ラグビーW杯 日本「スクラム安定」が重要 アルゼンチン戦 解説

ラグビーワールドカップフランス大会に臨んでいる日本代表は7日、1次リーグ突破をかけた大一番となるアルゼンチン戦を前に前日の調整を行いました。

この大一番について、NHKで試合の解説を務める、元日本代表で歴代最多キャップを持つ大野均さんに聞きました。
大野さんがあげたポイントは攻撃の起点で、スクラムハーフの齋藤直人選手の素早さを生かすためにも「スクラムの安定」です

アルゼンチンとの決戦を前に調整

世界ランキング12位の日本は、ここまで1次リーグを2勝1敗とし、8日に1次リーグ突破をかけて世界9位のアルゼンチンと対戦します。

勝てば決勝トーナメント進出が決まる大一番に向けて選手たちは7日、ナント近郊の練習場で前日の調整を行いました。練習は報道陣に冒頭の15分が公開され、選手たちは練習が始まる前に地元の子どもたちと写真を撮って交流しました。

そして、ダッシュやボールを使ったミニゲームなどで汗を流し、フォワードでは、キャプテンの姫野和樹選手や、この日35歳の誕生日を迎えたリーチ マイケル選手、それにチーム最年長、37歳の堀江翔太選手などが時折、笑顔を見せながらリラックスした表情で体を動かしていました。

バックスでは、今大会初出場・初先発となるウイングのシオサイア・フィフィタ選手や、キックが好調なスタンドオフの松田力也選手、攻撃の起点となるスクラムハーフの齋藤直人選手などが軽快な動きを見せていました。

一方、ふくらはぎのけがの影響で2試合続けてメンバー外となった副キャプテンの流大選手はこの日も別メニューで調整にあたっていました。

ともに勝ち点「9」で迎えるアルゼンチンとの大一番は、日本時間8日の午後8時に始まり、勝ったほうが決勝トーナメントに進出します。

《選手・コーチ会見》

リーチ マイケル「大きなターニングポイントに」

リーチ マイケル選手はアルゼンチン戦の位置づけについて「日本ラグビーにとってこの一戦は大事な一戦になる。これまでも日本代表の新しい歴史を作ってきたが、今回は、海外のワールドカップで勝ってベスト8に行けるチャンスだ。この試合の経験が次につながると思うし、ものすごく大きなターニングポイントになる」と話しました。

試合のポイントについては後半の勝負どころの攻防をあげて「ここまでの試合、最後の20分で点数を取られてしまう傾向がある。最後の20分をコントロールできれば完成形の日本代表になる」と話しました。

また「相手のアタックに対して自分たちがディフェンスで前に仕掛けないと負けることはわかっている。やられる前にやるしかないというマインドになっている」と試合に臨む気持ちを話しました。

リーチ選手は10月7日が35歳の誕生日で、報道陣に意気込みを問われると「33歳ぐらいから体が劣化して、いろいろなところがダメになったが、それを乗り越えてそこから自信がついてきた。ここからは『年だからできない』という言い訳をせず、どんどん自分のプレーを磨きながら成長したい」と笑顔で話していました。

山中亮平「生きるか死ぬかの戦いに」

大会期間中、けが人に代わって招集され、アルゼンチン戦で今大会初のメンバー入りを果たした山中亮平選手は「この2か月、経験できないような期間を過ごしてきた。今回メンバーに入ってすごくワクワクしている。自分のすべてを出し切るだけだと思っている。早く試合がしたい」と心境を話しました。

試合に向けては「僕が出る時にはチームが勝っている状態で、試合を締めることができればベストだ。後半いつ出るかわからないが、出たら自分の役割を果たしてチームを勝利に導きたい」と力強く話しました。

そして「あすの試合は、勝つか負けるか、生きるか死ぬかの戦いになる」と大一番への覚悟を示しました。

ジョン・ミッチェル コーチ「タフに戦い続けたい」

日本代表のディフェンスを担当するジョン・ミッチェルアシスタントコーチは「この試合に向けてやるべきことをはっきりさせて準備を進めてきた。試合では自分たちのパフォーマンスを発揮することが大切だ」と話していました。

アルゼンチンの印象については「とても組織的でディフェンスを重視したチームだ。攻撃で彼らを崩すのは非常に難しいとは思うが、われわれはこの試合のために本当にいいプランを用意している。遂行すべきことをはっきりさせて、タフに戦い続けたい。いかなる瞬間も相手に隙を見せないようにしていきたい」と話していました。

《【解説】元日本代表 大野均さん 試合のポイントは》

日本の決勝トーナメント進出をかけたアルゼンチンとの試合の展望について、NHKで試合の解説を務める、元日本代表で歴代最多キャップを持つ大野均さんに聞きました。

大野均さん(福島県出身・45歳)

酪農業の家庭で労働しながら育った屈強な肉体で動き回り、熱く、激しくプレーする。高校までは野球で、日本大工学部の機械工学科に入学後、ラグビー部の先輩に勧誘されて練習を見学。国体を目指す福島選抜に入ったことで縁がつながり、東芝の練習に参加したことから、本格的に日本代表への道が開けた。現役時代はロックとして、日本代表歴代最多となる「98」キャップ。

<経歴>
清陵情報高校(福島)→日本大工学部→東芝

<日本代表歴>
▽キャップ:98(日本代表 歴代最多)
▽2007年、2011年、2015年とワールドカップ3大会連続出場

Q.どんな試合になると思うか?

