新型コロナ 世界からの報告
“感染爆発”のインド
駐在記者の想像絶する深刻さ

2021年5月7日

新型コロナウイルスの新たな感染者が40万人を超え、死者も連日3000人以上と急増しているインド。
病院では医療用酸素の不足が深刻となり、治療を受けられずに亡くなる人が相次いでいます。
また、死者の急増で火葬が追いつかず路上に遺体が並んでいるところもあります。
現地はいまどうなっているのか?ニューデリー支局の太田雄造記者の報告です。

※この記事で使用していた画像の一部に中国のものが含まれていたため更新しました。大変失礼しました。

感染状況が深刻なインド、現地の様子は?

(記者)
かつてなく緊張感が高まっていると感じます。

実際に私の周りや日本人社会にも感染したという人が次々に出ていて、明らかにこれまでとはフェーズが変わっています。

テレビやSNSでは1日中、新型コロナ関連のニュースで埋め尽くされています。

そこには病院に行っても治療を受けられずに何時間も待っている人、病院で酸素の供給が間に合わずに亡くなる人、火葬が追いつかず路上に並ぶ遺体、そして遺体の搬送を拒否され家族の遺体を背負ってバイクで故郷に帰る人など、信じられないようなニュースやSNSへの投稿が次々と流れてきます。

想像を絶する状況に胸が苦しくなります。

現地での生活は?

(記者)
私が住むニューデリーでは4月中旬から厳しい外出制限が始まっています。

食料品や薬などの買い物以外は原則として外出が禁止されています。

私も必要な買い物はネットで済ませ、外出するのはゴミ出しの時ぐらいです。

ニューデリーでも医療体制が危機に陥っていて死者が相次ぐなど、感染リスクを考えると、外に取材に行くのも難しい状況です。

インドでは、去年3月にも外出制限が出されましたが、そのときはあくまでも予防的措置という側面が強かったのに対し、今回は外出を止めないと死者が増え続けるという切迫感があり、まるで雰囲気が違います。

去年は静まりかえった街に鳥のさえずりが響いていましたが、いまその合間に聞こえてくるのは救急車のサイレンです。

それを聞くたび、思わずまたどこかで誰かが…と思ってしまいます。

どうしてこれだけ感染が広がったのか?

(記者)
取材した専門家が指摘しているのは2つの理由です。

1つは気の緩み。

インドでは去年9月をピークにいったんは感染が大きく減り、ことし2月には1日の感染者が1万人以下にまでなっていました。

一部ではすでに集団免疫を獲得したのではないかという報道も出るほどで、「インドは新型コロナに打ち勝った」という空気が広がっていました。

結婚式も毎日のように開かれていて、自宅にいても、夜遅くまで陽気な音楽と歓声が聞こえてくるようになっていました。

3月、4月に祭りや行事が開かれたことも拍車をかけたとみられています。

1年近く制限を強いられて、たまったうっぷんを晴らすかのように、多くの人が集うようになっていました。

マスクをつけている人は多くありませんでした。

また、同じ時期に各地で行われていた選挙集会も影響したと言われています。

すでに感染が拡大していた4月中旬に行われた集会にはモディ首相も参加して「こんなに多くの人が集まったのは初めてだ」と述べていました。

しかし、こちらも参加者の多くはマスクをしていませんでした。

ニュースでこうした映像を見ながら不安に思っていたことが、現実となってしまった形です。

それも想像を大きく上回る規模で。

インドのメディアなどでは、こうした緩みに加えて、新たな変異ウイルスが感染拡大の要因になっていると報じられています。

インド政府はどのように抑え込もうとしている? 今後の見通しは?

(記者)
鍵を握るのがワクチンです。

インドではアメリカ、中国に次いで接種した人が多くなっていますが、13億の人口での割合を見ると少なくとも1回接種した人は1割ほどにとどまっています。

そのため、政府は5月1日から接種の対象を18歳以上に拡大しました。

これまでが45歳以上だったので接種できる人が一気に増えることになり、その数は6億人にのぼるということです。

ただ、さっそく課題も出ています。

接種の予約が始まった日に私も試しに専用の予約サイトに進もうとしましたが、全然つながりません。

繰り返しスマホ画面の更新ボタンをタップしますが、それでもその日はつながりませんでした。

発表によると開始から3時間で登録した人は800万人。

人気アーティストのコンサートのチケットのように、争奪戦が早くも起きていました。

すでに一部ではワクチンが不足したことで閉鎖される会場も出ていますが、一気に高まった需要をまかなえるのか懸念する声も出ています。

実際に1日になってもニューデリーなど複数の州では、ワクチンが足りずに18歳以上の接種が見送られました。

感染拡大のピークは5月中旬ごろになるという見方を示す専門家もいます。

また、感染が都市部から医療体制が整っていない地方に広がりつつあります。

しばらくは厳しい状況が続くと思いますが、インドがこの危機をどう乗り越えていくのか、引き続き、取材していきたいと思います。

ニューデリー支局

太田 雄造
(おおた ゆうぞう)