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専門家はどうみる

今回の税制改正大綱について、政府税制調査会の委員で税制に詳しい一橋大学の佐藤主光教授に聞きました。

防衛増税

Q.大綱で3つの税目(法人税・所得税・たばこ税)の増税を明記した。

A.赤字国債や財源を明確にしないままということもありえた中で、税という形で国民負担を求めたことは評価してよいと思う。ただ、法人税が軸となり、中小企業は税額控除によって外されているので、負担が一部の企業に偏ってるという印象はある。

私は、軸になるべきは、所得税だったと思う。今回の所得税の増税は、復興特別所得税が延長される2037年以降となるので、実質的には負担を将来に先送りするという面がある。

安全保障の強化で受益するのは直接的には、今を生きている私たち自身なので、今の世代で負担するべきではないか。

Q.増税の実施時期や税率が明示されなかった。

A.実施時期と税率は、明確にすべきだった。

例えば、法人税でみると、企業は人を雇ったり投資したりしているので、いつから増税となるかは、大事な情報だ。

今回は1兆円の財源を確保したい勢力と、増税を避けたい勢力との妥協点で、実施時期を明記しなかったのだと思うが、納税者の予見可能性を考えると明確にすべきだった。

Q.防衛費の増額に伴い増税とは別に歳出改革で1兆円程度、また決算剰余金の活用で7000億円程度を確保するなどとしているが実現可能か?

A.方向性は否定するつもりはない。ただ、当初予算の歳出改革に切り込んで1兆円を削減するのは、かなり厳しい議論になるだろうし、剰余金を生み出すプロセスの透明性も問われる。

フタを開けてみた結果「歳出改革を目指したが難しかった」とか「剰余金は出てきませんでした」となると、最後は赤字国債や追加の増税ということになる。

そうならないためにも、本当の意味での安定財源、つまり根拠のある財源を確保するとともに、そのプロセスを国民に対して丁寧に説明する必要がある。

NISA拡充

Q.NISAの拡充はどう評価する?

A.政府としては、家計にたまってる1000兆円を超える現預金を、いかに投資に回すかということに腐心していることはわかる。

ただ、累計の限度額が1800万円となったことについては、金持ち優遇という批判は免れない。

本来の拡充とは、金額ではなく、利用者の拡充であるべきだ。今回の改正で、勤労世帯の低・中所得者の間でNISAが浸透するかどうかは今後、検証が必要だ。

富裕層への課税強化

Q.1年間の総所得が30億円を超えるような、著しく所得が高い人への課税強化も盛り込まれた。

A.所得が30億円を超える人は200人程度しかいないので、財源確保や低所得者への再分配という点ではあまり意味がない。

ただ、負担率が低い富裕層に課税を強化することは、税に対する信認を得るという意味では重要であり、公平性の観点からは必要な措置だと思う。

スタートアップ税制

Q.スタートアップ企業に投資する富裕層への優遇措置も新たに設けられた。

A.富裕層の課税を強化する一方で、こうした優遇措置を設けるのは、しかるべき政策だ。

日本には新たに参入する企業が少ないことを、もっと問題視した方がよい。税の優遇措置を設けることで、富裕層のお金を日本経済の成長につなげることは重要な視点だ。

「貯蓄から投資へ」という流れのなかで、経済成長の引き金になるようなスタートアップ企業への投資を税制面からも促すことが一層求められている。