新型コロナウイルスの感染が再び拡大しているヨーロッパ。中でもフランスは深刻で、首都・パリは10月5日から「最大警戒地域」となり、対策が再び強化されました。感染の再拡大に揺れる現地の様子について、パリの小島晋記者が伝えます。（ヨーロッパ総局 小島晋）
感染“再び”拡大
フランスでは、ことし3月に外出制限などの措置がとられましたが、5月から段階的に緩和されました。レストランやカフェも屋外のテラス席など対策をとった上での営業再開も認められ、少しずつ日常を取り戻し始めていました。
ところが10月10日にはフランス政府が発表した1日あたりの新たな感染者数は2万7000人近くにのぼる深刻な事態となっています。この感染拡大を受けてパリは10月5日から「最大警戒地域」となっています。
大学で集団感染 “パーティー”“ビズ”
特に感染が広がっているのが若者たちです。この春の「第1波」と比べて、感染者に占める10代や20代の割合が増えています。
それを象徴するのが大学での集団感染。フランスでは、9月からの新学期は、ほとんどの大学で通常通りの授業が始まりましたが、各地で集団感染が発生。一時、キャンパスの閉鎖に追い込まれる大学が相次ぐ事態となりました。
マクロン大統領も卒業し、多くの大統領や首相を輩出した名門、パリ政治学院もそのひとつでした。
集団感染の要因として疑われているのが学生たちによるパーティーです。フランスでは大学での知り合いを増やすため新入生どうしでパーティーを行うのが定番です。
パーティーで交わされたとみられるのが「ビズ」と呼ばれるフランスのあいさつ。頬と頬を近づけて「チュ」と口を鳴らすしぐさで、感染拡大以降は、「ビズ」はしないようにと呼びかけられていました。でも、このパーティーでは、友達と会えるうれしさから、ひょっとすると「ビズ」も行われていたのかもしれません。
対策も再び強化
感染の拡大を受けて、対策も強化されました。
パリでは、8月下旬に、屋外でマスクの着用が義務化されたのに始まり、9月下旬には、大規模なイベントやパーティーの開催の禁止。そして、10月、ついにバーの営業も禁止されました。
ただ、バーと言っても定義はあいまいで、基本的には食事が伴わない場所のようです。レストランやブラッセリーは客の連絡先を記録するなどの対策の強化を条件に営業を認められています。
ランチに行くと、差し出されるのは一冊のノート。客は毎回、ノートに、名前と携帯電話の番号を書かなければなりません。
「私たちフランス人は飲んで、食べて、笑って、キスをするのが好きで、それができないのはつらい。でも対策の強化は私たち自身が求めている」
閣僚のひとりはこう述べて、対策強化への理解を求めています。
それでも、テラス席にはくつろぐパリジャンの姿が。
パリ市はレストランやカフェの店内では客の間に距離を設けるよう求める一方で、年内は一部の道路でテラス席を拡大することを認めてきました。寒くなってきましたが、道路の駐車スペースに設置された立派なテラス席で食事を楽しむパリの人たちの姿をあちこちで見かけます。
パリを脱出？
一方で、新型コロナウイルスの影響で、パリの不動産にも異変が起きています。
大手不動産会社が自社のサイトで行った調査では、住宅の購入を希望する人が検索した場所は、8月は前の年の同じ時期と比べて、パリ周辺の地域は軒並み上昇したのに対し、パリはマイナス5％となりました。つまり、パリから郊外に引っ越そうという人たちが増えているというのです。
この不動産会社のトップは、経済と文化の中心のパリで、こうした動き、マイナスとなるのはきわめて異例だとしています。その背景には、パリの人たちが春先の外出制限で買い物や外食、娯楽が思うように楽しめなかったことや、狭い自宅に閉じこもり自然のない暮らしに我慢できなくなっていることなどをあげています。
実際に、6月に、パリからおよそ250キロ離れた中部のアンドル県に引っ越したダバンさん一家は「パリは好きだったけど暮らしがつらすぎる」と話していました。引っ越した理由について、「パリの家は狭い上に、家賃が高く、子どもの教育に十分なお金もかけられなかった」と話していました。さらに外出制限によるストレスで首や背中に痛みが出るようになったとまで。
ダバンさんがアンドル県で選んだのは、庭付きで広さはパリよりも倍近い住宅でした。「ここでの暮らしは快適」と笑顔を見せます。ダバンさん一家のように、パリを「脱出」した人は少なくないといいます。
新型コロナウイルスの感染拡大という危機の中、これまでの暮らしをなんとか維持しようとする人たちや新たな暮らしを始める人たち。まだまだ模索は続きそうです。
ヨーロッパ総局
小島 晋
（こじま すすむ）