新型コロナ 5類移行1年 マスク ワクチン 生活はこう変化した

新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行されて8日で1年です。行動制限などは行われなくなり、コロナ治療薬への補助などの支援策も廃止されて、通常の医療体制で対応していますが、専門家は「重症化してしまう人がいる病気であることは変わりないので引き続き一定の感染対策は必要だ」と指摘しています。

新型コロナは、去年5月に感染症法上の5類に移行され、緊急事態宣言による行動制限や、入院勧告などの対策は行われなくなりました。

また、マスクの着用などの感染対策も基本的に個人の判断に委ねられています。

5類移行後も続けられてきた治療薬の補助やワクチンの無料接種などの特例的な支援は、ことし3月いっぱいで廃止され、今年度からは通常の医療体制で対応する扱いになりました。

新型コロナ 感染状況の推移

新型コロナの感染者数は、去年5月以降、増減を繰り返しながら推移しています。

去年の9月ごろとことしの2月ごろには特に増加しましたが、現在は減少傾向で、1つの医療機関あたりの平均の患者数は、最新の4月28日までの1週間で3.22人となっています。

5類に移行後の感染状況について川崎市健康安全研究所の岡部信彦参与は「コロナの感染者が重症化する割合は、少なくなっていて、病床がパンクする状況ではないが一部で重症化してしまう人はいることは変わりなく、インフルエンザと比べて流行シーズンが終わっても居座るような病気だ。人々が注意しなくなると感染者数が増えるので、一定の感染対策は引き続き必要だ」と指摘していました。

マスク着用 どうすれば?

5類に移行されたことに伴い、感染対策は基本的に個人や事業所の判断に委ねられることになりました。

厚生労働省はマスクの着用も個人の判断が基本だとしていますが、重症化リクスの高い人への感染を防ぐために、一定の状況では着用を推奨しています。

まず、重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人、妊婦などについては、感染拡大時に混雑した場所に行く時は、自分を感染から守るため、マスクの着用が効果的だとしています。

また、周囲の人に感染を広げないため、医療機関の受診時や高齢者施設を訪問する際、混雑した電車やバスを利用する時などには、マスクを着用してほしいとしています。

球場の風船が復活 専用のポンプで

仙台市にある楽天の本拠地の球場では、集まったファンが購入した応援用の風船をそれぞれ膨らませ7回の攻撃の前に楽天の応援歌が流れ終わると、一斉に飛ばして盛り上がるのが観戦のだいご味の一つです。

しかし、新型コロナの感染拡大に伴って、それぞれが口で膨らませた風船はリスクがあるとして4年前の2020年から利用をとりやめてきました。

球団によりますと、ファンからの要望もあり、球団創設20年となる今シーズンから再び球場で風船を利用できることにしました。

新たに導入された応援用の風船は専用のポンプを使って膨らませるタイプで、球団では、口で膨らませることは禁止しているということです。

居酒屋 ほぼコロナ禍前の風景に

仙台市青葉区の居酒屋ではランチも提供していて、8日昼ごろは、客や従業員のうち多くの人がマスクを着けておらず、出入り口に1つだけ置かれた消毒用のアルコールを使う人もいませんでした。店内では、4人グループで会話をしながら食事を楽しんでいる人もいました。

5類に移行して1年がたち、コロナ禍前の風景にほぼ戻りましたが、夜の遅い時間帯の客足は回復しきっておらず、時間を短縮しての営業を余儀なくされているということです。

この居酒屋を運営する「ぼんてんグループ」の長谷川正美取締役本部長は、「5類になったその日にアクリル板などを撤去して、お客さんが飲食しやすい環境を作ってきました。経済も低迷していて、世の中は戻りきっていないが、早くコロナ前のように戻ってほしい」と話していました。

介護施設 マスクや間仕切りで感染対策を継続

4度のクラスターが起きた千葉県の介護施設では、入居者と親族などとの面会で透明の間仕切りの設置や時間制限を行うなどの感染対策を続けています。

千葉県市川市にある特別養護老人ホーム「親愛の丘市川」では、新型コロナの感染拡大以降、これまでに4度のクラスターが起きました。

感染後、医療機関のひっ迫で入院できず、施設で療養を続けるなか、体調が急変した高齢者の搬送先がなかなか決まらず、その後、到着した病院で死亡したケースもあったということです。

