5. NHKの現状説明と各委員からの問題提起(3)
 

笹森委員 

 

 いくつか申し上げたいと思いますが、先程、橋本会長のお話を伺っていて、危機感はあるのだけれども、本当にそういうふうに思っているのかという、そのへんの度合いが少し薄いかなと感じながら伺っていました。

 というのは、最初に2つ申されました、不祥事の発覚と公共放送の存立の問題。その上で、NHKの経営課題について、2点プラス1、すなわち「受信料の公平負担」と「デジタル時代への対応」という二本柱、それに加えて「価値観の変化への対応」という、その中身は間違いないですが、私はその中でかなり欠けている部分が危機感の足りないところにつながっていると敢えて申し上げたいと思います。

 その上で、一つは、今、金澤さんからもお話がありましたが、時代背景、それから時代変化、これがやはり変わったのです。このタイトルは、「デジタル時代のNHK懇談会」という、ものすごい時代変化を入れているのですが、生活の変化と視聴者・国民の意識変化というのはどう変わったのかというところをつかまえていかないと、受信料の問題には完全に遅れてしまうのではないか。

 私の子どもの頃、ご近所でテレビの入っている家は無かったのです。夕飯が終ると、みんな集まって、その家に、「こんばんは」と言って、正座してテレビを見せてもらったのです。それくらい生活の一つのステータスです。町のテレビ屋さんでは、街頭テレビに人だかりがしました。今は、あって当たり前の時代ですが。当時のそういう中で受信料を払うことはものすごく名誉だった部分がある。その変化についていけなかったのではないかというのが一つ。そのなかで言われていたように、払わなくてもよかったのだということがわかってしまったということ。それに対して、どう立ち向かうのか、はっきり打ち出さないといけない。

 これは江川さんが“焦り”という言葉を使われたのですが、その上での危機感、どういうふうに見せていくのかどうか、見せることばかりに気をつかってしまうと取り繕うことになるから、本質的な問題をどういうふうにやるのかという抉り方をするのが、この懇談会ではないかと思います。

 そのうえで、不祥事が発覚してよかったと思います。「皆さまのNHK」と言いながら、じわじわと、NHKに対する批判が高まり、内在をしていた。これが一挙に爆発した。だから、私は逆に、膿を出すのに、ちょうどいいショック療法だったのではないかと思うのです。

 そのうえで、まず一つは、先程のお話のなかで欠けている部分、少し補われたところもあるのですが、NHKの不祥事の始末をどうするかということに対する経営の体制と、体質の問題が浮き彫りにされて、それがものすごい批判になっているということです。

 体制と体質の問題について、まず自ら、どういうふうに直すのかはっきりさせる。そのことに対して意見をもらう。そのうえで、受信料という公共料金でやっているわけですから、この公金というものをどう扱うか。予算だけではなくて、使う側の現場の問題も含めた、いわゆるモラルも含めた問題についてどういうふうにするのか。

 そのうえで、3つ目は、番組の評価をすべきだということです。これは、民間放送にはできない部分、視聴率にはとらわれない部分、そして、いろいろな層の方々に提供できる番組は、視聴率が少なくても仕方がないという部分で、その番組の評価に対して、「だから、NHKは受信料でいいのです」というところにつなげられるかどうか。それをやったときに、初めて、公共放送としてのあり方という問題に行くのではないか。

 たまたま、昨日までG8の労働サミットでロンドンにいて、ブレア首相と会談をしたのですが、そこでも話が出たのは、日本の民営化問題、構造改革の問題でした。イギリスは猛烈に「官」から「民」へと移行させた国です。その中で、公共として残している部分が2つあります。国家公務員と地方公務員は当然ですが、その他、2つしかない。一つは、「ロイヤル・メール」、つまり郵便局です。もう一つが、女王陛下が 10 年ごとに認可をする公共放送BBCです。この2つが、なぜ残っているのかというのが、イギリスの一つの制度のあり方です。日本に、そのことをきっちりと入れると、私は、この「公共放送として」というのは明確になって行くのではないかと思います。

