2024年03月05日
(聞き手:藤原こと子 堀祐理)
今後、ChatGPTをはじめとする「生成AI」は私たちの社会に大きな変革を起こすかもしれません。その時、仕事や働き方はどう変わるのか。AIをうまく使うためには何が必要なのか。
動画配信や店舗BGMなどの事業で知られるU-NEXT HOLDINGSの採用担当者に仕事や採用活動に積極的にAIを取り入れているねらいを聞きました。
U-NEXT HOLDINGSと聞くと、私たちはやはりU-NEXT(ユーネクスト)が思い浮かびますが、元々コンテンツ配信から始まった会社なんですか?
前身は大阪有線放送社で、店舗にBGMを提供する、いわゆる有線音楽放送から始まりました。
事業のきっかけは、創業者の宇野元忠が飲食店の従業員が仕事の合間にレコードを裏返す姿を見たことでした。
そこから、私たちが音楽を配信すれば、お店側はレコードを裏返す手間を省くことができ、本来の業務に集中できるはずだ、ということでスタートして、全国各地にサービスが広がっていきました。
コンテンツ配信は私たち学生にとっても身近な存在ですが、海外の事業者が力をもっているというイメージもあります。
もちろん海外の事業者の資本力、ブランド力は強力ですが、日本をはじめ世界のコンテンツ配信市場を牽引してくれる存在でもあります。
レンタルビデオ市場のデジタル化などに伴い、日本のコンテンツ配信市場はまだまだ成長するとも思っています。
そうした中でどうやって差別化しているんですか?
私たちの強みは、コンテンツの量と質と考えています。
2024年1月時点では、映画やアニメ、ドラマなどの動画作品は36万本以上、漫画や書籍などの電子書籍も101万冊以上読むことができます。
1つのアプリで「観る」「読む」をシームレスに楽しめるようになっています。
例えば、ドラマや映画と、その原作である漫画や小説を同じアプリ内で見ることができる。百貨店のような場所にしている点も工夫の1つです。
具体的にはどんな工夫をされているんですか。
他社では見られない独占配信作品に注力しています。
例えば弊社は、映画では製作委員会に出資するケースもありますし、欧米ドラマや韓国ドラマは本国のスタジオと直接契約して日本での配信権を調達しています。
また、2023年に有料動画配信サービス「Paravi」と統合したことで、いくつかのテレビ局のドラマやバラエティを提供できるようになりました。
こうした独占配信作品が魅力的であればあるほど、その作品を目当てに加入してくださる方も増える傾向にあります。
ほかにはどんな事業を手がけられているんですか?
事業は大きく分けて、コンテンツ配信事業、店舗・施設支援事業、通信・エネルギー事業の3つです。
最初にお伝えしたように弊社はBGMの提供からスタートしましたが、「USENに相談すれば、業務インフラから、運営・技術的なサポートまで網羅してくれる」という存在になりたいと考えて、企業としてできることを増やしてきました。
1つ目のキーワードは「DX」ですが、どうして選ばれたのでしょうか?
そもそも弊社がやってきたことは、すべてDXだと思うんです。
どういうことですか?
弊社は、有線音楽放送も含めて、60年以上前からテクノロジーを使って世の中を便利にしたり、お店の経営者の課題を解決してきました。
先ほど説明したコンテンツ配信事業も1つのDXで、僕たちは“ライフスタイルDX”って呼んでいます。
みんなレンタルビデオ屋に行かなくてもよくなったし、リアルタイムじゃなくても、時間にも場所にも縛られず好きな時に自分の見たいものを見られるようになりました。
そもそも、どうして店舗・施設支援事業などでDXを手がけるようになったんですか。
BGMという単一事業からお店のDXという多種多様なサービスを提供できるようになったのはインターネットの普及が理由の1つです。
15年くらい前からお店にもインターネットが普及し始めて、インターネットを経由してお店に様々なサービスを届けられるようになりました。
今使われているタブレット型のレジもモバイルオーダーも、AIカメラも全部インターネットにつながっていますよね。
お店の状況が時代とともに変化してきたので、その変化に合わせて、僕らはどんなサービスを届けられるかということを考えてきたんです。
今後、飲食店でのDX化の需要は高まっていくのでしょうか?