こうしたことから、施設では職員のマスク着用や健康観察、入居者の外出時のマスク着用など感染対策を続けています。

さらに、入居者と親族などとの面会では特別に用意された個室に透明の間仕切りを設置した上で、それぞれ別の扉から入ってもらい直接、接触しないよう対策を行っています。

面会には予約が必要で、1回15分の時間制限もあります。

高齢者施設 職員全員がマスクやフェースシールド着用で介助

およそ90人の高齢者が入居する松山市の「ガリラヤ久米」では、新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行された去年5月以降も感染対策の徹底を図っています。

職員全員がマスクやフェイスシールドを着用して介助にあたり、それぞれが腰に着けたホルダーに消毒液の容器を入れてこまめに手や指を消毒しているほか、1日2回は部屋の換気や消毒も行っています。こうした対策を取っても感染者が出ることは避けられず、去年5月以降も2度集団感染が起こり、この1年で職員と入所者合わせて64人が感染したということです。

このため施設では抗原検査キットおよそ500セットや使い捨てのガウンなども準備して感染者が出たときに対応できるようにしています。

佐々木忍施設長は「5類に移行してもコロナウイルスが弱体化したわけではないので、できるかぎりウイルスを持ち込まないよう同じ対策を続けていくしかないと思っています」と話していました。

一方、施設では感染対策を続けながら制限の緩和を進めようとしていて、このうち入居者と家族の面会は入り口付近のスペースに限っていたのを今月13日からは従来どおり入居者の部屋でもできるようにする予定だということです。

内科クリニック 患者を分ける対応継続

仙台市青葉区二日町にある内科のクリニックでは、新型コロナによる感染が広がる前は、多くのクリニックと同じように患者には同じ待合室で待機してもらい、同じ診察室で診察していました。

しかし、新型コロナの感染が広がり、「発熱外来」を始めてからは診察は予約を基本とし、クリニックの駐車場にワンボックスカーを置いて感染が疑われる患者にはそこで待機してもらい、診察していました。

このクリニックでは新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行したあとも感染のリスクを少しでも減らすため、これまでと同様、感染が疑われる人は待合室や診察する場所を別の患者とは分ける対応を続けています。

おおひら内科クリニックの大平哲也院長は「よく考えれば昔のやり方が普通ではなかったわけで、今後もこの形で診察することになると思う」と話していました。

コロナ後遺症の患者 複数の医療機関を転々と…

窪田梨絵さん

コロナ後遺症の患者の中には、重い症状が続く一方で、医療機関で後遺症に関する説明や治療を十分に受けられず、複数の医療機関を転々と受診した人もいます。

青森市の窪田梨絵さん(36)は、2023年8月に新型コロナに感染して以降、およそ9か月がたった現在も発熱や身体の痛みなどの症状が続いています。

窪田さんは症状が続いてすぐに後遺症に対応する医療機関で検査を受けましたが、異常は確認されず、処方された解熱剤を飲んでも熱が下がりませんでした。

医師に別の治療法がないか尋ねましたが、詳しい説明はなかったといいます。

その後、自分で情報を集めて医療機関を転々とし、5か所目でコロナ後遺症と診断を受けて継続的な治療を受けられるようになりました。

窪田さんはコロナ感染前は広告デザインの仕事をしていましたが、起き上がることも難しい状態が続き、去年9月に退職しました。

現在は、青森市内の病院で治療を続け、症状は徐々に改善していますが、傷病手当金や失業給付の給付期間が終了し収入が無い状態になっていて、今後、後遺症が治って元の生活を取り戻せるのか、不安が尽きないといいます。

窪田さんは「後遺症について丁寧な説明はなく、『解熱剤を出すしかない』と言われたので、治療が打ち切られたと感じました。自分で血眼になって情報を集めるしかなく、同じように悩んでいる患者は多いと思うので、どこの病院でも安心して治療が受けられるようになってほしいです」と話していました。

