新型コロナ 世界からの報告
WHO 新型コロナ「緊急事態宣言」終了を発表
“今後も警戒を”

2023年5月6日

WHO=世界保健機関は、5月5日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて出していた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了すると発表しました。

一方で会見でテドロス事務局長は「これで新型コロナは心配ないというメッセージを国民に送ってはいけない」と述べ、今後も警戒を続けるよう各国に呼びかけました。

WHOのテドロス事務局長は、本部のあるジュネーブで5月5日、会見を開き、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて2020年1月から出していた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了すると発表しました。

WHOは、
▼死者数の世界的な減少や
▼ワクチンの接種や感染による集団免疫の向上、
▼医療システムへの負担の軽減などを踏まえて宣言の終了を判断したとしています。

会見でテドロス事務局長は「緊急対応の状態からほかの感染症とあわせて管理する段階に移行する時期が来た」と述べて、新型コロナが存在することを前提にした対応を進めるよう、各国に求めました。

一方で「ウイルスは命を奪い続け、変異も続けている。宣言の終了をもって各国は国民に、新型コロナは心配ないというメッセージを送ってはいけない」とも述べ、今後も警戒を続けるよう、各国に呼びかけました。

およそ3年3か月にわたって出されていた緊急事態宣言が終了し、世界の新型コロナ対策は大きな節目を迎えたことになります。

北海道大学 喜田宏 統括「どう折り合いつけるかが重要」

WHOが「緊急事態」を続けるべきかどうか議論を行う専門家委員会のメンバーで、今回の議論にも参加した北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所の喜田宏統括は「新型コロナウイルスは全身で増える可能性があり、病原性が弱くなったわけではない。しかし、感染者数の増え方が緩やかになっているほか、3年余りもの間、世界中で感染を広げてきたことで、多くの人に免疫ができ、重症化しにくくなっている。さらにワクチンや新しい薬も実用化されている。新型コロナを取り巻く状況は好転してきている」と述べました。

その上で「新型コロナがあることを前提にした『ウィズコロナ』の時代に入ったと考えていい時期になったと思っている。これからは新型コロナとどう折り合いをつけていくか、さらに考えることが重要だ」と述べました。

「もう安全だとは考えるべきではない」

一方で「高齢者や基礎疾患がある人など免疫機能が低下した人の中には感染すると亡くなる人がいる。致死率が下がっていることだけを見て、新型コロナがもう安全だとは考えるべきではない」と話し、今後も警戒が必要だと強調しました。

「緊急事態」とは?

新型コロナウイルスについて、WHOは「国際保健規則」に基づいて2020年1月「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。

「緊急事態」の宣言には各国で対策の強化を促す意義があり、WHOはその後、各国に対し、感染拡大を防ぐための対策をとることやワクチンや治療法の開発を促進し、ワクチン接種を進めること、それに、変異ウイルスの監視体制を強めることなどを求め、国際的な枠組みで途上国に対するワクチンや治療薬の供給などを進めてきました。

WHOは新型コロナウイルスへの対応や「緊急事態」にあたるかどうかについて3か月に1回、専門家の委員会を開いて協議しており、協議の結果をもとにテドロス事務局長が継続か解除かを判断してきました。

世界で7億人超が感染 ワクチン接種は133億回超

WHOによりますと、5月3日までで世界の累計感染者数はおよそ7億6500万人、およそ690万人が亡くなった一方で、ワクチンの接種回数は4月29日までで133億4000万回以上に上ります。

新型コロナは根絶できず、今後も繰り返し感染拡大が起きるとみられますが治療が進歩し重症化を防ぐ飲み薬も出てきていることから、感染した場合に重症化したり、亡くなったりする人の割合は下がっています。

日本国内での対策について、専門家は感染力の強い変異ウイルスが拡大しないか監視体制を維持し、感染が拡大した際には医療体制を強化できるようにするとともに、場面に応じた不織布マスクの着用や換気を行うこと、症状があるときは外出を控えることといった基本的な感染対策を続ける必要があると指摘しています。

日本ではどう広がった?

