【詳細】イスラエル・パレスチナ・中東情勢(5月10日)

イスラエルとイスラム組織ハマスの間の戦闘休止などに向けた交渉は、大きな進展がないまま、双方の交渉団が再びエジプトを離れました。
一方、アメリカのバイデン大統領がイスラエルに対し、ガザ地区南部ラファへの大規模な地上作戦を行えば、武器を供与しないと警告したことを受けて、両国の間で不信感が高まっています。
イスラエルのネタニヤフ首相は「国を守るためにやるべきことをやる」と述べ、あくまでラファへの地上作戦が必要だという考えを示しました。

※中東情勢に関する日本時間5月10日の動きを随時更新してお伝えします。

ネタニヤフ首相 あくまで地上作戦が必要との考え示す

イスラエル軍は、多くの住民が避難するラファの一部で地上作戦を続けていて、アメリカのバイデン大統領はイスラエルに対して、大規模な地上作戦を行った場合、砲弾などの武器を供与しないと警告しています。

こうしたなか、イスラエルのネタニヤフ首相は9日、アメリカのメディアのインタビューで「バイデン大統領との間には意見の違いもあったが、それを乗り越えることを期待している」と述べました。

ただ「われわれは国を守るためにやるべきことをやる。ラファに残るハマスの部隊を残しておくことはできない」と述べて、あくまでラファへの地上作戦が必要だという考えを示しました。

イスラエル側からはバイデン大統領の発言に反発する声が相次いでいて、アメリカとイスラエルの間で不信感が高まっています。

“戦闘休止の交渉は行き詰まっている” イスラエルメディア

イスラエルとイスラム組織ハマスの間で続く、戦闘休止と人質解放のための交渉について、イスラエルメディアは双方の交渉団がエジプトを離れ、交渉が行き詰まっていると報じています。

停戦の見通しが立たないなか、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は10日、これまでに推計で11万人がラファから避難したと発表しています。

今後、イスラエル軍が地上作戦を拡大すれば、さらに現地の人道状況が悪化することが懸念されていて、イスラエル側の出方が焦点となっています。

東エルサレムUNRWA事務所 “イスラエル人の放火相次ぎ閉鎖へ”

UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関のラザリーニ事務局長はSNSに、東エルサレムにあるUNRWAの事務所が9日、イスラエル人に2回にわたって放火されたと投稿しました。

事務所にいたUNRWAやほかの国連機関の職員にけがはなかったということです。

一方、敷地内には国連車両のための給油施設があるにもかかわらず、イスラエルの消防当局の到着に時間がかかり、職員たちがみずから消火活動をしなければならなかったとしています。

さらに、イスラエルメディアで使われたとする動画を投稿し、敷地内から煙が立ち上る中、武装した人々を伴った集団が「国連を燃やせ」などと歌っていると指摘しました。

ラザリーニ事務局長は「とんでもない展開だ。国連職員の命が再び深刻な脅威にさらされた」と強く非難しました。

そのうえで、国連の職員と施設の安全を確保するのはイスラエル政府の責任だとして、捜査を求めるとともに、必要な警備態勢が整うまで事務所を閉鎖するとしました。

ラファ地上作戦 “武器供与せず” 米とイスラエルに深刻な亀裂か

イスラエル軍はイスラム組織ハマスの壊滅に向けて、ガザ地区南部ラファへの地上作戦を強行する構えを見せています。

これについて8日、バイデン大統領はCNNテレビとのインタビューで、イスラエルがラファへの大規模な地上作戦を行った場合、砲弾などの武器を供与しない考えを明らかにしました。

これに対して、イスラエル側は激しく反発しています。ネタニヤフ首相は9日の声明で「イスラエルはひとりで戦う必要があればそうするだろう」などと述べたほか、ガラント国防相も9日「イスラエルを抑え込むことはできないと、敵だけでなく友人にも伝えたい」と発言しました。

極右政党の党首でもあるベングビール国家治安相は、SNSでハートマークを使ってハマスとバイデン大統領が相思相愛だと受け取れる趣旨の投稿を行い、バイデン大統領の発言を批判しています。

イスラエルメディアは9日、戦時内閣が閣議を開き、今後の対応を協議すると伝えています。

米有力紙 “過去最悪の危機の1つになる可能性”

アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、イスラエルがレバノンを爆撃した1981年に、当時のレーガン大統領がイスラエルへの戦闘機の供与を延期したことを引き合いに出し「武器供与の停止はアメリカとイスラエルの関係において過去最悪の危機の1つになる可能性がある」と報じています。

アメリカのバイデン大統領が公にイスラエルへの武器供与の停止に言及したことが、難航する交渉の打開やラファへの大規模な地上作戦の回避につながるのか、イスラエル側の対応が焦点になっています。

イスラエル軍報道官 “ラファでの作戦に必要な武器保有”

