、もう一歩進んで受益感を実感できるようになったときに はじめて 、それに対するツー・ペイということで起こってくるわけですから、そこは考えていくべきことではないかと思います。

 私は障害分野の立場から、ぜひ意見を言わせていただこうと思っています。

 

山内純子委員 

 

 今回、こういうお話をいただきました時に、私も専門的な知識はございません。一視聴者として、そして職場環境上、若い女性をたくさん抱えておりますので、そのところからご意見を申し上げられればと思っています。

 受信料に関しては、私は今回、こういう役割をいただいたということで、社内のいろいろな人がメールで、NHKにこういうことを言ってほしい、というのがたくさんきております。これは追々お知らせしたいと思いますが、私自身も、今回、お話をいただきまして、受信料のあり方を改めてNHKの方から説明を受けて、そうだったのですかという、私のレベルでも恥ずかしながら勉強不足でした。

 正しく、なぜ支払わなければいけないのかということを、あまりにも知らない人が多すぎるといいますか。だから払わなくていいのだかと、正しい知識がないというのがほとんどだったと思います。

 うちの会社も転勤族が多くて、いま、永井さんがおっしゃったようにいろいろなところで何世帯分ものお金を払っている人もいますし、「それも払わなきゃいけなかったの」という人もいました。私が少しかじった知識で、「そうなのよ、あなた払わなきゃいけないのよ」と言いまして、少しずつ啓蒙活動もしておりますので、今回のお役には立っていると思いますが、私自身は公共放送ということで、NHKはなくてはならないと思っています。

 もともとイメージとして、暗い、固い、おもしろくないというのがあるのですが、でもやはり私はNHKを見ます。というのはいろいろな情報、自分の知識の範囲では得られない情報をNHKの画面を通していっぱい勉強をさせてもらっています。

 伝えなければいけない情報も含めて、迅速にしかも正確に、そしてフェアな立場で伝えていただくことによって、国民の知識や意識などのレベルが向上すると思います。そういった意味では、国民を成長させるとても重要なツールがある、そういう大きな役割があると思いますので、民放では出せない非常に大事な発信がNHKにはあると思います。誰でもこれを見られる、チャンネルを捻れば誰でも見られる、知識を得られるという大事なツールではないかと思っております。

 それに先程、笹森さんからお話があって私はホッとしたのですが、NHKの中で働いている人たちがどういう思いで仕事をしているのかということに前々から興味がございました。というのは、言いたくても言えないとか、こういう番組を作りたいのだけれども作れないとか、本当はこんな主張をしたいけれどもできないと思っている人たちがたくさんいるような気がします。

 これは実際に聞いたわけではありませんので、ただ、イメージ的に、発信したものを見ていく中で、今日のご説明の中で聞いていても、そういったことが気になります。私は、いま一番働いている人たちがどんな番組を作りたいと思っているのか。しかも、これから時代を作っていくであろう若い世代の人たちは、どういう番組を作って国民にメッセージを送りたいと思っているのか。このあたりをNHKの内部でもっと論議するべきだと思います。

   トップを含めて、管理職を含めてそれを理解する。職員の人たちが思っていることをどれだけ理解して、いい番組を作るために一体となってやっていくか、私は非常に大きなNHKの改革につながるのではないか。これは私たちも同じ会社経営の中で、非常に大事にしているところで、やはり上と下、要するに経営者と部下が一体とならないと、いい経営はできないし、いいアピールはできないというのは私自身も思っています。もっと、とことん話し合う場を作ってトップ自らが変わるんだというメッセージを職員に伝えることによって、ずいぶん内部の環境は変わりますし、そういう職場になれば必ずいい番組ができるというふうに思います。そういったこともこの委員会を通じて教えていただければと思います。
 
 

山内豊彦委員 

 

 私は、「この懇談会のメンバーにどうか」と言われた時に、メンバーの方々のお名前を伺って、いわゆる新聞、放送、通信の業界から入っている人が私しかいないので、これは非常にむずかしい立場かな、冒頭申し上げたように、何か物言いが難しいこともあろうかという感じがいたしました。そういうことも踏まえて申し上げますが、私は、つい最近、現業から足を洗いました。 42 年間、マスメディアの世界におりましたが、報道と経営の両面から、NHKとは非常に至近距離におりまして、非常に悩んでおられる、苦しんでおられる、やっておられることを身近につぶさに見聞きしてまいりました。それだけに、昨年の夏以来起こったことについて、いろいろ思うところがございましたし、自分なりの意見も多少はございます。

