日本でも医療従事者への先行接種が始まった新型コロナウイルスのワクチン。イギリスでは2020年12月から始まっています。イギリス政府は、実際、どのようにワクチン接種を進めているのか？そして課題は？ロンドン支局の向井麻里支局長が取材しました。
Q.どれくらい進んでいる？
A.
2月16日時点で、およそ1550万人が少なくとも1回はワクチンを接種しました。これはイギリスの人口のおよそ23％が接種したことになります。
Q.接種はどのように進められている？
A.
政府が税金で運営する医療制度、NHS（国民保健サービス）が取り仕切っています。イギリスに住む人は、基本的に全員が地域にあるNHSの診療所に登録することになっていて、年齢や住所、そしてこれまでの医療記録なども一元的に管理されています。政府は、NHSのデータに基づいて対象者に連絡し、ワクチン接種を進めています。
Q.どのワクチンを接種？
A.
現在は、2種類のワクチンです。12月上旬から米ファイザー／独ビオンテックのワクチン、1月上旬からは英アストラゼネカ／オックスフォード大学のワクチンの接種が始まりました。イギリス政府は、これまでに、この2種類を含めた計7種類であわせて4億700万回分を確保したとしています。
Q.優先されるのは誰？
A.
政府は、高齢者施設の入所者や職員、それに70歳以上の高齢者、医療従事者のあわせて約1500万人を優先として、少なくとも1回は接種を行うことを目標としてきました。イギリスではウイルスに感染して亡くなった人の90％近くがこうした人たちといわれています。この目標は2月14日には達成し、ジョンソン首相は接種は順調に進んでいるという認識を示しています。政府はことし秋までに、対象となるすべての人たちに接種を済ませたい考えです。
Q.接種はどこで行う？
A.
病院や地域の診療所のほか、競馬場やサッカースタジアム、会議場などさまざまな場所に会場が設けられています。大聖堂に設置されたワクチンセンターでは、パイプオルガンを聴きながら接種を受けることもできます。24時間態勢で接種できる拠点を設けることも検討されています。政府は春までに2700か所を超える場所で接種が行えるようにするとしています。また、高齢者施設や在宅療養をしている人には、医師などが訪れて接種を行っています。
Q.ワクチンセンターはどんな状況？
A.
私（記者）は1月中旬に、ある地域の診療所に設けられたセンターを取材しました。1時間に70人余りを6、7部屋に分けて次々と接種していました。接種後は、経過を観察するため15分間は待合室で待機していました。
Q.供給不足の懸念は？
A.
いま多くの国がワクチンの供給不足を懸念しています。イギリスは現時点では、供給に自信を持っているとしています。すでに4億回分以上を確保していますが、ワクチン確保のための対策本部は、変異ウイルスの状況や来年以降の接種の可能性もにらんで、現在もワクチンメーカーなどと交渉を続けています。
Q.イギリスの接種戦略は？
A.
ほかの国と大きく異なるのが接種の間隔です。現在、接種されているワクチンは2回の接種が必要ですが、政府は、変異ウイルスの感染拡大が深刻化した2020年12月末、2回目の接種は「1回目のあと12週間後までに行う」という方針を打ち出しました。なるべく多くの人にまずは1回目を接種してもらうために、2回目の接種は遅らせています。ただ供給が遅れたり、足りなくなったりすると、2回目の接種がさらに遅れたり、行えなくなったりする事態も想定されています。
Q.そんなやり方で大丈夫？
A.
大きな議論を呼んでいます。政府は1回目だけでも一定の効果は得られるとし、あくまでも遅らせるだけで、確実に2回目の接種を行うとも説明しています。ただ、イギリスの医師会は、十分なデータが示されていないとして政府の方針を批判、またファイザーも「3週間後も効果が続くというデータはない」としています。現場の医師の中にはこれだけ感染が広がっている以上、やむを得ないと考える人もいます。アストラゼネカのワクチンについては、1回目の12週間後でも、有効性は76%、一定期間は効果が続くとする研究結果が発表されています。
Q.ワクチンを接種したくないという人は？
A.
イギリスの大手調査会社「YouGov」が行ったインターネット上での調査では、ワクチンを接種したい人が85％を超えています。取材した医師は、「ふだんはワクチンを受けたくないという人も今回は受けている印象だ」と話していました。ただ、一方で、一部の人たちは、ワクチンに対して懐疑的な見方もあるということで、イギリス政府は、あらゆる層にいかにして接種を進めていくかが課題だとしています。
ロンドン支局長
向井 麻里
（むかい まり）