2024年02月16日
(聞き手:堀祐理、正木魅優)
政府が「貯蓄から投資へ」と促し、新NISAが2024年1月に始まるなど、「投資」をめぐる状況が大きく変わってきています。これからは「温泉旅館」や「飛行機」にも投資する時代に?「三菱UFJ信託銀行」の採用担当者に、今おさえておくべきニュースを聞きました。
そもそもですが、「銀行」と「信託銀行」はどう違うのでしょうか。
特徴的なのは、信託銀行はお金だけでなく、不動産や株式などの有価証券、それに著作権や映画の配給権など、財産の権利があるものは全て扱うことができることです。
銀行が行う、お金を貸す「融資」とは違った形で、お客さまと同じ目標を目指し、到達するサポートをしていくのが信託銀行です。
業務で分けると、「銀行」はお金を預かったり、住宅ローンや企業への融資などでお金を貸し出したりする「銀行業務」を行っています。
信託銀行は銀行業務に加えて、「信託業務」「併営業務」もできると法律で決まっています。
「信託業務」と「併営業務」ですか?
メインとなる「信託業務」を見ていきますね。
そもそも信託が何かというと、▽財産を託す委託者、▽それを管理・運用する受託者、▽その結果、利益を受ける受益者という三角形で成り立っています。
信託銀行は「受託者」として、委託者から資金や財産を託され、その意思にのっとった形で収益を上げて、受益者に届けていくことが役割です。
そうした委託は個人がするものでしょうか?
委託者は個人だけでなく、企業や団体がなることもあります。
例えば、ある財団から100億円を委託され、スポーツ選手を応援したいという意思を持っているとすると、私たちは適切なスポーツ選手を探したり、いろんな国のルールに沿った手続きをしたりして、受益者となるスポーツ選手に届けていきます。
信託銀行も「銀行業務」はできるので、お金を集めて企業や個人に貸し出し、その対価として金利を受け取って利益をあげることもできます。
ですが、お客さまにより選んでいただくために、信託銀行はお金以外のものも広く扱うことで、しっかり収益を上げるビジネスモデルに変えていっているところです。
信託銀行と銀行の違いがよくわかりました!
1つ目のキーワードが「投資」ですが、なぜ選んだのでしょうか。
今、岸田政権も「資産所得倍増プラン」を掲げて、「貯蓄から投資へ」の拡大に力を入れています。
日本では個人が保有する預金や株式などの金融資産は2000兆円以上にのぼっています。ですが、半分以上が「現金・預金」です。それだけ運用されずに眠っている資産があると言えます。
個人金融資産
個人が保有する預金や株式、保険などの金融資産。2023年9月末の時点で2121兆円と、過去最高を更新。欧米に比べて現金と預金の割合が高い。⇒詳細はこちらのニュースから
私たちは資産運用のプロ人材を育て、対象商品を拡大することで、日本を持続的に成長できる社会につながるようにしていくことが使命だと思っています。そのためテーマに挙げました。
どんなふうに変わってきているのでしょうか。
大きな変化として、ことし1月から「NISA」が拡充されました。
NISA
個人投資家を対象にした税制の優遇制度。購入した株式や投資信託などの売却益や配当金が一定の範囲内で非課税となる。ただ元本が保証されているわけではないので、“余裕資金”を活用するなど無理のないプランを立てることが重要。
拡充後の新NISAでは、非課税の上限額が引き上げられるなど、より投資をしやすいように制度が変わりました。
私たちも投資をより身近なものにしようと、グループ会社が展開しているサービスでは、購入時の手数料を0円にしたうえで、60以上の商品を提案しています。中には「宇宙」や「電気自動車」への投資に特化した商品もあります。
そんなふうに選べると興味が持てそうです!