WHOが「緊急事態」を宣言した2020年1月30日の時点で日本国内で感染が確認された人の数は厚生労働省のまとめでは12人でした。

それ以降、国内ではこれまでに合わせて8回、感染拡大の波を経験し、5月5日までに感染した人の累計は3400万人近く、亡くなった人は7万5000人近くに上っています。

“接触機会 最低7割減らして” 最初の緊急事態宣言

日本国内で最初に感染が確認されたのは2020年1月15日で、4月7日には、政府は東京など7都府県に法律に基づく初めての「緊急事態宣言」を出して、人と人との接触機会を「最低7割、極力8割」減らすよう求めるなど、厳しい行動制限が行われました。

感染拡大の第1波では、2020年5月末までに感染者数はおよそ1万7000人、亡くなった人は892人で、感染者のうち亡くなった人の割合、致死率は5.34%と高い状態でした。

致死率は徐々に低下も感染者数は桁違いの増加

感染拡大の波はこれまでにあわせて8回起きましたが、致死率は徐々に下がる傾向で、感染対策と社会経済活動を両立させるため、「緊急事態宣言」は変異ウイルスのデルタ株が拡大した2021年夏の「第5波」のあと、「まん延防止等重点措置」はオミクロン株が拡大した2022年初めからの「第6波」のあとは出されなくなりました。

一方で、感染力が強いオミクロン株の拡大以降、感染者数は桁違いに多くなり、医療体制がひっ迫してコロナだけでなく救急など一般の医療にも大きな影響が出たほか、亡くなる人の数は多くなってきています。

この冬の第8波では致死率は0.23%ですが、亡くなった人の数は2023年1月には一日で500人を超える日もあるなど過去最多となり、2022年12月以降、2023年2月末までの3か月で2万3000人近くとなり、これまでに亡くなった人の3割を占めています。

当初は新型コロナウイルスへの感染で重い肺炎となって亡くなる人が多かったのが、現在ではもともと重い持病のある高齢者などが感染をきっかけに状態が悪化して亡くなるケースが多くなっている可能性があると専門家は指摘しています。

厚労省「中長期的な対策への移行は日本と同じ方向」

WHOが「緊急事態」の宣言を出して以降、日本国内でも新型コロナの感染拡大を防ぐためさまざまな対策が行われてきました。

2020年2月には新型コロナを感染症法上の「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」に指定するための政令を施行しました。そして感染症法上で「2類相当」に位置づけたことで、入院勧告や就業制限などの厳しい措置をとることができるようになりました。

しかし、直近の感染状況などを踏まえて新型コロナウイルスの感染症法の位置づけを5月8日に季節性インフルエンザと同じ5類に移行することが正式に決定しています。

厚生労働省は「WHOの新型コロナの対策が危機管理的な対策から中長期的な対策に移行していくのは日本と同じ方向だと認識している。今後、夏の感染拡大も想定されるので、高齢者など重症化リスク高い人へのワクチンの接種や医療提供体制の整備などに取り組むとともに個人が適切な感染防止対策がとれるように情報提供に努めていきたい」コメントとしています。

政府分科会 尾身会長「判断は適切 ただ、終息ではない」

政府分科会の尾身茂会長は「世界的に感染者数が少しずつ減り、直近では亡くなる人の数も減って医療の負荷が軽減されてきている。日本でも感染症法上の位置づけを『5類』に移行する対応をとる中でもあり、WHOの判断は適切なのではないか」と述べました。

その上で「ただ、これで新型コロナの感染が終わった、終息したという訳ではない。今後、感染が低いレベルに向かっていくことを期待したいが、これからも感染者数が急増し、医療がひっ迫する事態になってしまうこともあり得る。市民自身が個人の判断で、いままでの経験を元に感染リスクの高い行動を控えめにするなどの対応をとることが、これまでと変わらず有効な対策になると思う」と指摘しました。