アシックス 採用・人事担当者に聞く

ターゲットは“アスリート”だけじゃない スポーツ用品メーカーが目指すのは

2023年12月22日
(聞き手:堀祐理 幕内琴海)

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みなさんのまわりで「運動を始めてみました」という方、多いのではないでしょうか? コロナ禍などを経て、スポーツを行う人たちの間では「健康」や「多様性」への意識の高まりがみられるそうです。ユーザーの変化を踏まえて新しいビジネスを展開していこうとする業界の展望と企業の戦略をアシックスに聞きました。

スポーツ用品メーカーとは

学生
幕内

はじめに皆さんの業界について教えてもらえますか?

私たちスポーツ用品メーカーは、たとえばスポーツシューズ、スポーツウエア、野球のバットやグローブのような物品などのスポーツ関連用品やサービスの製造・販売をしています。

アシックス
押部晃さん

アスリート向けからレジャー向けまで、ユーザーも多岐にわたります。

自社の店舗やECサイトのほか 、小売店などを通じて販売しながら、みなさんに商品を届けています。

人事総務統括部 松田紗弥さん(左)押部晃さん(右)本社・神戸市 オンラインで取材しました

学生

私はバレーボールを続けてきたので「アシックスといえばスポーツシューズ」というイメージがあります。

ありがとうございます。イメージどおり、弊社は売り上げの多くが「シューズ」で、なかでも高性能のランニングシューズを展開する 「パフォーマンスランニング」が売り上げの約半分を占めます。

ほかにも陸上やバスケットボールなど競技用のスポーツシューズ、カジュアルなスニーカー、プレミアムライフスタイルブランドのシューズなどを扱っています。

それに弊社は海外でも事業展開していて、実は売上高比率を見ると、国内が約2割、海外が約8割に上っているんです。

アシックス
松田紗弥さん

アメリカやヨーロッパのほか、アジア・オセアニアなど幅広い国や地域に展開しています。

※売上高比率にはセグメント間の内部売上また振替高を含めず

新型コロナではシューズの販売にも影響が出たのでしょうか?

そうですね。確かにコロナ禍で売上高が下がった時期がありました。

ただ、世界的なスポーツイベントが再び開催されるようになったことなどで、2022年の売上高は過去最高を更新しました。

皆さん家にいる時間が増えて、一人一人が運動する時間が増えたり健康意識が高まったりしたことで、私たちの製品やサービスを使ってもらう機会が増えたと思っています。

こうした点は、業界としてもいい影響を受けたと思います。

確かに、いろんな世代の人が運動をするようになった気がします。

これから世界的にますます高齢化が進んでいくと考えられますが、運動をするのは必ずしも競技のパフォーマンスを高めたい人ばかりではないですよね。

老若男女、障害の有無などを問わず、心と身体の健康を実現していくことが大切になると考えていて、そのためのサービスをどう提供できるかがこれからポイントになってきます。

DX

そのカギとなるのが最初のキーワード「DX」ですか?

はい。すでにご存じかもしれませんが、DXとは「Digital Transformation」の略です。

デジタル技術を使いながら、ビジネスの構造を変革して、新しい価値を生み出すことを目指すものですね。

いま多くの企業がDXをビジネスの最重要項目としていますが、スポーツ用品メーカーの業界でも今やDXの取り組みが必須だと考えています。

御社では具体的にどんな取り組みをしているんですか?

たとえば弊社では、多様な人たちにサービスを提供するために、デジタルの技術を活用してランナーとの接点を増やそうとしています。

最近進めているのが、ランナーとの接点をシューズなど製品の購入段階だけでなく、サービスの利用段階にも広げようという取り組みです。

弊社では2016年にフィットネスアプリ運営会社、2019年にはマラソン大会の参加登録を行うプラットフォーム運営会社を海外で買収しました。

この取り組みでは、ランニングのトレーニングプログラムを考えてくれるほか、おすすめのシューズの提案もしてくれます。

アシックスが展開する「ランニングエコシステム」

ランナーが必要としているものをまとめて提供し、接点をもっと増やせば、新規顧客の獲得やサービスの充実につなげることができると考えています。

ほかにはどのようにDXを活用していますか?

DXを販売の面でも取り入れています。なかでも一人一人に合った「パーソナル」なサービスに力を入れています。

たとえば店舗で3次元の足形のデータを計測して、その結果をもとにシューズ選びをサポートするサービスを去年から始めました。

「3次元足形計測機」で自分の足の長さや幅などのサイズを正確に測り、登録することで、実際にシューズを履かなくても、どれくらい自分の足にフィットするか分析してくれます。

サービスの利用イメージ

オンラインストアとも連携していて、ランニングの目的に合うおすすめのシューズを提案してくれます。

靴のサイズって種類ごとに違うこともあるので選ぶのが難しいですけど、これならネットでも購入しやすいですね。

そうですね。最近ではECサイトでの売り上げも徐々に伸びていて、全体の売り上げに占める比率は、2018年には4%ほどでしたが、2022年は約18%に拡大しています。

ネットだけでなくリアルの店舗でも力を入れていて、2023年8月には東京・丸の内にある店舗をリニューアルしました。

兵庫県にある研究所の知見と技術を生かして、ランニング能力の分析ができるような設備を導入しています。

デジタルの力も活用しながら、多様な人たちが楽しめるような商品やプログラム、サービスの開発・提供に力を入れていきたいです。

サステイナブル

2つ目は「サステイナブル」ですね。これはどうして選ばれたのでしょうか?