そのうえで、「やりがいをもって続けていた仕事も辞めざるを得ず、つらく、悔しく、将来への不安がすごくあります。誰がこのような状況になってもおかしくないと思うし、5類になってもコロナ自体が無くなったわけではないので、ひと事のようには考えないでほしいです」と話していました。

コロナ後遺症外来 患者から診療依頼が数多く

コロナ後遺症外来を設置しているクリニックには、患者からの診療の依頼が数多く寄せられています。

東京 渋谷区の「ヒラハタクリニック」はコロナ後遺症の外来を設置しています。

院長の平畑光一医師によりますと、後遺症の診療を希望する患者からの相談は全国から来ているということで、取材に訪れた先月22日には、受付開始から10分間で40件近くのオンライン診療の予約が入りました。

クリニックでは、症状に応じた薬を処方したり、運動療法や呼吸法の指導を行ったりしていて、多くの患者はこうした治療やケアで症状が改善する傾向にあるということです。

一方で平畑医師は、コロナ後遺症の患者に対応できる医療機関がまだ限られていると感じています。

患者の中には、地元の医療機関でコロナ後遺症かどうか判断できないと言われたり、コロナ後遺症と診断されても「治療法はない」と言われたりして、ヒラハタクリニックに相談に来る人が少なくないということです。

この日受診した東京 立川市の50代の女性は、2年前に新型コロナに感染後、息苦しさなどが続いて自宅近くの病院を受診しましたが症状が改善せず、知人の勧めでこのクリニックに通い始めました。

女性は「当初は呼吸するのも難しい状態でしたが、自宅近くの病院で『ちょっと運動すれば治るのではないか』と言われ、辛さを理解してもらえませんでした。丁寧にみてもらえる医療機関が近くにあればいいなと思います」と話していました。

平畑医師は「今も北海道や沖縄からも患者が訪れていて、後遺症を継続的に治療できる医療機関はまだまだ少ないと感じている。診察した患者の7割近くで失職や休職など、仕事の継続に影響が出ていて、後遺症の影響は深刻だ。後遺症に対応できる医療機関を増やす対策を行ってほしい」と話していました。

専門家「行政は医療機関と連携し情報提供の強化を」

岡部信彦さん

政府の委員として新型コロナウイルス対策にあたり、現在は厚生労働省が医療機関向けに作成しているコロナ後遺症に関する「診療の手引き」で編集委員の代表を務める、川崎市健康安全研究所の岡部信彦参与は「いわゆるコロナ後遺症でみられるような症状を専門的に診療できる医師は少ないのが現状だ。特定の専門家のところに患者が集中するのではなく、まずは地域の医療機関やかかりつけ医でしっかりと相談でき、症状が長引いたり、さらに検査が必要になったりした場合に専門的な医療機関へつないでいくような体制が求められる」と話していました。

そのうえで「コロナ後遺症は新しい病気による症状で情報が限られている。地域の医療機関で対応するためには、こうした医師などを対象に、自治体や医師会、学会などの単位で研修会を行ったり、情報交換をする機会を今後も作っていくことが求められる。患者が相談できるよう、行政は医療機関と連携して、コロナ後遺症について情報提供する取り組みを強化していくことも必要だ」と話していました。

そのうえで「最新の研究では、多くの患者で、時間がたてば徐々に症状が改善することもわかってきているので、患者も医療側も前向きに、粘り強く対応していく必要がある」と話していました。

【詳しく】支援策や後遺症への対策 どのように変わったのか

新型コロナが法律上の5類に移行されて1年がたち、コロナの支援策や後遺症への対策はどのように変わったのか、詳しくまとめました

コロナ治療薬

高額なコロナ治療薬の費用については、ことし3月までは公費負担があり薬の種類にかかわらず最大で9000円の自己負担で利用できていましたが、4月からは公費負担が終了し、自己負担額が上がりました。

自己負担額は薬の価格によって変わり、例えば「ゾコーバ」では、5日分の薬が処方されが場合、薬の価格がおよそ5万2000円のため、医療費の自己負担割合が、1割の場合はおよそ5200円、2割の場合はおよそ1万300円、3割の場合はおよそ1万5500円の自己負担が求められます。