 そのうえで、政治との関係、ここは、BBCは明確に意識しています。一時期、大変問題があったようですが、日本の場合、ここが非常にあやふやで、逆に統治されているような感じになっているところが不信感にもつながるのではないかという部分、これをどういうふうにクリアにするか。

 それから最後は、金澤さんも触れられたのですが、経営委員会、“約束”評価委員会、この懇談会、理事会、この4者がNHKの再生・新生に対してどういうふうにもっていくのかという、その一番の最後のところを書く役はどこか、明確に、その関わり方をしていかないといけないのではないかと思います。できればここがなるのがいいのかと、メンバーを見て思いました。

 その上で、一番欠けているのが労使関係問題です。私の立場だからということではないのですが、「職員一丸となって」というのは、この一年間、よく使われてきましたが、本当にそうなっていたのかどうか。若い人を使う部分が出てきたのですが、職員全部で、組合員も非常に苦労して対応してきたと思います。

 そのなかで、2つ資料を持ってきたのですが、一つは、労働組合の立場から、全国の支部・分会が意見討論をしたのがこのくらいの厚さになって出ています。この現状について、どう対応するのか。公共放送として、我々はどういう対応をして存立させていくのか。本当に真面目な職員論議をやっています。見事に出ています。そのうえで、職員が視聴者、市民の皆さんにいろいろな問い合わせをして、NHKに言いたいことを聞こうではないかと、自ら調査した物もあります。

 これも、本当に生の声がよく出ている。これは去年の秋にやって、今年の4月までの分ですが、「継続してやる」と言っていますので、こういう物も、ぜひ資料に入れていただいて、討議のなかに加えていただければと思います。

 

新開委員 

 

 私は、農業と農産物直売店しかしておりませんので、専門的なことはあまり発言できないと思いますけれども、一番テレビを見る層と毎日接しておりますので、視聴者の代表のような意見になるかと思います。専門的なことは言えないかもしれませんが、視聴者がNHKに何を求めているのかということを、お繋ぎできたらいいかと思って参加させていただいております。

 会長の最初のご挨拶にもありましたように、受信料の問題とか、皆さんの会話に出ている問題です。不公平さを正すことが一番大事ではないかということは誰にもわかることですけれども、その不公平さをどうしたら無くせるかをしっかり話し合っていかないといけないと思います。

 やはりNHKに対する信頼感というのは、非常に大きくて、私も最近、賞をいただき、NHKから放送をさせていただいたのですが、たくさんの方が見ていて、その影響が大きいのです。テレビというのは、それほど人に影響を及ぼすことが大きいので、受信料を払わない、払うとか、そういうことも含めまして、やはり世の中の流れが変わっていて、「あなたも払わないのなら、私も払わなくていいの」というのが、どんどん不思議なくらいに伝わっています。そういう生活圏の実態をここに伝えられたらいいなと思っております。

 それから、昨年は民放の審議会に出させていただいていたのですが、やはり民放の役割とNHKの役割は、私はすごく違う部分があると思います。何と言いましても、福岡には地震は絶対にないと思っていた地震があったときに、やはり、いざという時のNHKといいますか、信頼と正確性、そういうときにしっかりしてほしいし、また私たちも一番信頼しておりますので、いざという時に一番役割を果たすのではないかと思います。

 そういう意味で、民放と、公共放送であるNHKというものを、もう少し明確にすると、NHKに対する意識が違うのではないでしょうか。今の若い人というのは、「NHKなんか見ていないから払う必要はないのではないか」ということを堂々と言いますし、また見ていない人も事実いることも本当なのです。

 そういう意味で、専門的なことは言えませんが、本当に生活圏にいる人たちの意見やそういうものを集約して意見として述べさせていただきたいと思います。

 

永井委員 

 

 私はアナウンサーをしております。今回、諸先輩方の中で、何で私なのかと驚いているのですが、最初は研究会のようなものかと思ってお引き受けしたのですが、メンバーを見たら、私が入っていてよろしいのでしょうかと、実は率直なところのご意見を伺いましたところ、私を選んでいただきましたのは、まず民放で働いていた経験があるということ。それから、3歳8か月になりましたが、母親であるということ。また、私はいま、先程の家本さんと同じ大学ですが、そちらで研究員をしておりまして、そこで研究領域が「放送と通信の融合」、大きく言いますとそうですが、一応、NHKの教育テレビの学校放送をテーマにして論文を書きましたので、僅かながらのデータを参考に意見をさせていただくことはできるかと思います。