スポーツで人々の心と体を健やかにするためには、将来の世代までスポーツができる地球環境を守ることが大切です。

弊社では、製品を作る過程で温室効果ガスが排出されますので、その削減に取り組んでいます。

たとえば、こちらの表示を見ていただけますか?

「+10.7kg CO2e」と書いてありますね。

はい。これはCO2の排出量が10.7キロ相当という意味なんです。「カーボンフットプリント」というのですが、これを製品に表示する取り組みを始めました。

カーボンフットプリント

「Carbon Footprint of Products」の略称。商品やサービスの原材料調達から生産や流通、廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの量をCO2に換算して、その商品やサービスに分かりやすく表示する仕組み。環境への負荷を「見える化」することで、事業者が連携してCO2排出削減に取り組むことを推進するとともに、消費者が低炭素な商品やサービスを選ぶきっかけにもしてもらう。

この高性能ランニングシューズのCO2排出量は10.7キロ相当で、弊社の算出方法では、業界平均よりも約14%以上低い数値を実現できています。

ものづくりの場合、どのような過程でCO2が排出されるんでしょうか?

まず「素材の調達」では、原材料の採取、糸や生地作り、染色などを行っています。

また「製造」では生地の裁断や縫製、組み立てのプロセスがあって、それぞれの過程でCO2が排出されています。

それに原材料の輸送や製品の納入などの「輸送」、購入後の手入れなどの「使用」、そして「廃棄」の過程でもCO2が排出されています。

排出量を削減するためにどんなことをしているんですか?

たとえば素材では、ペットボトルをリサイクルした再生ポリエステル材への切り替えを進めています。

これまでのところ、従来の石油由来のポリエステル素材から再生ポリエステル材への切り替えを30%以上達成しています。

また過去には、ひとつながりのデザインパターンから複数の型取りを行い製作したウエアを作ったこともありました。

こうすることで生地の裁断の効率が良くなり、廃棄が減ってCO2の削減につながります。

環境に配慮することは、消費者にとってどの程度商品を選ぶ動機になりそうですか?

世界的にサステイナビリティーや企業の社会的責任への関心が高まっていますので、消費者の購買行動にもある程度影響するのではないかと思います。

去年、世界8か国の消費者に対して「スポーツ用品の購入にあたって、CO2の排出量が製品に記載されることがどの程度重要か」というアンケート調査を行ったんですが、“排出量の表示があるほういい”という回答が60%以上を占めました。

食べ物を選ぶ際にカロリーを見るのと同じように、製品も環境への影響をイメージしながら選んでもらえるようになるのではと思っています。

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)

3つ目のテーマはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)です。

D&Iは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(受容性)を合わせた言葉で、多様な人材を受け入れて、いかすことを指しています。

こうした多様性を受け入れる動きが世界的に進んでいて、われわれの業界のなかでも進んでいると感じています。

たとえば、ことし5月に日本パラ陸上競技連盟とオフィシャルパートナー契約を結び、 日本陸上競技連盟が選ぶ五輪などの日本代表とパラ陸上の代表が統一ウエアを着用することになりました。

ことしの世界陸上でも着用していました。弊社がそれぞれの陸上競技連盟のオフィシャルパートナーになり、実現しました。

アスリートの方々からも「同じユニフォームを着られることにすごくワクワクしています」とポジティブなお声をいただきましたし、引き続き共生社会の実現に貢献していきたいです。

ほかにも視覚障害のあるランナーが伴走者なしで走ることをサポートするプロジェクトや、スポーツ用の義足を体験するイベントの開催など、スポーツができる環境作りも行っています。

スポーツを広く推進していく上で課題もあるんでしょうか?

そうですね、去年、世界16か国を対象に行った調査では、女性の運動量が男性よりも少なく、運動格差があることが分かってきました。

現在さらに踏み込んだ調査を行い要因を調べていて、格差を解消するため私たちに何ができるのか検討を進めています。

採用においてもD&Iは重視されていますか?

そうですね、人種や国籍、障害の有無などを問わず幅広く採用していますし、多様性を最大限に生かせるような人材育成に取り組んでいます。

新しいアイデアを実現したりイノベーションを起こしたりするには、多様な価値観やバックグラウンドを持った人たちの考えは重要です。

世の中のニーズも多様化していますし、それらに適したサービスを提供していくことにつなげていきたいと考えています。

新しいチャレンジをしよう

どんな学生に入社してほしいですか?

グローバルに展開するビジネスをリードしていけるような人材ですね。

語学力はもちろんスキルとして大事ですが、多様性を受け入れたり自分の意見を異なるバックグラウンドの人たちに伝えたりする力も必要です。

あとは業界にとらわれず、自分で考えて行動できる「自律性」や、人を巻き込みながら物事を進められる能力も重要だと感じています。

学生のうちにやっておくべきことがあれば教えて下さい。

新しいことに挑戦したり、今まで関わってこなかったような人と触れ合ったりして、多様な価値観を知ってほしいです。

もちろん新しいチャレンジには勇気がいると思いますが、自分の興味関心が広がったり、人とのつながりできたり、長期的に生かせるようなスキルや考え方が身に付くと思いますよ。

就活をしていると不安に感じることもあると思いますが、就活の軸や将来像を行動しながら考えることで、よりよい次のステップにつながると思います。

ありがとうございました!

撮影:吉田遥希 編集:松原圭佑

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