メーカーの塩野義製薬が治験を行った結果、新型コロナに感染して「ゾコーバ」を服用した人は、半年後に後遺症とみられる症状が出るリスクが半分ほどに下がったと発表しています。

ワクチン

新型コロナワクチンの接種は、3月までは無料で受けられましたが、4月からは、季節性インフルエンザなどと同様に、原則費用の一部自己負担を求める「定期接種」で行われます。

接種費用の自己負担額は最大でおよそ7000円で、65歳以上の高齢者と、60歳から64歳で基礎疾患がある重症化リスクの高い人を対象に年に1回、秋から冬の間に行われます。

これ以外の人は「任意接種」となり、自己負担額は7000円を超える見通しです。

入院医療費

重症化のリスクがある場合などに入院して治療を受けると3月までは「高額療養費制度」を適用したうえで、さらに最大1万円が補助されてきましたが、4月からはこの補助がなくなりました。

厚生労働省の試算では、住民税非課税世帯ではなく、年収がおよそ370万円までの75歳以上の高齢者が、新型コロナで7日間入院した場合、コロナ治療薬の費用を除く自己負担額は所得に応じて3万9800円から5万7600円となるほか、食事代が別でかかります。

後遺症対策

コロナが法律上の5類に移行された去年5月8日から後遺症の患者を診療した医療機関に支払われる診療報酬が特例的に加算されていましたが、この加算については、今年度の診療報酬改定で終了することが決まっています。

改定後は、コロナを含む感染症の後遺症が疑われる場合に精密な検査ができる体制を整えているかや、定められた感染症対策をとっているかなど、複数の条件に適合した診療所に対して報酬が加算されます。

また、後遺症の詳しい症状や、原因の解明、治療法の開発などに向けた研究は今年度も継続して行われます。

コロナ後遺症の支援制度

後遺症の影響で休職する場合などに給付の対象となる主な支援制度は以下の通りです。

《労災保険》
仕事や通勤が原因で新型コロナに感染し、その後遺症で療養が必要などと認められる場合には、労災保険の給付の対象になります。

詳しくは職場のある地域を管轄する労働基準監督署に相談してください。

《健康保険》
仕事や通勤以外の原因で新型コロナに感染し、仕事をすることが困難になった場合、仕事に就くことができなかった期間などの要件を満たせば健康保険制度を活用して傷病手当金が支給されます。

支給を受ける要件や申請の手続きなどについては加入している健康保険組合などに相談してください。

《障害年金》
後遺症によって日常生活が著しく制限を受けるなどしている場合、法令で定められた障害の程度などの要件を満たせば、障害年金の対象となります。

地域の年金事務所のほか、相談窓口に電話で問い合わせることができます。

番号は0570-05-1165です。

《身体障害者手帳》
後遺症の症状によって視覚や聴覚、声などに障害のある状態になった場合は、要件を満たせば身体障害者手帳が交付されます。

申請方法など詳しい情報は各地の市区町村の担当部署に相談してください。

《精神障害者保健福祉手帳》
後遺症によって一定程度の精神障害の状態にあると認定された場合は、要件を満たせば精神障害者保健福祉手帳が交付されます。

申請方法など詳しい情報は各地の市区町村の担当部署に相談してください。

《生活困窮者自立支援制度》
就労や住まいなどに関する生活の困りごとに対しては、地域の自立相談支援機関が相談に応じています。

林官房長官「不安 負担の軽減図っていきたい」

林官房長官は、8日午前の記者会見で「いわゆる後遺症により困難を抱える方々への支援は引き続き重要だ。新型コロナの、り患後の症状で困難を抱える方々の不安や負担の軽減を図っていきたい」と述べました。

その上で「去年9月には次の感染症危機に備えて万全の備えを構築すべく、『内閣感染症危機管理統括庁』を設置し、およそ10年ぶりに政府の行動計画の全面改定に向けた検討を進めている。次の感染症危機に対して、政府一丸となって万全を期していきたい」と述べました。