私も宇宙が好きで、宇宙関連の事業を行っている企業を応援したくなります。投資は社会参加の1つの手段でもあると考えています。
だからこそ、少額からでも投資をしやすい仕組みにすることで、それぞれが応援したい業界や企業に資金が渡って、企業はその資金をもとに成長するという環境をつくることにつながっていく。
投資によって、社会全体が成長していけるような状況になっていくことを目指しています。
夢を応援するきっかけになりそうですね。
そうだと思います。そして、もちろん、資産を増やすきっかけになる意味でも重要だと考えています。
変化の激しい時代で、企業でも年功序列が薄れ、給料が必ず年齢とともに上がっていく世の中ではなくなってきました。
かつては定期預金に預けていれば、それなりの金利収入があった時代もありましたが、今はそうではありません。老後のことを考えて、投資という選択肢への注目も高まっているように感じています。
例えば老後に関して言えば、当社としてはDC(確定拠出型年金制度)という日本企業の年金制度での運用をサポートしています。
確定拠出型年金(企業型)
勤め先の会社が一定額の掛金を出し、従業員みずから運用方法(株式や債券など)を選ぶ仕組み。
年金制度について詳しくは「1からわかる!年金制度」をご覧ください。
運用の商品を増やすだけでなく、アプリを開発して、何に投資しているとか、どのくらいの利益が出ているなどが、一目で分かる仕組みも作りました。
投資というと、一部の富裕層や銀行員などの金融知識がある人に限られていた時代もありました。
今後、情報の非対称性をできるだけなくして、誰もが自分の資産を増やしていける機会をつくっていくことを目指していきたいと思っています。
2つ目のテーマが「デジタル証券」ですが、どういったものでしょうか。
そもそも「証券」とは、株式や債券など、財産的な価値を所有している権利を証明する証書です。
「デジタル証券」は、ブロックチェーンの技術を使って管理される新しい証券です。具体的には、誰が証券を持っているか、誰が誰に譲渡したというのをブロックチェーン上で記録してデジタル化したものです。
ブロックチェーン
「分散型管理台帳」と訳され、デジタルデータの取引をネットワーク上の分散した端末で記録する技術。改ざんが非常に困難で、暗号資産の取引にも活用されている。
インターネットでの売り買いを、そのままネット上で正確に記録する新しい技術ということですか?
はい、その通りです。株式を例にすると、証券取引所に上場されていれば、すでに取引のネットワークができているので、証券会社などを通じてネットでも売買ができます。
それに加えて、デジタル証券の登場により、今まで上場されていなくて個人が投資できなかったものに投資ができるようになりました。これがデジタル証券の大きな特徴です。
例えば温泉旅館などの不動産の権利を分割して管理することができるようになります。
温泉旅館の権利を分割ですか?
はい、すでに実例も出てきています。群馬県の温泉旅館で、旅館を裏付資産とするデジタル証券が発行され、2023年3月までに20億円以上が集まりました。
こうした旅館だけではなく、将来的には飛行機やワイン、絵画、ロケットなど、あらゆるものをデジタル証券で権利化できるようになります。
昔からある権利を分割するという「信託」の仕組み・機能と、新しく出てきたブロックチェーンの技術が融合して初めてできた仕組みです。
会社だけではなくて、ワインやロケットの権利も買えるんですね!
その権利を買うと、どうなるんですか?
例えば、高級マンションのデジタル証券に投資すれば、賃貸収入の収益が配分される仕組みになっています。
住むことはできませんが、その大家の権利を持っているイメージです。
そして、デジタル証券は“特典”を付けることもできます。例えば旅館だと夕食グレードアップやレイトチェックアウトといった“特典”の権利も付けることができます。
株主優待のようなものですか?
そうです! ですので、デジタル証券は、資金調達の手段になると同時に、新たなファンを獲得していくことでも注目されているんです。
ファンからすると、好きなものに投資することで応援するイメージです。飛行機好きや電車好きの人からすれば、そういったものに投資できるとうれしいかもしれないですよね。
好きなもの、応援したい事業に、投資することで応援できるようになるので、”ファンマーケティング”という意味でも注目されています。
クラウドファンディングに近い感じでしょうか。
考え方はすごく近いですね!
だいぶイメージが沸いてきましたが、このデジタル証券、どのくらいの規模になってきているんですか?
