“走り抜けられた”
北京パラリンピックで出場するすべての種目を終えた12日のレース後。
村岡選手は、今大会いちばんのすっきりとした表情を見せました。
「この4年間、楽しいことばかりじゃなくて、つらいこと、苦しいこともあったが走り抜けられたと感じている。4年前と比較して成長できたんじゃないかと思う」
二刀流でリセット
東京パラリンピックの陸上に出場した村岡選手。北京パラリンピックに向けてスキーに本格的に向き合えた時間は、わずか半年間でした。
それでも村岡選手にとって、二刀流に挑戦したことは、計り知れない効果がありました。
陸上を始めたのは、前回のピョンチャン大会で5種目すべてでメダルを獲得し「やりきったという気持ちがあった」ことが要因の1つでした。
「金メダリストということがプレッシャーになっていた」
「勝たなきゃいけないという思いで、レースがつらかった」
頂点に立った選手が直面する壁に視界を遮られ、たどり着いたのが“二刀流”でした。
「陸上競技に集中して取り組むことで、スキーから距離を置きいろいろな角度から自分を見つめ直すことができた。リセットできたと思う」
肉体的にも精神的にも強く
陸上に取り組んだことで、思わぬ副産物も手に入れました。
車いすを強くこぐため、トレーニングで体幹などの筋力がつき、スキーにはない体の動かし方も身についたことで、ターンや切り返しの安定性があがりました。
そして村岡選手が強調するのが精神的に強くなったこと。
「陸上を始めて、いろいろなことに耐え抜く力がついてきた。フィジカル以外でもスキーに生きている」
大会まで1か月半という時期に練習で転倒し右ひじのじん帯を痛めた時も、今大会2種目めのスーパー大回転で滑っている最中にコンタクトレンズが外れるというアクシデントに見舞われた時も、みずからの置かれた状況を客観視して動じませんでした。
苦手種目にも自分らしく
金メダル3個、銀メダル1個を手にして臨んだ最後の種目は回転。
細かいターンが要求されるため、座って滑るクラスの選手の中でも障害が重い村岡選手が苦手とする種目です。
「自分らしく滑るだけ」と臨みましたが、1回目はコース中盤のターンでブレーキがかかり、トップとおよそ5秒差をつけられました。
2回目はタイムを1秒余り縮めたものの順位は上げられず5位で、2大会続けて5種目すべてでメダル獲得という快挙は逃しました。
それでも今大会、4年前を上回る3つの金メダルを獲得し「自分にすごくいい点数をつけられるレースができた。この大会を通してまた一回り成長できた」と振り返りました。
ライバルもその進化を認め、村岡選手が金メダルを逃した回転とスーパー複合をともに制したドイツのアナ レーナ・フォルスター選手は「東京パラリンピックに出場してからわずかな期間しかなかったのにこれだけの強さを見せるなんてびっくりだ。本当にタフで冷静な選手。4年後も彼女と競い合いたい」とたたえました。
二刀流の先に見据えるのは…
二刀流で走りきった4年間を終え村岡選手は充実感に満ちたすがすがしい表情で語りました。
「すごく晴れやか。やりきったなという達成感があり、どこを振り返っても結果として楽しかったと思える日々だった」
「すごく充実した、長くて短い4年間」を過ごしてたどりついた“二刀流のゴール”の先には何を見据えるのか。
その質問に村岡選手は「とりあえず帰って、めっちゃ寝るっていうことしか考えてないです」と笑って答えました。