新型コロナ 世界からの報告
ピラミッド観光はいま
エジプト・ギザ

2020年12月17日

中東のエジプトが誇る世界遺産「ギザの3大ピラミッド」。このうち最も大きいクフ王のピラミッドは高さ約140メートル、40階建てのビルに相当します。スフィンクス像を従えたその壮大な景観を見ようと毎年、世界各地から多くの観光客が訪れてきました。しかし、ことしは新型コロナウイルスの影響で、ピラミッド観光も大きく様変わりしていました。
(カイロ支局 山村充)

家族同然だったラクダを

「新型コロナのせいで、ラクダが飼えなくなった」

こう嘆くのは、イブラヒム・フィクリさん(51)。ピラミッド周辺で40年近く、ラクダ乗り体験を観光客に提供する仕事に携わってきました。

ことしは、これまでで最も観光客が少ないと言います。収入は5分の1にまで減少。食費を切り詰めるなどして家計をやりくりしていましたが、1日1000円ほどかかるラクダ3頭のえさ代が、徐々に重くのしかかるようになりました。

思い悩んだ末、家族同然に大事にしていた3頭のうち2頭を、10月に食肉業者に売る決断をしました。妻と子どもたちを養うため、背に腹は変えられなかったと振り返ります。

例年なら12月はハイシーズンも

エジプトでは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ことし3月下旬から100日間にわたって全国の観光施設を閉鎖しました。

こうした対策の効果もあり、当局は感染者数、死者数ともにピーク時の6月と比べて大幅に減っているとしています。

▼1日の感染者(エジプト保健省まとめ)
・6月16日 1774人
・12月14日 486人

▼1日の死者(エジプト保健省まとめ)
・6月20日   97人
・12月14日 22人

7月の再開以降、ピラミッドでは入場の際の検温や手の消毒など、感染対策を徹底。観光客向けの看板では、古代エジプトの象形文字を使って互いの距離をとるよう求めたり、マスク姿のファラオのイラストを使ってマスク着用を呼びかけたりして、エジプトならではのユーモアも交えて注意喚起をしています。

酷暑が収まる12月から1月にかけてが観光のハイシーズン。例年なら、世界中からの観光客でごった返しますが、ことしはその姿はまばらです。

エジプトを発着する国際線は運航を少しずつ再開しているものの、観光客のほとんどがエジプト国内や周辺の中東諸国から来たという人たちばかりでした。

活気のない土産物店街 日本語通じる店は

ピラミッドのそばには、土産物店が並ぶ通りがあります。ふだんなら、店員たちがさまざまな言語を使って観光客に声をかけ、活気にあふれています。

ただ、ここもいまは閑散とし、シャッターを下ろしたままの店もあります。

土産物店を15年間経営しているターレック・アブデルガファさん(60)は、独学で身につけたという日本語を使った接客が「持ち味」です。

日本語が通じる数少ない店として重宝され、売り上げの9割を日本人観光客が占めていましたが、現在の売り上げはほぼゼロだと言います。

「(経営は)すごくしんどい。コロナが早く終わってくれることだけを願っています。1日も早くお客さんに会いたい」

そうつぶやいたターレックさん。

観光客がいつ戻ってきてもいいようにと、売り物のラクダの形をした香水瓶をピカピカに磨き続ける姿が印象的でした。

それでも 決して下は向かない

約4500年にわたってそびえ続けてきた、ギザのピラミッド。その長い歴史の中でも、ことしは人類にとって大きな苦難の年となっています。

それでも、地元の人たちは決して下を向いていませんでした。

ラクダを売ってしまったイブラヒムさんのことばが、忘れられません。

「いつか、必ず良くなる日が来る」

その前向きな姿勢、そして笑顔からは「コロナなんかに負けない」という強い意志を感じました。

カイロ支局 カメラマン

山村 充
(やまむら みつる)