NEW2020年12月04日

ガソリン車、なくなるの?

“2030年代半ばに新車販売からガソリン車をなくす”…こんな目標を国が検討していることが、明らかになりました。脱炭素社会を実現するため、およそ15年後にはすべての新車をハイブリッド車や電気自動車といった「電動車」にするという高い目標です。まだまだガソリン車が多く、軽自動車も普及する日本。「脱ガソリン車」は本当に実現するんでしょうか。自動車業界を取材している大江麻衣子記者、教えて!!

国が検討している目標、詳しく教えてください。

大江記者

まだ正式には決まっていないのですが、経済産業省は『2030年代半ばには新車の100%を電動車にする』という内容にする方向で調整しています。

これまでの目標は、2030年までにハイブリッド車や電気自動車などの次世代車の新車販売に占める割合を50%~70%に、ガソリン車を30%~50%にするというものなので、新たな目標ではハードルを大きく引き上げる形です。

新たな目標づくりは、菅総理大臣が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという考えを示したことがきっかけで始まりました。

電動車として以下の4つのタイプが想定されています。

つまり、いまからおよそ15年後に新車の販売店に行くと、ガソリンエンジンだけで動く車は姿を消し、すべて1~4の車になっている…ということです。

次の次に車を買い替える時には、そうなっているというイメージだから、けっこうすぐ近く未来の目標ですよね。

でも、そんなに急ぐ必要があるのですか?

大江記者

それは海外で次々と「脱ガソリン車」の目標が打ち出されているからです。

各国とも2030年代に脱ガソリン車を目指す内容です。いずれもことしに入ってから打ち出されました。

日本の自動車メーカーの幹部は「各国の目標づくりは想定していたよりも早い」と話していました。世界の機運は一気に加速している、そうした中で日本としても明確な目標をいち早く立てることで脱炭素の動きをリードしたいというねらいがあったと思います。

見比べてみると、各国も日本の目標と似たようなような内容ですね。

大江記者

目指す時期は似ていますが、そこに至る道のりは大きく異なります。例えばイギリスは2035年にはHVの新車販売も禁止し、強力にEVにシフトしようとしています。

ヨーロッパはかつてクリーンディーゼルの技術で温暖化対策を進めようとしていました。ところが排ガス検査でメーカーの不正が明らかになり、ディーゼルに対する消費者のイメージが悪くなりました。このため現地のメーカーは一気にEVへとシフトしようとしているのです。

これに対して日本はHVを含めた形で脱ガソリン車を図ろうとしています。

エンジンと電気の両方を使うHVの技術はトヨタ自動車をはじめ日本のメーカーが世界をリードしています。得意のハイブリッド技術をできるだけ生かしながら本格的な電動化の時代に備える、国もそうした道のりを描いているんです。

これから10年、15年の電動車の主流はEVなのかHVなのか。メーカーの戦略の違いも目標に表れていると思います。

2030年代半ばに目標は達成できるのでしょうか?

大江記者

決して簡単ではないと思います。

まずは車をつくるメーカー側が電動車100%の体制にシフトできるかどうかです。国内で2019年に販売された新車430万台のうち、HVは3割超。EVやFCVは1%未満にとどまり、ガソリン車が6割を占めています。(日本自動車工業会調べ)

トヨタ・日産・ホンダは主力車種にHVを投入していますが、メーカーによってはほとんどがガソリン車というところもあります。およそ15年をかけて“オール電動車”の生産体制にするには大がかりな転換が必要です。

国内の自動車メーカーは、自社の工場で他社ブランドの車を生産するなどの協力関係を築いていますが、もしかしたら関係がより深まるといった変化が起こるかもしれません。

さらにこうしたメーカーと長年取り引きをしていた部品メーカーも電動化が進む中で事業の転換が必要になってくるでしょう。まさに日本の基幹産業=自動車業界の構造変化にもつながるだけに、国は目標を掲げるだけでなくさまざまな支援策を講じていくことが必要になってくると思います。

脱ガソリン車によって、わたしたちにもメリットを感じられるようにしてほしいですね。

大江記者

そのとおりですね。例えばEVはまだまだ割高で、補助金なしだと300万円を上回ります。充電には時間がかかるし、走れる距離もガソリン車ほど長くない。これらをガソリン車並みの水準にしていくことが大事なポイントです。

アメリカのEVメーカー「テスラ」やドイツの「フォルクスワーゲン」は300万円を切る価格のEVを投入する構想を打ち出しています。EVのカギは電池=バッテリーですが、官と民、そして民間どうしが力を合わせながら電池の生産コストを下げ、「全固体電池」など次世代電池の開発を後押ししていくことも重要です。