 まず一つ目の民放で働いていた経験からすると、私が働いておりました日本テレビですが、視聴率操作事件がありまして、社長の交代劇などがありましたが、その後、汐留に移ったので、汐留に新しくなったところを見に行って全社を回ったのですが、私が知っている同期、あるいは上司、みんな同じ顔なのですが、全員がお葬式みたいな顔をしているのです。

 冗談ではなくて、本当に同じ人かと疑いたくなるような顔つきで、淡々と仕事を、黙々と進めているのです。その時に、ぞっと背筋が寒くなるのを感じたのです。それは、もしかしたらNHKにもこの自粛ムードが横行しているのではないか。

 対外的にどういうメッセージを伝えるべきか、あるいは受信料問題、体制問題というようにプロパガンダ的なものは今検討されていると思いますが、実は、一番揺らいでいるのは、NHKの中の現場ではないかという不安があります。

 というのは、前会長までは非常に良くも悪くも判断に迷いのない指導者がいらしたわけで、そういう中で迷いがなかったのだと思いますが、いま、現場が揺らいでいるのは、クリアな判断の欠如なのではないか。新しい指導者を求めているのではなくて、改めて全国民が支えている放送局であるということを、内外ともに再認識するときではないかと私は思っています。

 内外というふうに申しましたのは、外に対することは一生懸命あらゆる手段で皆さん考えようとしてやっていらっしゃると思いますが、内に対して果たしてどうだろうかと思うのは、先日、「日本人とテレビ 2005」調査で、「NHKを必要だと思いますか」というデータがあったのでメモをしてきたのですが、NHKを必要だと思う人が 79 %で、前回調査比のマイナス9ポイントだというふうに書いてあったのです。

 先程の決算報告も、初めての減益ということでびっくりしたのですが、マイナスポイントばかりで事が進んでいるのではないか。たとえば、「日本テレビは必要だと思いますか」、日本テレビでなくてもいいのですが、民放でこの局が必要だと思いますかと言われたら、こんなに高い数字は出ないと思います。

 いま、NHKだからこそできることを考える時に、あまりマイナス、減点方式で考えない方がよいのではないかと思います。公共放送であるうえは、こういった放送をせねばならぬというふうにガチガチに考えると、かなり限定的な思想になるのではないでしょうか。もしかしたらNHKの中で新しく芽吹いているものを掬ってあげられるような体制を、新しく構築するときなのではないかと、私は個人的な意見として考えております。

 あとの二点は、受信料神話はもう崩壊したと思っています。今は子どもがいるので「おかあさんといっしょ」を毎日のように見ているので、2か月の 2690 円は、そんなに高くないと思うのですが、たとえば、これで子どもが大阪の大学に行って、旦那が北海道に単身赴任して、私が東京に住んでいたら3世帯でこれを払い続ける。あるいは衛星を見るということになったら、一体、いくらになってしまうのだろう。

 民放の感覚でいうと、お金に対しての意識がちょっと曖昧な感じがいたします。視聴者がどのくらいの金額だったら納得するか、公平だと思うかを、あらゆる面からマーケティング調査をするべきだと思います。

 それから放送するべき番組の検討ですが、辻井座長が「電波というものを使って放送するべき番組」とおっしゃいましたが、貴重な電波を使って放送しているという意識で今一度検討するべきだと思います。「質の良い番組」という風に検討しますと、十人十色、抽象的、観念的になりがちですが、メディア特性をシビアに捉えた上で、本当にテレビ放送でしなければならないものかどうかの検討はするべきだと思います。デジタル化に伴い、インターネット、携帯電話などあらゆるメディアが映像コンテンツを配信できるようになってきました。その際に本当に生き残れるのはメディア特性を最大限に捉えたコンテンツではないでしょうか。是非今回の懇談会でも検討していただければと思います。

 
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