アメリカのバイデン大統領がイスラエルがガザ地区南部ラファへの大規模な地上作戦を行った場合、武器を供与しない考えを示したことについて、イスラエル軍のハガリ報道官は9日、記者会見の中で「イスラエル軍は、現在計画している作戦と、ラファでの作戦に必要な武器を保有している。われわれには必要なものがある」と述べ、アメリカからの供与がなくても武器などの十分な備えがあると明らかにしました。

アメリカのこれまでのイスラエル支援

アメリカは長年、イスラエルの最大の軍事支援国となってきました。

1973年にエジプトとシリアをはじめとするアラブ諸国とイスラエルとの間で起きた「第4次中東戦争」のあと、アメリカはイスラエルへの軍事支援を本格化させ、以降、最新鋭の戦闘機の提供や防空システムの開発支援を含む多額の軍事支援を続けてきました。

2016年にアメリカとイスラエルが交わした覚書では、2018年からの10年間で380億ドルの軍事支援を行うとしています。

アメリカは去年10月にガザ地区での戦闘が始まって以降、国内外の批判を受けながらも支援を続けてきましたが、アメリカのメディアは武器供与の停止に言及したバイデン大統領の今回の発言によって、アメリカとイスラエルの間の亀裂が近年になく広がっているとの見方を伝えています。

上川外相 “ラファ軍事作戦に反対 即時かつ持続可能な停戦を”

上川外務大臣は記者会見で、イスラエル軍によるガザ地区南部ラファへの地上作戦について、「ラファへの全面的な軍事作戦には反対で、人道支援や人質の解放が実現するよう、即時かつ持続可能な停戦を強く期待している。わが国としても、事態の沈静化に向け、あらゆる外交努力を行う」と述べました。

また、アメリカのバイデン大統領が、大規模な地上作戦が行われればイスラエルに砲弾などの武器を供与しない考えを示したことについては「第3国間のやり取りの一つ一つにコメントすることは差し控える」と述べるにとどめました。

イスラエルとハマスの交渉団 進展ないままエジプト離れる

イスラエルとハマスが戦闘休止と人質解放に向け仲介国のエジプトで続けていた交渉について、イスラエルメディアは9日、イスラエルの交渉団がエジプトを離れたと伝えました。

ハマスも9日、声明を発表し「イスラエル軍のラファへの侵攻は仲介者の努力を妨げている」と非難した上で、交渉団がカタールに戻ることを明らかにしました。

ハマスは6日、仲介国の提案を受け入れると発表し、イスラエルも提案に不満を示しながらも協議に応じていましたが、交渉は大きな進展がないまま双方の交渉団がエジプトを再び離れることになったと見られます。

米大統領補佐官 “ラファ侵攻 ハマス打ち負かすことにならず”

一方、アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は9日、イスラエルにハマスを壊滅させる別の方法を提案してきたとして「バイデン大統領はこれまで数週間にわたり大規模な地上作戦は支持しないと明確にしてきた。イスラエルは選択しなければならない」と述べました。

そして「ラファに侵攻してもハマスを長期的に打ち負かすことにはならない」と述べ、むしろ交渉ではハマスに有利に働く可能性があるという認識を示し、イスラエル側に改めて自制を求めました。

また、バイデン大統領が大規模な地上作戦が行われればイスラエルに砲弾などの武器を供与しない考えを示したことについて、記者団から武器供与を停止する基準を問われたのに対し、カービー補佐官は明確な回答を避けました。

一方、難航するイスラエルとハマスの戦闘休止などをめぐる交渉については「隔たりは埋まっていない。前進する道はあると信じるが、それには双方のリーダーシップが必要だ」と述べ、予断を許さない状況にあるという認識を示しました。

“女性の心身に深刻な影響” 国連機関が調査結果発表

ガザ地区に対するイスラエル軍の攻撃が続く中、国連機関は、女性の心身に深刻な影響が出ているという調査結果を発表し、一刻も早い停戦を訴えています。

「UN Women」は、最南端のラファで暮らす360人を対象に行った調査の結果を5月、公表しました。

それによりますと、回答者のうち、女性の▽93%が「自宅や避難先で安全ではないと感じている」としたほか、▽80%以上が気分の落ち込みを感じていて、▽66%が不眠を訴えていることがわかったとしています。

「UNFPA」=国連人口基金は、ラファには、妊娠中の女性が推定3万人いるとしています。

女性を取り巻く状況は厳しさを増していて、ラファで、毎月100人以上のお産が行われる病院で、活動を続けてきた国際NGOの「国境なき医師団」は今月8日に、この病院で活動していたスタッフをラファに隣接するハンユニスの別の病院に移したとしています。

「国境なき医師団」は、「撤退を余儀なくされた医療施設は、戦闘の続くわずか7か月の間に11か所になった。この戦争の残忍さと違法性を示している」として、一刻も早い停戦を訴えています。