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その他の注目税制

富裕層への課税強化

富裕層への課税も強化されます。所得税は給与などには累進課税が適用されているのに対して、株式や土地など資産の売却益については、原則として税率が一律となっていることから、資産所得の多い富裕層ほど優遇され、統計上、1億円の所得を境に税の負担率が下がるいわゆる「1億円の壁」という問題が指摘されています。

今回の改正では、税の公平性の観点から1年間の総所得が30億円を超えるような富裕層のうち、非上場株など資産による所得が多い人を対象に2025年分の所得から追加の課税を始める方向です。

【車体課税】(エコカー減税)

車の燃費性能に応じて自動車重量税を軽減する「エコカー減税」は2023年4月末に期限を迎えますが、半導体不足などで車の納期が遅れていることなどを考慮して、今の制度のまま2023年末まで据え置きます。

その後、2026年4月まで減税措置を延長しますが、減税対象となる車の燃費基準を段階的に引き上げます。減税の割合は、2030年度の燃費基準の達成度に応じて決まっています。

現在、最も減税率が低い25%の減税を1回目の車検で受けるには、2030年度基準を60%達成しなければなりません。

今回の税制改正では、この達成基準を2025年5月までに段階的に80%達成に引き上げます。2030年度の燃費基準は車両重量が1200キロの車で1リットル当たり26.1キロメートル。60%達成だと15.66キロメートルですが、80%に引き上げられると20.88キロメートルとなります。

現在の車の環境性能を前提とすると、普通車の場合対象はハイブリッド車などに限定されるとみられます。同様に、50%減税や免税となる基準も段階的に引き上げますが、電気自動車や燃料電池車などは今後も2回目の車検まで免税となります。

また、自動車を購入した際に、燃費性能に応じて税金が課される「環境性能割」も2024年1月以降、燃費基準を段階的に引き上げます。

一方、電気自動車や燃料電池車などを対象に自動車税と軽自動車税を、1年かぎりで75%減税する「グリーン化特例」は、2023年度末の期限を3年延長します。

電気自動車普及見込み “適正負担”検討へ
また、電気自動車などの普及が見込まれる中、自動車に関連する税制の適正な負担の枠組みをエコカー減税の期限となる2026年までに検討することを盛り込みました。

脱炭素社会の実現に向けて、政府が電気自動車などの普及を後押しする中、現在は年間で2兆円以上あるガソリン税の税収が大幅に減ると見込まれます。

このため、電気自動車などの普及の観点から、今回延長されたエコカー減税が期限を迎える2026年4月までに、「利用に応じた負担の適正化などに向けた具体的な制度の枠組みの検討を進める」ことを盛り込みました。

これを受けて、財務省は2023年度以降、具体的な課税の対象や方法などについて、本格的な検討に着手するとみられます。

電気自動車への課税をめぐっては、10月の政府税制調査会で、電気自動車は一般的にガソリン車よりも重く、道路に与えるダメージも大きいため課税が必要だとか、走った距離に応じた課税、いわゆる「走行距離課税」を検討すべきだという意見があがっていました。

【空き家対策】

政府・与党は、親などから相続した家屋について一定の条件を満たした場合に、売却によって得た所得から最大3000万円を所得税の課税対象から控除する措置を2024年以降、4年間延長する方針を固めました。積極的に売却を促すことで、増え続ける空き家の有効利用につなげたいねらいがあります。

この措置は、親などの親族から相続した家屋や敷地について、建物が現在の耐震基準を満たすよう改修したり、家を取り壊してさら地にしたりすることを条件に、売却によって得た所得から最大で3000万円を所得税の課税対象から控除する制度です。

相続した日から3年以内に売却した場合に限られ2023年12月末が期限となっていますが、政府・与党は、期限を4年間延長する方針を固めました。人口減少などを背景に、全国の空き家の数は増え続けていて、国土交通省の推計では、2030年には2018年に比べて30%以上多い470万戸程度になるとみられています。

この措置は6年前に始まりましたが、空き家の増加を背景に2021年度は初めて適用件数が1万件を超えました。

政府・与党はこの措置を延長することで相続した家屋を放置することなく積極的に売却するよう促し、増え続ける空き家の抑制につなげたいねらいがあります。

【航空機燃料税】

航空機に積み込む燃料に課税する「航空機燃料税」について、新型コロナで打撃を受けた航空業界を支援するための軽減措置を2年間据え置いたうえで段階的に引き上げます。

航空機燃料税は2020年度の1キロリットル当たり1万8000円から2022年度は1万3000円に軽減されています。

2023年度から2年間は現在の水準に据え置いたうえで、その後、2027年度までに段階的に1万8000円まで引き上げることにしています。

一方、航空機の燃料に課されている「地球温暖化対策税」を企業側に還付する措置は2023年度も継続します。

【スタートアップ支援】(再投資優遇)

投資家が株式を売却して得た利益をその年のうちにスタートアップ企業に再投資する場合、売却益から最大20億円まで所得税の課税対象から外します。

投資対象の企業は設立から5年未満で、利益を十分にあげておらず資金的な支援が必要な企業に限定することにしています。創業初期で資金を必要とする企業を支援するねらいがあります。

また、この税制では、株式の売却で得た資金を使って自ら起業する場合も、同様に、20億円を上限に課税対象から外すことにしています。

【スタートアップ支援】(オープンイノベーション促進)

企業がスタートアップ企業に出資した場合の優遇措置も拡充します。

現在は、企業がスタートアップ企業が新規に発行した株式を取得した場合、一定の条件が整えば費用の25%を法人税の課税対象から差し引くことができます。今回の改正では、発行済みの株式もこの優遇措置の対象とします。

その際は、株式の過半数を取得して買収することとし、その後5年以内にスタートアップ企業の売り上げが1.7倍以上に成長することや、研究開発費が2.4倍以上となることなどが条件となります。

みずからを買収した企業の支援を得ながらスタートアップ企業がさらに成長する流れをつくるねらいがあります。

【スタートアップ支援】(研究開発支援)

また、研究開発の支援も拡充します。

企業がスタートアップ企業などと共同で行った研究開発については、これまで経済産業省が認定したファンドから出資を受けたスタートアップ企業などと研究した場合に限って法人税額から一定の控除が受けられました。

今回の税制改正では、この共同研究の対象となるスタートアップ企業の条件を大幅に緩和することで、大企業とスタートアップ企業との共同研究を活発にしようとしています。

専門家はどうみる

今回の税制改正大綱について、政府税制調査会の委員で税制に詳しい一橋大学の佐藤主光教授に聞きました。

富裕層への課税強化

Q.1年間の総所得が30億円を超えるような、著しく所得が高い人への課税強化も盛り込まれた。

A.所得が30億円を超える人は200人程度しかいないので、財源確保や低所得者への再分配という点ではあまり意味がない。

ただ、負担率が低い富裕層に課税を強化することは、税に対する信認を得るという意味では重要であり、公平性の観点からは必要な措置だと思う。

スタートアップ税制

Q.スタートアップ企業に投資する富裕層への優遇措置も新たに設けられた。

A.富裕層の課税を強化する一方で、こうした優遇措置を設けるのは、しかるべき政策だ。

日本には新たに参入する企業が少ないことを、もっと問題視した方がよい。税の優遇措置を設けることで、富裕層のお金を日本経済の成長につなげることは重要な視点だ。

「貯蓄から投資へ」という流れのなかで、経済成長の引き金になるようなスタートアップ企業への投資を税制面からも促すことが一層求められている。