マラソン 前田穂南 日本記録更新「自分の力を出し切って」

大阪国際女子マラソンで19年ぶりに日本記録を更新した前田穂南(まえだ・ほなみ)選手がレースから一夜明けた29日、会見し「自分の力を出し切って記録を出せてうれしい」と喜びを語りました。

記事後半では今回の新記録を生み出した要因について詳しく解説しています。

日本記録更新から一夜明け 会見

3年前の東京オリンピック代表で27歳の前田選手は、28日に行われた大阪国際女子マラソンで中盤から積極的に仕掛ける走りを見せて2時間18分59秒のタイムをマークし、アテネオリンピックの金メダリスト、野口みずきさんの日本記録を19年ぶりに更新しました。

前田選手はレースから一夜明けた29日、大阪市内で会見し「友だちや知り合いからたくさんのメッセージがきた。自分の力を出し切って粘って走れたことで記録を出せてうれしい。今までで一番達成感がある」と喜びを語りました。

そのうえで、東京オリンピックのあと、けがに苦しんだ時期があったことを踏まえ「なかなか走れなくてつらい時期だったが、続けてきたことが結果につながってよかった」と充実した表情で振り返りました。

また、28日のレースの結果、3月の名古屋ウィメンズマラソンで、前田選手の日本記録より速いタイムの選手が出なければ、前田選手がことし夏のパリオリンピックの代表に内定することになり「待つだけなので、何も考えずに待っておく」と心境を話しました。

そして、今後に向けては「まだまだ記録は出ると思う。海外の選手とはスピードで差が出ているので、いかに縮めていくかだと思う」と、さらなる活躍を誓いました。

【解説】“日本新記録にこだわった思い”と“意識した練習”

前の日本記録保持者、野口みずきさんから花束を渡され、笑顔を見せた前田穂南選手。日本新記録にこだわった思いと、その記録を意識した練習が19年ぶりに歴史の扉をこじ開けました。

野口みずきさんから祝福

3年前の東京オリンピックで33位に終わった前田選手は、さらなる成長を目指して、目標を「日本新記録」に設定し、練習を重ねてきました。

当時の前田選手の自己ベストは、2時間23分台。

野口みずきさんの日本記録から4分以上の差があり、一見、高い目標ですが去年10月のMGCで7位に終わり、この時点でのパリオリンピックの代表内定を逃したあとも日本記録の更新にこだわり続けました。

MGC後の高地合宿では、野口さんが現役時代に取り組んでいた練習を参考にして、設定タイムをより速くするなど厳しい練習を重ねてきたということです。

そして、今回のレースでは、中間地点の22キロを過ぎたところから日本記録への強いこだわりを見せました。

レースはこの時点でもパリオリンピックの代表選考の条件となる設定記録よりも大幅に速いハイペースで進んでいましたが、前田選手は最大のライバルと見られていた松田瑞生選手やペースメーカーより前に出て一気にスピードを上げました。

前田穂南 選手
「不安はなかった。日本記録を出すという思いで体が動いたらいこうと思った」

武冨豊 監督(右)

指導する武冨豊監督も「無理なペースチェンジでなく、自然と体が反応した感じでこのままいけるだろうと思った」と評価する走りで、25キロからの5キロのペースはアフリカ勢よりも速いタイムをマークして、日本選手のライバルを置き去りにしました。

その後は雨が降り、向かい風が吹く難しいコンディションでしたが、大きくペースを落とすことなく、自己ベストをおよそ3分半も更新。日本選手初の2時間18分台をマークして、19年ぶりの日本新記録という快挙につなげました。

兵庫県出身で、プロ野球、阪神のファンという前田選手は、阪神の岡田彰布監督が昨シーズン、優勝を「アレ」と表現したことにちなんで、この大会で目標とした日本記録更新を「アレ」と話してきました。

こだわり続けて手にした、日本新記録で、日本女子のマラソン界は新たな時代に突入しました。

【解説】“厚底シューズ”を履きこなせる体づくり

前田穂南選手はけがをしたことをきっかけに「厚底シューズ」を履きこなせる体作りを進め「ゆとりを持って足を動かせている感覚がある」と手応えを感じています。

「厚底シューズ」はカーボンファイバー製のプレートが埋め込まれるなど反発力が高く、採用した選手が近年、マラソンなどの長距離種目で好記録をマークするケースが相次いでいます。

3年前の東京オリンピックでも多くの選手が「厚底シューズ」を使いましたが前田選手は、従来のシューズで臨み、33位に終わりました。

前田選手はオリンピックのあと、世界との勝負を見据えて「厚底シューズ」に履き替える決断をしましたが、当初は「なじまなくて靴を脱いで走りたいぐらいだった」と適応に苦労したといいます。

この時期には、かかとをけがするなど苦しみましたが、股関節などの可動域や柔軟性を広げるトレーニングを行って「厚底シューズ」を履きこなせる体作りを進めたということです。

さらに、より負担の少ないフォームを模索するきっかけとなり「これまでのシューズでは地面で指をつかんでかいて走っていたが、厚底にしてからは足の裏全体を使う感覚で走るようになった。ゆとりを持って足を動かせている感覚がある」と振り返りました。

練習やレース後の疲労も抑えられるようになったということで「厚底シューズ」に履き替えて、3回目のマラソンとなった今回のレースには「けがをせずに今までやってきていないような質の高い練習を継続できて自信を持って臨めた」と手応えをつかんで挑めていたことを明かしました。