「相続人いない財産」過去最多768億円が国庫へ 昨年度

去年1年間に日本では150万人以上が亡くなり、世を去りました。

亡くなった人が残した財産のうち、相続人がおらず国庫に納められた金額も増え、昨年度は、記録が残る2013年度以降で最多の768億円。

専門家は「少子高齢化や未婚率の上昇で相続人がいないケースが増えていることが背景にある」としています。

「相続人なき遺産」とは

相続人がいない財産とは、どのようなものなのか。

こうしたケースの対応にあたるため、家庭裁判所から「相続財産清算人」に選任された弁護士に同行し、相続人がいないマンションの部屋を取材しました。

はじめに訪れたのは、横浜市の郊外にあるマンションです。

合鍵を持つ親族などがいないため、依頼を受けた業者が特殊な工具を使って玄関の鍵を壊して中に入ります。

部屋は所有者の60代の女性がおととし秋に亡くなったあと相続人が現れず、2年近く放置されていました。

室内には書類やパソコン機器などが散乱していました。

亡くなった人が残した財産は、相続人がいない場合、清算人が未払いの税金などを清算した上で、国庫に納められます。

この部屋もこれから売却などの手続きに入り、売却で得られた利益は国庫に納められる見通しだということです。

「いとこ」がいても

続いて訪れた東京・港区にあるマンションでは、所有者の60代の男性が去年11月に亡くなり、部屋がそのままになっています。

男性には「いとこ」などの親せきがいます。

しかし「両親」はすでに亡くなり、法律上、相続する権利がある「配偶者」や「兄弟」や「子ども」などはいません。

また、遺言書も無かったため、相続人はいない状態です。

部屋は売却すれば、8千万円程度になる見込みですが、相続人がいないため、債権者などが現れなければ最終的には売却されて国庫に納められる可能性が高いということです。

「相続財産清算人」務める山川典孝弁護士
最近は身寄りのない高齢者が増えていて、亡くなったときに相続人がいないケースや相続人はいるが関係が途絶えていて相続放棄されたりするケースがあります。自分が亡くなったあとのことを1人1人が考えていくことが重要だと思います

過去最多768億円に

相続人がいないために国庫に納められた金額は、昨年度(2022年度)は768億9444万円と、記録が残る2013年度以降、最も多くなったことが最高裁判所への取材でわかりました。

2013年度の総額は336億円で、この9年間で倍以上に増えたことになります。

「清算人」選任件数も年々増加

先ほどの横浜や東京・港区のマンションでは弁護士が「相続財産清算人」として処理にあたっていました。

こうした相続人がいない財産の処理はどのくらい行われているのか。

最高裁判所によりますと選任の件数は年々増え続けています。

▽2016年 4817件
▽2017年 5024件
▽2018年 5101件
▽2019年 5184件
▽2020年 5818件
▽2021年 6233件
▽2022年 6653件

(※「相続財産清算人」はことし3月末まで「相続財産管理人」という名称でしたが、原稿では「相続財産清算人」に統一しています)

「遺言書の準備を通じて考えることが大切」

専門家は、こうした“相続人がいない遺産”が急増する背景には少子高齢化や未婚率の上昇で相続人がいない人の増加があるとした上で、「遺言書」を用意することが重要だと指摘しています。

吉田修平弁護士

日本相続学会副会長 吉田修平弁護士
妻や子どもがいれば何もせずとも財産は引き継がれるが、相続人がいない場合、遺言書がなければ親しい親族や世話になった第三者にも財産を残せない。特に1人暮らしで、築いた財産を誰かのために役立てたいと考える人は死後の自分の財産をどうするか遺言書を通じて考えることが非常に重要だ。

※亡くなった人が残した部屋や遺品などをめぐる問題については、以下の記事にもまとめられています。