新型コロナ 治療薬など支援策 終了へ どう変わる?【詳しく】

新型コロナウイルスの患者などへの支援策を今月末で終了すると厚生労働省が発表しました。

来月、4月以降、コロナの治療薬やワクチンにどれくらいの自己負担が求められるのか。まとめました。

通常の医療体制に完全移行へ

新型コロナウイルスは感染症法上の位置づけが、去年5月に「5類」になり、厚生労働省は、その後、患者や医療機関への財政支援を段階的に縮小し、ことし4月からは季節性インフルエンザと同様の対応とする方針を示していました。

厚生労働省は感染状況などを踏まえ、予定どおりに支援策を今月末で、すべて終了することを正式に決めたと発表しました。5日、自治体にも通知したということです。

これで法律上の「5類」に位置づけられて以降も続けられた特例の支援は無くなり、来月から新型コロナは通常の医療体制での対応に完全に移行されます。

治療薬の自己負担 より高額に

支援策のうちコロナ治療薬については、これまで自己負担額は最大9000円で処方されていましたが、来月からはより高額の自己負担が求められます。

例えば治療薬の「ゾコーバ」が5日間処方された場合、薬の価格がおよそ5万2000円のため、医療費の窓口負担が3割の人は、およそ1万5500円を自己負担することになります。

治療薬「ゾコーバ」

このほか、▽医療機関が新型コロナの入院患者の受け入れに備えて病床を空けた場合に空床補償として支払ってきた「病床確保料」、▽入院医療費の特例的な補助などについても、今月末で終了されます。

厚生労働省の武見大臣は「現在の感染状況などを踏まえ、予定どおり措置を終了することにした。引き続き丁寧な情報発信に努めていきたい」としています。

【詳しく】4月からどう変わるのか

特例的な支援策が終了することで新型コロナに関わる医療は来月からどのように変化するのか詳しくまとめました。

≪コロナ治療薬≫

外来の医療費は「5類」への移行を受けて、窓口負担分は自己負担に見直された一方、高額なコロナ治療薬の費用については一部、公費負担が続けられてきました。

支援策の見直しが行われた去年10月からは医療費の負担割合に応じて、薬の種類にかかわらず最大で9000円の自己負担が求められていました。

これについて、来月からは公費負担が終了し、自己負担額が上がります。薬の価格や医療費の自己負担割合によって、どう変わるのか、表でまとめました。

自己負担額は薬の価格によって変わり、例えば5日分の薬が処方される場合、ゾコーバでは、薬の価格がおよそ5万2000円のため、医療費の自己負担割合が▼1割の場合はおよそ5200円、▼2割の場合はおよそ1万300円、▼3割の場合はおよそ1万5500円の自己負担が求められます。

同様にラゲブリオでは薬の価格がおよそ9万4000円のため、▼1割の場合およそ9400円、▼2割の場合およそ1万8800円、▼3割の場合およそ2万8200円となります。

「ラゲブリオ」

また、パキロビッドの場合は薬の価格がおよそ9万9000円のため、▼1割の場合およそ9900円、▼2割の場合およそ1万9800円、▼3割の場合およそ2万9700円となります。

このほか、新型コロナの疑いで外来の医療機関にかかった場合は検査料や医療費も必要になります。ただ、1か月あたりの医療費が高額になった場合には、医療保険の「高額療養費制度」が適用され、所得に応じた限度額以上の自己負担額は生じません。

≪入院医療費≫

重症化のリスクがある場合などに入院して治療を受けると、これまでは「高額療養費制度」を適用した上で、さらに最大1万円が補助されてきましたが、これが3月で終了し、4月からは補助はなくなります。

厚生労働省の試算では、住民税非課税世帯ではなく、年収がおよそ370万円までの75歳以上の高齢者が、新型コロナで7日間入院した場合、コロナ治療薬の費用を除く自己負担額は所得に応じて3万9800円から5万7600円となるほか、食事代が別でかかります。

≪ワクチン接種≫

新型コロナワクチンの接種は、現在は費用が全額公費負担で、無料で受けることができますが、来月以降は季節性インフルエンザなどと同様に、原則費用の一部自己負担を求める「定期接種」で行われます。