今は累計の組成額が1000億円を超えました。
実はこのうちの8割は、当社が2021年に始めたプラットフォームが使われています。
「progmat(プログマ)」と呼ばれるサービスですが、さらなる拡大のため、2023年10月には新会社を作りました。
その新会社には、大手金融機関やIT企業も参画してくれています。
通常であればライバルである企業にも入ってもらっていて、このプラットフォームをナショナルインフラとして育てていきたいと考えています。
新会社設立のニュースはこちらの記事からお読みいただけます。
3つめは「転勤」に関するテーマですね。私も働く上で転勤が気になるのですが、どういう背景があるのでしょうか。
多くの大手金融機関は全国に支店があって、当社も全国に51店舗あり、全国転勤があります。年に200人ほどが引っ越しを伴う異動をしています。
ただ、家族の在り方や働き方への考え方が変わってきているなかで、転勤や単身赴任に抵抗感を持つ社員もいます。
ですので、赴任による想定外の出費をサポートすることで、転勤への不安を少しでも和らげたいという思いで、今までの手当に加えて50万円を支給することになりました。
金融機関の「転勤」
みずほフィナンシャルグループや明治安田生命保険などの大手金融機関でも転勤への手当を大幅に引き上げる動きが相次いでいる。⇒関連ニュースはこちら
200人に50万円だと、かなりの額になりますよね…。
そうですね。でも、労働人口がどんどん減ってきていて、社員数も減ってきています。
そのなかで私たちは「信じて託される」という目に見えない商材を扱っています。
お客さまの課題を見極めて、時にはお客さまの言いなりにならず、しっかりプロとしての考えを伝えていかないといけないので、やはり「人」が大事になってくると考えています。
ほかにも、皆さんに関係するところでは「配属ガチャ」をなくしていく取り組みも強化しています。
配属ガチャ
新入社員がどの部署に配属されるかわからない不安な心境を、おもちゃ売り場やスマートフォンなどのソーシャルゲームの「ガチャ」になぞらえた言葉。
新卒採用では新たに「部門選択採用」を始める予定です。「リテール」「不動産」「証券代行」「資産金融」など6つの業務領域から、働きたい部門を選んでもらう形式です。
詳細は検討中ですが、「配属ガチャ」はできるだけ起こさず、やりたいことでキャリアを積んでもらうことを狙っています。
確かに「配属ガチャ」への不安はよく聞きます。
そうですよね。でも逆に自分で1つのキャリアに絞れないという人も当然いるので、希望を聞いてじっくり面談した上で、適性を見ながら配属を決めていく方式も残していて、なるべく選択肢を提供することが大事だと思っています。
もう1つ、内定辞退者への取り組みも始めています。
人によっては複数の企業から内定をもらう人もいて、当社の内定を辞退される方もいます。
なので、せっかく内定を出した方については、大学卒業後に違う企業に入社したとしても、2~3年後に再度、当社に応募いただいた時には選考を優遇する制度も作りました。
大きく変えてきているんですね。
金融業界はドメスティックで古い感じの印象があるかもしれませんが、当社ではグローバル展開にも力を入れ、そして社員が働きやすい環境へどんどん変わってきている状況だと感じています。
そうすると、今、採用ではどんな人を求めているのでしょうか。
1つはお客さまの目線に立ってしっかり考えられる人。そして、長期的な目標に向かって頑張れる人です。
学生時代に、どういうことを考えて何をしたのか、その結果どうなって、結果を振り返ってどう行動変化を起こしたのかというところを見ています。
金子さんから、就活生に向けてメッセージはありますか。
どの会社に行って、どの部署に配属されても、それまで知らなかった人や事象に出会うと思います。
知らなかったことを調べたり、いろいろな大人と出会うことで、自分の知らなかった成長、自分が想定していた以上の成長につながると思うので、いろんな発見をしてほしいと思っています。
いろんな人に会ったり、本を読んだり、知らないことを知って、自分の手札を増やしていくことが自分の可能性を広げていくために、とても大事だと思っています。
ありがとうございました!
撮影・編集 岡谷宏基
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