お店にとっても利点があるので、高まるのではないかと思います。
例えば、配膳ロボット。
ロボットをお店に導入して、かかる費用を時間単位で割ると安価な時給になるので、コスト削減ができますし、人手不足もカバーできて一石二鳥ですよね。
ほかには、キャッシュレス化が進んでいくと思います。
まだ現金のみのお店も多い気はしますが…。
日本はキャッシュレス後進国なので、海外の方は現金だけしか使えない券売機とか、ものすごく不思議に感じられているのではないかと思います。
どんどん便利でスマートなお店がお客様に選ばれるようになっていくので、DXが進むお店は繁盛する、という傾向が加速していくのではないかと考えています。
DX化が競争力に関わってくるんですね。
それだけではなく、DX化が進んで店舗の課題が解決されると、経営者やスタッフに、顧客との関係作りなど“人にしかできないこと”に注力する時間が生まれると思います。
業務負荷がかかるところをテクノロジーに変えて、お店をお客様にとってもっと魅力的な場所にしていく。
そしてひとつのお店から街全体にDXが広がって、ゆくゆくはDXが身近な生活に浸透して、社会に広がっていく。
そういう社会全体をDXする“ソーシャルDX”の実現に弊社も貢献したいと考えています。
続いてのキーワードが「生成AI」です。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、インターネットと同等かそれより大きな社会変革を3年~5年ぐらいで起こすのではないかと考えています。
すごく近い未来ですね。
インターネットがこれまでに世の中にもたらした変革って誰も想像していなかったほどすごいじゃないですか。
生成AIにはそれ以上の可能性があって、社員の働き方や私たちの仕事そのもの、人材に求められるスキルも大きく変わると思います。
御社はどのように取り入れていこうとされているんですか。
まず、どうすれば正確で良質なアウトプットがAIから引き出せるかという研究をしています。
AIを使うと早く正確にできる仕事、AIが得意な仕事はどれなのかを一つ一つ分析して、生産性をあげる方法を考え始めているんです。
どんな仕事がAIに置き換わると考えられているんですか。
広報のプレスリリースの原稿作成とか。
実際に今、報道機関向けのプレスリリースを試験的にChatGPTに書かせていますが、結構ちゃんと書きます。
ChatGPTを使えば情報収集や文章構成などの工程を縮めて制作時間を短くできるので、空いた時間を、メディアの方と信頼関係を築くなどの仕事に費やせるようになります。
つまり一定の仕事を人に替わってAIが担い、社員には新しい価値を創造する、よりクリエイティブな仕事をしてもらって、企業価値を高めていきたいと思っています。
コンテンツ配信や店舗・施設支援などの事業ではどう活用していくんですか。
例えば、音楽なら、来店されるお客様をAIカメラが見てプロファイリングしてその人たちに適したBGMを流すということを始めています。
それはどんな仕組みなんですか。
AIが画像認識でお客様を検知してプロファイリングしたデータと、僕たちの音楽配信のデータベースにある楽曲情報が結びついて選曲されるイメージです。
飲食店なら、お客様がリピーターかどうかをAIカメラが認識して、これまでの注文の傾向からタブレットのメニュー中にオススメの料理を表示するとか。
ただ、注意が必要なのは、お店の種類や来店されるお客様によってはそぐわないかもしれないので、そのサービスをお客様が求めているかどうかを考えることが一番大事だと思っています。
AIを活用していく中で、大切なことはありますか。
人とAIの役割分担を最適化させていくことだと思います。
AIは何ができて、何が得意で、どう指示をしたら良い結果が得られるのかを人は知っておかないといけない。
仕事や会社のことをAIと結びつけて考える中で、人に最後に残される価値や能力は「判断力」だと思うんです。
AIからアウトプットされたものが正しいのか、自分の仕事に役立つものなのか、ということは人間がジャッジする必要があります。
判断力を持って、AIを上手に使うことが一番大切だと思います。
最後のキーワードは「“学生ファースト“の採用」です。これはどういうことですか?
