2023年1月4日
アメリカ

アメリカで「江戸の入れ歯」が注目?調べると意外なことも…

普段、アメリカ・ワシントンでホワイトハウスの担当をしている私。ある日、上司からこんな指示が…

「『江戸の入れ歯』の取材をしてきてもらえる?」

江戸の入れ歯?しかも、なぜワシントンで?

いろいろな疑問を持ちながらも、取材してきました。

(ワシントン支局記者 久枝和歌子)

向かったのは…

車を走らせ向かったのは、メリーランド州ボルティモアにある国立歯科博物館。

首都ワシントンの中心部から、車で1時間ほどの距離でした。この博物館、メリーランド大学歯学部に併設されています。

実は、この大学は1840年に設立され、世界で最も古い「歯科大学」とされています。(設立時の名称はボルティモア歯科大学)

そんな大学の敷地内にある歯科博物館に入ってみると、オーラル・ケア(口腔内の手入れ)や歯科治療の歴史を紹介する展示がありました。

そこには、イギリスのビクトリア女王が、19世紀半ばに実際に使用していた“歯のお手入れセット”も。

このほかにも、世界中から集めた歯ブラシなども展示されていました。

開かれていたのは「日本の入れ歯」の特別展

今回、取材したのは江戸時代から明治時代にかけて日本で使われた入れ歯などの特別展です。

特別展は、博物館の一角で開催されていて、総入れ歯や部分入れ歯、その製作に使われた道具など200点が展示。中には、見たことのないような入れ歯も。

土台の部分が木でできているのです。ロウでとった口腔内の型を元に削り出されているそうです。また、その木の土台に埋め込まれている歯は、象牙や石を削って作られていました。

展示されている入れ歯の中には、当時の歯を黒く染める風習“お歯黒”をしたものまでありました。

どれも、100年以上の前のものとは思えない精密な作りです。

「どれだけ熟練した職人技なのか」

特別展を企画したパトリック・カッターさん。

カッターさんによると、展示されている入れ歯は、アメリカの歯科製品の製造業者が、19世紀末に市場開拓のため、日本を訪れた際に集めたものなのだそうです。また、土台に木を用いている入れ歯は、世界のほかの地域には見られない特徴だとも。

カッターさん自身は、歯科治療が発達する19世紀初め以前に、これだけ精密な入れ歯が作られていたことに驚いたと話しました。

「木を口の中に入れているのは、あまり気分がいいものではなかったかもしれませんが、ほかの地域で土台に使われていた金や象牙などに比べて、口にぴったり収まり、耐久性もよかったと考えられます。どれだけ熟練した職人技によって作られていたかがよくわかります」

“歯のない”大統領?

江戸から明治にかけての日本の入れ歯の特別展のそばでは、同じ時期にアメリカで使われていた入れ歯も展示されていました。

そこにあったのは、アメリカの初代大統領、ジョージ・ワシントンの入れ歯。

ジョージ・ワシントンといえば、1ドル札に描かれた肖像画が有名ですね。実はワシントン、20代半ばで歯を失い始めたあと、1789年に57歳で大統領に就任した時には、自分の歯は1本しか残っていなかったという記録があります。

当時は、栄養バランスが偏った食事や病気などのせいで歯を失うことは、珍しくなかったとのこと。ですので、ワシントンも入れ歯を使っていて、博物館に展示されていたのは大統領2期目を務めていた頃に実際に使用していた入れ歯でした。

先ほど見た日本のものとは違い、こちらはカバの歯や象牙が、土台や歯の部分に使われていました。

もしワシントンが日本の入れ歯をしていたら…

ワシントンが使っていた入れ歯は、もともと上下が金属のバネで留められていて、口を閉じるためには、歯を食いしばっていなければならなかったそうです。(金属のバネは現在は残っていません)

そのため、現在1ドル札に描かれているワシントンの肖像画も、口元が不自然にこわばっているそうなんです。

改めて1ドル札をよく見てみると、歯を食いしばっているようにも。

もしワシントンが、その頃の日本の入れ歯を手に入れていたら?特別展を企画したカッターさんに聞いてみました。

「もっと快適に過ごしていたのではないでしょうか。現代の入れ歯のように、外見もずっと自然だったかもしれませんね」

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