新型コロナ 世界からの報告
新型コロナ“パンデミック”宣言から1年
収束への課題は

2021年3月12日

WHO=世界保健機関が、新型コロナウイルスの感染拡大がパンデミック=世界的な大流行になったとの認識を示してから1年となりました。世界全体の感染者や死者の増加のペースは緩やかになっているものの、感染者数が再び増加に転じる国もあり、パンデミックの収束に向けて変異ウイルスへの対応や、ワクチン接種のペースの加速が課題となっています。

WHOのテドロス事務局長は、2020年3月11日の会見で、アメリカやヨーロッパなどで急速に感染が拡大していた新型コロナウイルスについて「『パンデミック』と言えると評価をした」と述べ、世界的な大流行になったとする認識を示しました。

それから1年、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のまとめによりますと、世界全体で新型コロナウイルスの感染が確認された人は、1億1800万人以上、死者も260万人以上にのぼっています。

感染者が2900万人以上と、最も多いアメリカは2021年1月はじめには1日あたりおよそ30万人の感染者が確認されるなど、深刻な事態が続いていましたが、その後、減少傾向に転じ、このところは1日あたり5万人前後で推移しています。

また、感染拡大が深刻だったイギリスなども新たな感染者は減少傾向となるなど、世界的に感染者や死者の増加ペースは緩やかになっています。

一方、ブラジルは依然として1日あたりの感染者が6万人から8万人と、深刻な状況となっているほか、イタリアやチェコなどでは感染者が再び急増し、経済活動や外出の制限といった措置を再び、迫られたところもあります。

イギリスや南アフリカなどで急速に広がった変異したウイルスは、感染を広げやすいことが様々な研究で示されていて、これらのウイルスがほかの国にも広がったことが感染の拡大につながった可能性が指摘されています。

多くの国でワクチンの接種が始まったものの、さらなる変異ウイルスの発生を防ぐためには、さらに多くの人に接種を進めることが必要とされていて、ワクチンの供給や接種のペースを加速することが世界的な課題になっています。

国連のグテーレス事務総長はビデオで声明を発表し、所得の低い国にワクチンが行き渡っていないことを深く懸念していると述べました。

そのうえで「どの国もこの危機を自国だけで乗り越えることはできない。各国政府と製薬会社はワクチンの供給と分配をさらに広げるためにワクチンとその技術を共有しなければならない」と述べて、先進国や製薬会社が発展途上国へのワクチンの普及を支援すべきだという考えを強調しました。

アメリカの感染状況

アメリカでこれまでに報告された感染者は、およそ2920万人、死者は53万人以上と、世界で最も多くなっています。

2021年1月には1日に報告される感染者がおよそ30万人と、最悪の水準でした。しかしその後、減少に転じ、3月11日現在、1日あたりの新型コロナウイルスの感染者は1週間の平均でおよそ5万人となっています。

ただ、感染が最初に拡大した2020年の同じ時期よりも50%以上多い水準で、依然、深刻な状況が続いています。
感染拡大を抑える切り札として期待されていたワクチンは、異例のスピードで開発と臨床試験が進み、2020年12月から接種が始まりました。

3月11日までに全米に1億3000万回分あまりが供給され、ワクチンの接種を完了した人は3386万人で、アメリカの人口の10.2%と、接種開始から3か月を前に1割を超えました。重症化のリスクが高い、65歳以上の高齢者だけでみると接種を完了した人の割合は32.2%に達しています。

しかし、専門家は、現状では、接種を完了した人の割合は感染の拡大を継続的に抑えられる水準に達しておらず、いわゆる「集団免疫」の状態になるまでにはまだ時間がかかる見通しだとしています。

一方、アメリカで新たに懸念されているのは感染を広げやすいとされる変異したウイルスの拡大です。
アメリカでは3月9日の時点で、
▽イギリスで初めて見つかった変異ウイルスが50の州や地域で3701例、
▽南アフリカで見つかった変異ウイルスが23の州で108例、
▽ブラジルで見つかった変異ウイルスが10の州で17例、
報告されています。

このうち、特にイギリスで見つかったタイプの変異ウイルスの増加が顕著で、民間の検査会社の分析では、アメリカで新たに感染した人の20%以上が、この変異ウイルスだと推定されています。

また、東部ニューヨーク市や、西部のカリフォルニア州では別の変異ウイルスも確認されていて、複数の研究者はこれまでのものよりも感染を広げやすい可能性を指摘しています。

感染者が減少傾向にあることを受けて、全米で経済活動や屋内での集会の制限などを緩和する州が相次いでいて、有力紙「ニューヨーク・タイムズ」の集計では全米50州のうち、42の州と首都ワシントンで感染対策を緩和しています。

しかし、バイデン政権で首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ博士は3月11日、アメリカメディアとのインタビューで「1日5万人から6万人の新たな感染者はまだ高い水準だ。対策の緩和は徐々に行わなければならない。さもなければ、2020年起きたような感染の急激な再拡大が再び起きる可能性がある」として、変異ウイルスという新たな懸念材料がある中、早期の対策の緩和には慎重な姿勢を示し、より多くの人にワクチンを接種することが平常に戻るための手段だと述べました。