採用活動をするうえでのわれわれのポリシーです。学生のみなさんとフェアでありたいなと思っていて。
例えば面接の場で、学生さんは緊張しながら話しづらい状況下で発言させられることがありますよね。
現状の就職活動は、そのように就活生がつらさを感じながら就活を進めてしまうことがあると思っていて、そこに弊社は課題を感じています。
「就活鬱」という言葉もありますが、本来、自分が社会に出ていく時のファーストキャリアを選ぶアクティビティーはワクワクして楽しいものだと思うんです。
ですので、日本の就活のあたりまえを壊して、もっと自由に、テクノロジーでもっと便利にしていきたいと考えています。
例えばどんな取り組みをされているんですか。
2023年に始めたのが「メタバース採用」です。
既存のメタバース空間にブースのようなものをオープンして、自分たちのビジネスや採用のPRをしたり、アバターを使って採用選考フローを疑似体験できるイベントを行いました。
匿名なので素直な質問が多く、顔出しもないので配信者自身も安心して話すことができて、会社のリアルな雰囲気を伝えることができたと思います。
すごくユニークですね。
新しい試みだと思うので、一回やってみるのも面白いかなって。
新卒採用に関しては、とにかく新しいことをやりたいんです。
例えば、選考のファーストステップはAIインタビューです。
AIが合否を決めるんですか?
そうではなく、AIが面接官として質問し、学生さんが答える様子を動画で記録していて、その動画を人事部が見て、合否を決めます。
パソコンを開けてアクセスしたらいつでもそこに面接官が現れて面接を受けられるので、就活でよくある、面接枠が埋まってしまったということがありません。
社内でも最初は反対されましたが、「合否は人が決めています」ということを説明すれば、絶対に理解してもらえるからやりましょうって言ったんです。
思い切った採用活動をされているんですね。
ほかにも、最終選考で採用が見送りになっても、もう一回チャレンジできます。
多くの会社の最終選考は一発勝負だと思いますが、緊張して実力が発揮できないこともあると思うので、うまくいかなかったらもう一回挑んでいいですよ、と。
実際に2023年はリトライで50人くらいに内定を出しました。
就活生にとってはすごくありがたいですが、会社としてのメリットはあるんですか。
良い学生さんにたくさん入社してもらえると考えています。
一回目が良い結果にならなかった方でも、その結果をもとに自分で色んな準備をして、改善して、全然違った結果を出す人もいるので。
あとは、地方在住の学生さんたちにとって東京で受けるのは結構ハードルが高かったりするんですよね。新幹線に乗ったり、ホテルを手配したり。
なので、全国すべてではないですが、各地域に役員が赴いて、その場で最終面接を行っています。
これも就職活動における学生側のコストを極力なくして、機会を平等にする形ですね。
また、選考内容や回数を自由に選択していただいて、最終面接のタイミングも自分で選んでいただけるようにしています。
AIインタビューだけ受けて、すぐに最終面接受けたいです、とか、1度社員と面接してからとか、グループディスカッションに参加してからとか。
自分で選考をカスタムできる…なぜそのような方法を採用されたんですか。
さきほど、仕事がAIに置き換わっていった時に人に最後に残るものは「判断力」だと言いましたよね。
就職活動だけでなく、入社してから仕事をしていく上でも、自ら考え、判断する力は非常に大切です。
AIと一緒に仕事をしていくこれからの時代にはもっと必要になっていく力だと思います。
なので、自分で判断するということを学生さんには就活の時からやってもらいたいと思ったんです。
最後に就活生に向けてメッセージをお願いします。
就職活動は会社と就活生の双方が合うかどうか模索する活動なので、窮屈な気持ちでやってしまうと、マッチする会社や人に巡り合う可能性はすごく低くなってしまうのではないかと思います。
あまり肩ひじを張らず、背伸びし過ぎず、就職活動を楽しむ気持ちで、いろいろな会社のたくさんの人と会話をして、良い巡りあいをしていただければなと思います。
新卒で入った会社で定年退職まで勤め上げること以外の選択肢もたくさんある時代なので、学生のみなさんにとって就職活動は自分のファーストキャリアをチョイスする活動でもありますよね。
なので、どれだけ自分が成長できて、未来の可能性をどれだけ広げてくれるのかという価値観で会社を選ぶようにすると良いんじゃないかなと思います。
ありがとうございました。
※記事内に記載の内容は2023年9月時点のものです。2024年4月社名変更。
※内容の一部を2024年1月25日NHKジャーナルで放送。
撮影・編集 谷口碧
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