新型コロナ 世界からの報告
孤独な生活はいつまで続くの?
~コロナ禍で起きる子どもたちの異変~

2021年1月27日

「親とのけんかが増えた」「パニックのような症状に襲われた」
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、学校に通う生徒たちに、異変が起きています。そしてその変化は、世界中、そしてここオーストリアでも起きています。何が起きているのか取材しました。
(ウィーン支局 禰津博人支局長)

代わり映えのしない日々

「毎朝起きて、パソコンを開くという代わり映えのしない毎日です。とにかく孤独です」
こう話すのはミリアムさん(16)です。

オーストリアの首都ウィーンの専門学校で、観光を学んでいますが、去年11月から再び学校に通うことができなくなり、オンラインで授業を受ける日々が続いています。

ミリアムさんが、こうした生活を強いられているのは、新型コロナウイルスの感染が広がり、オーストリア政府が、去年3月に続き、11月から断続的に外出制限を実施しているためです。

新型コロナウイルスの感染が広がる前、ミリアムさんは友達と一緒に勉強したりランチを食べたりする学校生活を送っていました。

しかし、外出制限中は朝起きて、ひとり自宅でパソコンの前に座ってオンライン授業を受け、夕食を食べて寝るという単調な日々。友達とも当初は会えなかったといいます。

家にこもるような生活を送っていると、ミリアムさんにある変化が出てきたといいます。強い孤独を感じるようになったのです。

パソコンの前で授業を受け、一日中、パソコンと壁を見つめる毎日。外に飛び出したくなるような衝動に駆られたといいます。

さらに、ミリアムさんを追い詰めたのが、経済の悪化でした。母と大学に通う姉と暮らすミリアムさんですが、コロナ禍の経済悪化で観光ガイドをしていた母が失業したのです。

このままだと家賃が払えなくなり、そのうち家を追い出されるのではないかと強い不安を抱えています。

ミリアムさん

「外出制限が続いている間、とにかく常に孤独を感じています。こんな生活が続けば、私はさらに苦しくなってしまうと思う」

両親とのけんかが増えた

異変をきたしているのは、ミリアムさんに限った話しではありません。取材を進めてみると、学校に通うことができない生徒たちからはこんな声が聞こえました。

「精神的なストレスで短気になり、両親とのけんかが増えた」「外出制限が続く中で、パニックのような症状に襲われた」

学校側はこうした現状についてどう考えているのか。ウィーン市内の公立中学校に話を聞いてみることにしました。

私が訪れたとき、学校では生徒が1人もいない教室で、生物の授業がオンラインで行われていました。

教師のラファエラ・アスパルターさんに話を聞くと、オンラインで授業が続く中、生徒たちの心の変化を把握することの難しさを感じていると話しました。

教師のアスパルターさん
「オンラインでは十分にコミュニケーションがとることができず、当初は生徒が孤立してしまいました。孤立した生徒は授業にもついていけず、大きな重荷にもなったようです。友達と会えず、学校での日常が失われてしまったことの影響を心配しています」

経済格差が心にも負担

こうした子どもたちの精神面での変化は、特に、経済的に厳しい家庭に目立っていることもわかってきました。

ウィーンにある貧困問題などに取り組むNGO「フォルクスヒルフェ」は、去年6月、経済的に厳しい家庭に聞き取りを行ったところ、外出制限の間の子どもたちの変化について親たちは次のように回答しました。

「以前に比べ、悲しそうに見える」74%
「孤独感が増した」57%
「攻撃的になった」53%

NGOは、オーストリアの大学が行った調査にも注目しています。大学がおよそ1000人に調査を行ったところ、うつの症状を訴えた人が外出制限前の4%から20%へと5倍に増加。特に35歳以下の成人女性、独身者、そして無職の人、にこうした傾向が強くみられたと指摘しています。

経済的に厳しい家庭で、なぜ、子どもたちに異変が起きているのか。NGOで調査を行ったユーディット・ランフトラーさんは、その理由について、次のように分析しています。

NGOのランフトラーさん

「調査では、貧困家庭の親のおよそ8割が将来を悲観的に考えていました。また貧困家庭の子どもたちはオンライン授業に必要なIT機器が整えられなかったり、住居の狭さや騒音などの問題で家庭内のいざこざが増えたりという指摘もあります。こうした複合的な理由で子どもたちは精神的にも大きな負担を背負っているのだと考えています」

8億人以上の子どもたちに影響

休校や授業時間の短縮などの影響を受けている子どもたちは、世界の児童・生徒の半数以上にあたる8億人以上。

これは、休校の子どもたちへの影響を調べているユネスコ=国連教育科学文化機関が、国際教育デーの1月24日に合わせて発表したものです。

休校の期間は地域によって異なり、例えば、過去1年間でヨーロッパは2か月半、中南米とカリブ海諸国では平均して5か月続いたと言うことです。

ユネスコが懸念しているのは、休校による学習の遅れに加えて、子どもたちの精神面への影響です。

「長引き、繰り返される休校措置は、生徒たちの心理社会的な負担が増大する」と警告しているのです。

またユニセフ=国連児童基金も去年12月、「子どもたちは学習、心身の健康と安全に深刻な影響を受け続けている」と危機感を示しています。

いかに心の安心を確保するか

「学校に行けたらどれだけ幸せか」
私が取材したミリアムさんはインタビューの中でこう漏らしました。そのことばから孤独な生活から1日でも早く抜け出したいという切実な思いが伝わってきました。

私自身も、ウィーンで小学生になる子どもを学校に通わせています。現地では新型コロナウイルスの影響で休校やオンライン授業となったりと不安定な教育環境が続き、子どもにとってストレスになっていないか不安も感じてきました。

感染拡大が長期化する中、子どもたちの心の安定をいかに確保していくのかも、直面する課題です。

ウィーン支局長

禰津 博人
(ねづ ひろひと)