イギリス、アメリカなどに続いて、新型コロナウイルスのワクチンの接種が2020年12月下旬から始まったEU=ヨーロッパ連合の各国。このうちフランスは2020年12月下旬に行われた世論調査でワクチンを接種しないつもりだと回答した人が60%近くにのぼっていました。ワクチンの接種が進むか不安視されていましたが、実際はどうなったのでしょうか?ヨーロッパ総局の小島晋記者が取材しました。
Q.接種はどのくらい進んでいる?
A.
3月8日の時点でフランス政府は、およそ400万人が1回目の接種を終えたことを明らかにしました。
このうち2回目の接種を終えている人は200万人近くになっています。
ECDC=ヨーロッパ疾病予防管理センターの統計では3月7日の時点で18歳以上の人口あたりで見ると1回目を接種した人の割合は6.1%。
2回目は3.4%です。
隣国のドイツがそれぞれ6.8%、3.4%なのでほぼ同じペースとなっています。
Q.どのワクチンを接種している?
A.
最初に始まったのがアメリカの製薬大手、ファイザーとドイツのビオンテックが開発したワクチンです。
その後、アメリカの製薬会社、モデルナのワクチン、そして2月からはイギリスの製薬大手、アストラゼネカとオックスフォード大学が開発したワクチンの接種も始まりました。
Q.誰を優先的に接種している?
A.
当初、優先されたのが、高齢者施設の入所者です。
その後、50歳以上の医療従事者や介護ヘルパーです。
接種が始まってから3週間後の1月18日からは75歳以上の高齢者も対象となりました。
また、2月から始まったアストラゼネカのワクチンについては、対象はすべての年齢の医療従事者、50歳から74歳の基礎疾患のある人となっています。
Q.接種はどこで行う?
A.
高齢者施設の入所者は、施設に医師や看護師が出向いて接種が行われています。
また、医療従事者は病院で行っています。
75歳以上の高齢者については、公共施設などを利用したワクチンの接種を行うセンターが各地に設けられました。
また、アストラゼネカのワクチンについては保管がより簡単という理由から薬局でも接種を出来るようにしました。
さらに、北東部の地域では、過疎地に暮らす高齢者のために「ワクチンバス」の運行を行っています。
路線バスをバス会社から無償で提供してもらい、ワクチンを保管する冷蔵庫を積んで、医師や看護師とともに各地をまわっています。
取材に行くとバスを待っている人たちはみなうれしそうで、「都市部のワクチンセンターに行くのは大変なので助かる」といった声が聞かれました。
Q.フランスのワクチンの戦略は?
A.
ワクチンの接種に対して否定的な声が多かった世論もふまえてか、政府は、接種を押しつけないよう、慎重に進めようとしてきました。
テレビや新聞などを通じて接種を呼びかけるような大々的なキャンペーンは行っていません。
また、最初に優先したのは高齢者施設の入所者でした。
ただ、入所者に対して事前に健康状態のチェックと本人の同意を得てから接種を行うとしたところ開始から1週間で接種できたのが500人にとどまるという事態になりました。
あまりにも遅すぎるという批判を受けてフランス政府は方針転換し、75歳以上の高齢者の接種を前倒しで進めることにしました。
しかし、今度は、ワクチンの接種を受けたい人が健康状態のチェックをしてもらうため、かかりつけ医に殺到する事態になりました。
パリ近郊で働くかかりつけ医は、高齢者施設の入所者の健康状態のチェックも求められ、「大きな負担になっている」とこぼしていました。
Q.供給不足の懸念は?
A.
ヨーロッパで大きな問題となっているのが、ワクチンの供給の遅れです。
フランスでは予定されていたワクチンが届かず、1月下旬には、一部のワクチンセンターが、一時的に閉鎖される事態に追い込まれました。
フランス政府はファイザーとビオンテックのワクチンの供給が遅れたためだとしています。
2月に始まったアストラゼネカのワクチンも当初より供給が遅れています。
政府は国内で今後、ワクチンの生産が始まるとして、供給不足への懸念を払拭しようとしています。
Q.今後の接種の行方は?
A.
接種の状況を見ると、1月中に160万人近くが1回目の接種を終えました。
当初は100万人としていたので目標を上回るペースとなっています。
その後、目標は二転三転し、フランス政府は4月中旬までに1000万人、そして5月中旬には2000万人、6月末(まつ)までに3000万人について1回目の接種を終えたいとしています。
目標の達成には現在の接種のペースを大幅に加速させる必要があり、実現できるかは不透明な状況です。
Q.世論はどうなった?
A.
2月中旬の調査ではワクチンの接種をしないつもりだと答えた人は39%。
すでに接種した、あるいは接種するつもりと答えた人が61%と、12月下旬の調査結果を逆転しました。
背景にはワクチンの接種が進む中で抵抗感が薄れていったことや、イギリスで確認された変異ウイルスが広がる中で接種した方が良いと考える人が増えたという分析がされています。
それでも受けないつもりと答えた人が40%近くというのは、決して少なくありません。
8月には、ほとんどの人の接種を終えたいとする、目標を掲げるフランス政府にとって大きな課題となりそうです。
ヨーロッパ総局
小島 晋
(こじま すすむ)