元日本代表 大野均さん
「接戦、死闘になると思う。アルゼンチンに最後まで食らいついて勝ちきる。それがトライなのかペナルティーゴールなのかわからないが、試合が終わったら両チームの選手がグラウンドに倒れ込むくらいの激しい試合になると思う」

Q.鍵を握るプレーは?

「ブレイクダウン(密集でのボール争奪戦)の攻防。アルゼンチンはブレイクダウンで日本にプレッシャーをかけてくるのでそこに対抗する。そこがゲームのポイントになると思う」

Q.スクラムについては?

強豪・イングランド戦もスクラムは安定

「スクラムで日本がしっかりしたものを出せるか。イングランド戦で日本が見せたスクラムは世界を驚かせたし、日本にとっては自信になるものだった。イングランド戦のファーストスクラムを見たとき鳥肌が立った。一見何も起こっていないけど、イングランドとスクラムを組んで何も起こさせなかったのがすごかった。アルゼンチン戦もスクラムで相手に何もさせないのが大事になる

Q.長身の選手がそろうアルゼンチンのラインアウトに対抗するためには?

「日本は高さに対して速さ。速さとよりオーガナイズされたラインアウトで対抗できる」

Q.キックが得意なアルゼンチンに対して、ハイボール(キック処理)への対応は?

ハイボール処理もポイントに

「アルゼンチンはハイボールは武器にしている。1人で競りに行くのではなく、競ることによって相手にプレッシャーをかけてクリーンキャッチさせず、そしてこぼれ球を拾う、カバーする選手をいかに配置できるか。イングランド戦でもできていたのでアルゼンチン戦で見せてくれると思う」

Q.アルゼンチンにはプレースキックの得意な選手が多いが?

「ハーフウェイから自陣に入ったところのペナルティーは、即ペナルティーゴールによる3点につながる。それくらいの意識でやらないといけないと思う。下手したらハーフウェーより手前からも蹴ってくるのではないか。ペナルティーによって自分たちで相手に流れを渡してしまうこともあるので、ペナルティーをしないのが大前提になる」

Q.アルゼンチンは力強いフォワード陣を擁するが?

「フォワードの伝統的な力強さは健在。モールで相手のペナルティーを誘うプレーや、モールを起点にバックスを絡めたプレーは警戒したほうがいい。モールを止めることは大事。モールを組ませない選択肢もある。何を選択するかは試合をしている選手の肌感で徹底すると思う」

Q.フォワードとバックスのつなぎ役となるスクラムハーフは、けがの流大選手に代わってサモア戦に続いて齋藤直人選手が先発するが?

素早い攻撃が持ち味のSH 齋藤直人選手

「強豪アルゼンチンに対して先制パンチをくらわすくらいの意気込みで臨まないといけない試合になると思うが、齋藤選手は素早いサポートからの速い球出しでスピード感よくアタックをコントロールしてくれると思う。アルゼンチンにとっては経験したことのないスピードになると思う。先制パンチを食らわす意味では、齋藤選手は適任だと思う」

Q.齋藤選手のスピードを生かすためにもスクラムの安定が重要になる?

「サモア戦もスクラムが安定していたので、齋藤選手が好きなタイミングで ボールを持ち出すことができて、トライにつながった場面もあった。アルゼンチン戦もスクラムの安定から齋藤選手のランだったりパスさばきに期待したい」

Q.日本のラグビーにおけるアルゼンチン戦の意味は?

南アフリカに勝利“ブライトンの奇跡”(2015年 W杯)

日本のラグビーの歴史においても重要な試合になる。2015年ワールドカップで私たちが南アフリカに勝った試合を姫野選手や坂手選手がテレビで見て『自分たちもあの舞台に立ちたい』と思ってくれて、今回、フランス大会で実際にここまで躍進してくれた。彼らがアルゼンチンに勝つことで、それを見た日本でラグビーをしている子どもたちや学生たちが『自分たちもあの舞台で勝てる』『優勝を狙えるんだ』と思えるようにしてくれたら、日本のラグビーは1つ上のステージに行けるのではないか」

Q.日本代表の選手たちには、どんなプレーを見せて欲しいか?

元日本代表 大野均さん
「全員が体を張って、タックルして倒れてもすぐ起き上がって次のディフェンスに行く。アタックでもアルゼンチンのベースも強固だけど、そこにバンバン体を当てて少しずつ前進しながら、最後にトライを取る。見ている人の気持ちに訴えかけるプレーを期待している