定期接種の対象者は65歳以上の高齢者と、60歳から64歳で基礎疾患がある重症化リスクの高い人です。

厚生労働省は接種費用の自己負担額を最大で7000円程度にする方針で、このほかに、自治体独自の補助が行われた場合は、さらに負担額が少なくなることも考えられます。

定期接種の対象以外の人は「任意接種」となるため、自己負担額は7000円を超える見通しです。

ワクチンの接種後に死亡した人については、予防接種法に基づいた健康被害の救済制度があります。

これまでは国が因果関係が否定できないと認定した場合には、死亡一時金としておよそ4500万円が支給されていましたが、4月から定期接種になると、法律上の位置づけが変わるため、▽遺族一時金としてのおよそ750万円、▽遺族年金として1年におよそ250万円が最長で10年間支給されます。一時金と年金の支給額は毎年度見直されていて、来年度以降の金額については今月中に決まります。

ワクチンに関係する学会などで作る団体・予防接種推進専門協議会は、先月、考え方を示し、ワクチンによって重症化や感染した後の後遺症を抑えられるなどとして、「XBB.1.5」に対応したワクチンの接種を受けていない人は、なるべく早く接種を受けることを強く推奨するとしています。

≪病床確保料≫

医療機関などへの支援策も変わります。

新型コロナの入院患者の受け入れに備えて病床を確保しておくための病床確保料、いわゆる「空床補償」について、見直しが行われた去年10月以降は、感染状況が一定の基準を超えて拡大するまで支給しないこととしていました。

今年度まででこの仕組みは終了し、4月からは感染状況に関わらず、「空床補償」は支給されないことになります。

4月からは病床確保料によらない通常の入院体制に移行されることになりますが、自治体の計画によりますと、去年11月時点で全国8700の医療機関で最大6万5000人の患者を受け入れる体制を確保しているということです。

≪高齢者施設への補助など≫

このほか、去年10月以降も継続されていた▽高齢者施設への補助、▽診療報酬の特例措置についても今年度までで終了となります。

医療機関 “重症化や後遺症のリスク高まる懸念も”

東京・渋谷区にある「みいクリニック」では、発熱外来を設けて新型コロナの疑いのある人の検査や診察を続けています。

クリニックではこの冬、新型コロナとインフルエンザの同時流行もあり、多い日は発熱外来におよそ50人の患者が訪れ、1日に5人程度が新型コロナと診断されていたということです。

一方で、懸念しているのが治療薬の処方を希望する患者の割合が減少していることだといいます。

治療薬は去年10月にコロナの支援策が見直される前までは年齢などにかかわらず無料で処方されていましたが、10月以降は最大で9000円の自己負担が求められるようになりました。

クリニックでは、重症化リスクの高い患者には新型コロナの治療薬を処方していて、重症化リスクが低い若い世代に対しても、治療薬を使うことで後遺症が発症するリスクが抑えられるというデータもあることから、服用を提案しています。

10月までは7割程度の患者が使用を希望していたということですが、自己負担が求められるようになると、その割合はおよそ半数未満まで減少したということです。

さらに来月からは自己負担額が上がることから、処方を希望する人がさらに減り、重症化のリスクや後遺症に悩まされる人が増える恐れがあると懸念しているということです。

みいクリニック 宮田俊男 理事長
「長引く咳や倦怠感などの後遺症の症状を訴える患者が多いほか、重症化リスクの高い高齢者の感染も確認されていて、コロナが恐ろしい感染症であることには変わりない。自己負担額が増えると治療薬の利用希望者が減ることが予想されるが、患者に接する医師として薬の効果やメリットを丁寧に説明して患者に納得してもらった上で判断してもらえるようにしたい」

専門家「特例的な公費負担の終了 やむを得ない」

政府の委員として新型コロナウイルス対策に当たってきた川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「新型コロナが登場した当初は、未知のウイルスの情報を得るとともに感染を広げないため、重症者や死者を出さないために検査や治療代が公費負担となっていたが、この4年で治療法や感染対策が確立してきた。医療者としては、患者の費用負担は少ない方がいいが、治療費がかかる病気がほかにもある中で、コロナの診療費だけを国が負担し続けるのは難しく、特例的な公費負担の終了はやむを得ない」と話しました。

その上で「今はオミクロン株が主流となり、当初よりも重症化しにくくなっているが、今後、変異によって強毒なウイルスが出現する可能性もある。その場合は公費負担を再開するなど、柔軟に制度を運用していく必要がある。変異ウイルスが国内で発生していないか、丁寧に監視することも重要だ」と指摘しました。

さらに、岡部所長は「新型コロナが医療費上、通常の病気と見なされるようになったとはいえ、インフルエンザと比べると重症化する人の割合は高く、引き続き注意すべき感染症であることには変わりない。なるべく感染しないよう、手洗いや人混みでのマスクの着用など基本的な感染対策は続けて欲しい」と話していました。