NEW2020年01月23日

“ドローン国産化支援”の深いワケ

“空飛ぶ宅配便”から“趣味の空撮”まで、実に幅広く使われる小型無人機「ドローン」。

政府が、次世代のドローンを開発する国内企業を育成しようと財政的な支援を盛り込んだ新たな法律をつくることになりました。

なぜ今、国が“ドローンの国産化”に力を入れるのか?経済産業省担当の宮本雄太郎記者、教えて!

ドローンって、すでにかなり一般的に使われるようになっていますよね。今になって政府が国産化を推し進めようという理由は、何なのですか?

宮本記者

ひと言で言うと、日本を含めた世界の市場を中国メーカーにガッチリ握られてしまったから。民生用では、世界の販売シェアの70%以上が中国製だと言われています。

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中国「DJI」のドローン

中でも、最大手の「DJI」は、性能に対する価格の安さ=いわゆるコスパのよさで、欧米や日本のメーカーを大きく引き離しています。

日本にもドローンを作るベンチャー企業がいくつかありますが、価格は中国製の何倍も高く、ドローンを使って何かしようにも中国製以外の選択肢に乏しいというのが実情なんです。

それだけコスパがよいのなら、ドローンは中国メーカーに任せておけばよいのでは?

宮本記者

そうすんなりといかないのは、高性能なドローンゆえと言えます。

政府としては、ドローンは「情報」という面から捉えると安全保障上の懸念がある、としているからです。ドローンは単なるラジコン飛行機ではありません。そもそも軍事用の偵察目的で開発が始まったもので、いまや高性能カメラ、位置情報を把握するGPS、さらに無線操縦を行うための通信機能などを備え、「空飛ぶ情報端末」と言えます。

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それだけに、外部からのハッキングで操縦を乗っ取られたり、通信機能を介してデータを抜き取られたりして悪用されるおそれがあります。

ドローンは防犯のための監視、原発など重要インフラの点検などに使われることも想定されていて、いったん悪用されれば被害が甚大になると懸念があります。

安全保障の観点に立てば、いくらコスパがよいからといっても中国メーカーに任せきりにはできず、セキュリティーで信頼できる日本のメーカーを育てたいというわけです。

安全保障の観点からと言うと、アメリカが5Gで競争力が高いファーウェイを排除しようとしていることとも似ていますね。

宮本記者

まさに5Gと同じ構図です。アメリカの国土安全保障省は去年5月、中国製ドローンの飛行で得たデータがインターネットを通じて中国政府に流出するおそれがあると、アメリカ国内の機関に警戒を求めました。

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一方、中国のDJIは「技術上の安全性は世界中で検証されている」と反発しています。つまりハイテク覇権をめぐる米中の争いが、5Gからドローンにも広がりつつあるという状況なのです。

今回の日本の動きも、アメリカの方針に対応したものという側面もあります。ある政府関係者は「すでに世界は“リスク・オン”の状態だ」と話し、5G、ドローンにとどまらず経済政策が安全保障と密接に絡むようになっていくと示唆しています。

米中のはざまに置かれる日本企業は、より難しいかじ取りを求められる局面が増えてくることになりそうです。