 その中で、ぜひ、基本で押さえておかなければいけないと思うのは、公共放送として、それを支える基盤が受信料である。その受信料で番組を作り、公共放送を支えていることは事実ですが、もう一つ、一番大きく支えているものがあって、それは受信料で成り立っているわけですから、時の政治とか圧力に左右されないで、国民の立場で必要なものを提供できるという「政治的中立性」です。このことは私もジャーナリズムの世界におりましたから、非常に重要なことで、そのことが徹底して行われることによって、国民が受けるメリット、利益というのは非常に大きいことを積極的に考えていいのではないか。

 先程、笹森さんもおっしゃいましたが、英国で民営化の流れの中で、あの国が公共放送としてのBBCを残した意味は何かということを、しっかり勉強して、ぜひ、国民にもいろいろな形でわかってもらう機会にすべきではないかとつくづく思います。

 その点で、きょう拝見した文書でも、いろいろ不祥事があったせいでしょうか、政治的中立性とか、いま、申し上げたようなことが文言ではっきり出てこないのです。それを言うと跳ね返りがあるのではないかというふうなことを心配されているのかという気もしますが、それはそれとして、基本的に受信料制度が持っている、そういう意味合い、政治的な中立性を担保することの意味の大きさを、ぜひ、私は、評価して、議論の基礎の一つに据えていくべきではないかという気がしております。

 それから、永井さんは「プラス評価を踏まえて」というようにおっしゃったけれども、私も大賛成でありまして、マイナスの部分だけを見ていると、固くなって発想の視野が狭くなりますが、 79 %も支持しているというのは内閣支持率と比較すればわかるように大変なことでありまして、その中で何をすべきか。先程の政治的中立性の問題もそうですが、私も現業を退いて、時間ができたせいか、NHKの番組をかなり多角的にたくさん見るようになりました。以前にもましてこういうこともやっている、これは面白い、ぜひたくさんの人に見てもらった方がいいのではないか。たまたま、戦後 60 年という節目で、アーカイブスを見る機会が多いものですから、そういうことを感じるのです。

 つまり、そういうことをたくさんの人に見ていただいて、その評価を聞いて、次にどうつなげるかという議論をして、それをもう一回、理解していく作業を。実はNHKは、政治的な中立性もそうですが、俺たちは俺たちとして十分わかっていて闘っているじゃないかと、たとえば、先程、江川さんがおっしゃっていたと思うのですが、国会対策というのはそういうものを確保するために闘っているのだということでやってきたと思いますが、独りよがりというか、説明しないから、わからないのです。

 いろいろな手段、手法、いろいろな場で、そういうことも政治的中立性を担保するために闘っているのだと、がんばっているのだということを知らせる努力、わかってもらう努力をした方がいいのではないか。

 それから、いい番組もたくさんあるわけですから、それを独りよがりというと失礼ですが、自分たちの中だけで評価するのではなくて、もっと、国民全体の評価を聞くような仕組みを積極的に作っていってほしい。そういう議論を、ぜひ、していきたいと思います。

 最後に一つ申し上げたいのは、受信料制度の問題ですが、冒頭申し上げたように、それが支えている非常に大きな意味があると思いますが、時代環境、経営環境、技術環境の変化で、一律的な受信料制度のあり方ではもたない部分が出てくる。やはり、サービスの多様性、個別性が出てきて、一方でサービスを受ける側の価値観も変わり、受益の度合いも変わるわけですから、基礎的に一律で受信料を払う部分と、サービスと公益性において課金していく部分と、その辺を噛み合わせるような議論が、この懇談会でも、そういう仕組みを議論する場があるのかもしれませんが、あまり画一的にいまの制度を守るためにどうすればいいかとか、そこだけに特化した意見交換はよくないのではないかという気がします。

 
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