ヨーロッパの感染状況

ヨーロッパ各国は、外出制限といった厳しい規制を導入するなど対策を行ってきましたが、1年たった今も厳しい状況が続いています。

中でもイギリスは、これまでにヨーロッパでは最も多い12万人を超える人が亡くなりました。
2020年春以降、外出制限や経済活動の規制など厳しい対策で感染を抑えようとしてきましたが、追い打ちをかけたのが、感染力が強いとされる変異ウイルスです。

2020年12月以降、変異ウイルスの感染拡大とともに感染者や死者は増え、新たな感染は多くが変異ウイルスによるものです。2021年1月からは3度目となる外出制限などの厳しい措置が全土で導入されました。

さらに深刻な感染状況に対処するため、ワクチンの接種は1回目を優先させていて、これまでに人口のおよそ34%あまりが少なくとも1回接種しています。

1月中旬以降、感染者は減少に転じていますが、今後、新たな変異ウイルスにどう対応するかが課題で、ジョンソン首相は、変異ウイルスに対応したワクチンの追加接種が秋以降、必要になる可能性があるとしています。

さらに、現在も続く厳しい規制の緩和も課題です。一気に規制を緩めれば、再び感染が拡大しかねず、感染状況やワクチンの接種状況をみながら、慎重に進められる計画ですが、経済活動の早期再開を求める声もあがっています。

一方で、いま、変異ウイルスの脅威にさらされているのがイタリアやフランスなどヨーロッパ大陸の国々です。

このうち2020年3月、ヨーロッパでは最初に外出制限などの厳しい規制に踏み切ったイタリアは、3月8日に亡くなった人が10万人を超えイギリスに次いで多くなっています。

ドラギ首相は「1年後に同じ非常事態に直面するとは思いもしなかった」と述べています。

政府は、2020年の秋、再び感染が拡大したことを受け地域の感染状況に応じて規制を強化するなど対策をとってきましたが、感染を抑えることはできませんでした。2月中旬の時点で変異ウイルスによる感染が新たな感染者の50%を占めています。

イタリアをはじめ各国はワクチンの接種を加速させる方針を示していますが、供給の遅れなどに直面し先行するイギリスに比べ進んでいないのが現状で、さらに規制を強化するか難しい対応を迫られています。

世界のワクチン接種状況

世界各国の政府などが公表したデータをまとめているイギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するウェブサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によりますと、世界では、少なくとも109の国や地域で、新型コロナウイルスワクチンの接種が始まっていて、10種類のワクチンが実際に使用されています。

日本時間の3月12日午前10時の時点で、全世界で接種された新型コロナウイルスのワクチンは、合わせておよそ3億2800万回となっています。

また少なくとも1回、接種を受けた人の数は、中国などのデータが含まれていないものの、およそ1億9800万人にのぼります。

接種回数を国別にみますと、
▼アメリカがおよそ9570万回と最も多く、
次いで
▼中国が5252万回、
▼インドが2569万回、
▼イギリスが2406万回、
▼ブラジルが1176万回、
▼トルコが1036万回、
▼イスラエルが907万回などとなっています。

人口に対する接種を完了した人の割合は
▼イスラエルがおよそ46.2%と最も高くなっていて、
次いで
▼UAE=アラブ首長国連邦が22.1%、
▼アメリカは9.8%、
▼セルビアが9.5%などとなっています。

ただ世界全体の人口に対して接種を完了した人の割合は0.9%にとどまっていて、ワクチンの効果で世界的に感染者が顕著に減少するまでにはまだ時間がかかる見通しです。

変異ウイルス対応ワクチンの開発も

また、イギリスや南アフリカなどで見つかった複数の変異ウイルスに対応する新たなワクチンの開発も始まっています。

▼モデルナは、3月から南アフリカの変異ウイルスに対応するワクチンの臨床試験を始めました。

▼また、ファイザーも現在は2回となっている接種を3回に増やした場合、変異ウイルスに対する効果が変わるか調べる臨床試験を始めるほか、南アフリカの変異ウイルスに対応するワクチンの 開発も検討しているとしています。

▼イギリスのアストラゼネカも変異したウイルスに対応するワクチンの開発を進めています。

収束への課題

WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は2020年3月11日に開いた定例の記者会見で「新型コロナウイルスはパンデミックと言えると評価した」と述べて世界的な大流行になったという認識を示し、この1年間、各国に対して対策の強化を訴えましたが、課題は山積しています。

WHOなどが立ち上げたワクチンを世界に公平に分配するための枠組み「COVAXファシリティ」でのワクチンの供給は2月、アフリカのガーナから始まりましたが、2021年の第1四半期に供給を受ける予定になっている途上国などでも、いまだにワクチンが届いていない国も多いのが現状です。

またWHOの調査チームは、2021年1月から2月にかけて中国の武漢でウイルスの発生源などを調査し、2019年12月の時点でこれまで報告されていたよりも感染が広がっていたことを示す明確な兆候があったと証明することができたなどとしていますが、発生源を解明するには中国側がさらに情報を提供する必要があるという認識を示し、調査は難航しています。

さらに、新型コロナウイルスについてWHOや各国の対応を検証している独立委員会は、2021年1月のWHOの執行理事会で「国際社会や各国は初期の段階でいくつもの重大な失敗を犯した」と指摘し、パンデミックの対応にはWHOの改革が必要だと指摘していて、各国の指摘なども踏まえて、2021年5月のWHO総会に最終報告を提出する予定です。