2022年10月07日
平井一夫さんは51歳でソニーグループ社長兼CEOに就任、赤字から当時の過去最高益に6年間で導き、好調な経営状況にも関わらず57歳で退任しました。もともとは音楽をやりたかった? 平井さんが考えるリーダーの引き際とは? 学生リポーターが取材しました。
(聞き手:本間遙 黒田光太郎)
入社当初から社長になりたいという目標はお持ちだったのでしょうか?
全くありませんでした。
1960年東京生まれ。幼少時代は父親の転勤でニューヨーク、カナダなど海外生活を送る。大学卒業後、CBS・ソニー入社、ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ社長などを経て、2006年ソニー・コンピュータエンタテインメント社長。09年ソニーEVP、11年副社長、12年社長兼CEO、18年会長。19年からシニアアドバイザー。
私は音楽業界がすごい好きで「音楽に携わることができる仕事をしたいな」と思っていたんです。
それで幸いにもCBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社することができました。
将来的にそれなりのポジションに就きたいっていう希望はありましたが、あくまでもソニーミュージック内の話でした。
他のソニーのグループ会社で仕事をするとか、もしくはソニー本社で仕事をすることは、夢にも思っていませんでしたね。
全く想定外というのが正直なところです。
大学生のころはどういった活動をされていたんですか。
国際法の事例について議論をする研究会に入っていました。
あと車がすごく好きだったので、自分の夢だった車を買うべく英語を教えるアルバイトをしていました。
そして夜は、電化製品の取扱説明書を日本語から英語に翻訳するアルバイトをしながら頑張る学生生活を送っていました。
車が好きで、音楽に携わりたくてなどといった話をお聞きして、なんだか身近に感じました。
57歳で社長を辞められた理由はなんだったんですか?
いくつか理由があります。
ソニーは3年を1つの単位とした中期経営計画を経営の核としてやっているんですね。
私は6年社長を務めましたから、もう1回となるとさらにあと3年、合計9年間社長をやることになるわけです。
社長業は本当に激務で、世界中をまわってミーティングをしながらいろいろな業務をこなすわけです。
身体的にこれを続けられるだろうかっていう不安がありました。
そうなんですね。
これは私の持論なんですが、社長は車でいえばアクセルを120%全開で突き進まなければいけない。
社長がアクセル全開ではない会社の社員や株主さん、お客さんってちょっと幸せじゃないですよね。
あと3年間、アクセル全開でできるだろうかというと、ちょっとどうかなぁ、という気持ちがあったのが理由の1つです。
それから、わたしが社長をやるっていうことは、ほかの社長になれるような役員の皆さんが社長になる可能性を封印することですよね。
言われてみたらそうかもしれません…。
その間、ソニーを新しい方向に持っていくチャンスを摘んでしまって本当にいいんだろうかと。
それって自分のアジェンダで、会社のアジェンダじゃないなって、もう潮時かなと思ったのがもう1つの理由です。
それからこれは決して悪い意味で言っているのではないですが、ソニーで仕事をするというのは、私の人生の目的ではなくて手段なんです。
最終ゴールではないということですね。
ソニーほどすばらしい会社はないと思うし、生まれ変わった時にまた採用してくれるのであれば、もう1度働きたいと思うぐらいです。
でも、それは人生の最終目的ではありません。
ソニーには大変お世話になったけど、違うところで社会に貢献したいっていう思いがあったのも理由です。
そして最後になりますけれども、6年間リーダーやってますと大体1回か2回は同じようなことを経験してるんです。
最初にその問題に直面したときは「これは大変な問題だな」ってみんなで議論するわけです。
でも2回目、3回目ってなってくると、自分自身の中でチャレンジがなくなってくるんです。
そうなんですね。
そういう環境になると社員も「この問題、平井さんだったら絶対こう言うよね」、「やっぱりこう言ったわ」ってなるんです。
車でいうクルーズコントロール、アクセルを踏まなくても速度を一定に保っているような状態です。
活性化というのはすごい大事な点で、これも、社長のポジションから降りて次のリーダーにバトンタッチした理由になります。
簡単に決断できるものではないとお察ししますが…。
リーダー、特に社長はポジションで、いろんな難しい決断をしなければいけません。
数多くの難しい決断の中で、トップ5かトップ3に入るのが、いつ後進に道を譲るか。
大変重要な経営判断です。
平井氏は2018年に社長を交代した後、会長に就任するも1年で退任した
会長を退任されて、いまは何をされているのですか?
去年「社団法人プロジェクト希望」という組織を立ち上げました。
どういう組織なのですか?
有志3人でやっています。
日本は18歳未満の7人に1人が相対的貧困に苦しむ状況に置かれているんですね。
35人の小学校のクラスで、平均すると5人がそういった非常に厳しい環境に置かれているのが日本の現状なんですね。
初めて知りました。
1つが教育の格差。つまり学校でも勉強するんですけれども、家に帰って静かな所で宿題をする環境があるのかとか、塾に行けるかどうかとか。
またもう1つ私が思っているのは、体験の格差。
体験の格差?
そう。保護者と野球を見に行った、ピクニックに行った、遊園地やコンサートに行ったとか、こうしたいろいろな体験の格差。
残念ながら経済的に非常に難しい状況にいるお子さんは、なかなかそういう体験ができないわけです。
私の社団法人というのは、その体験の格差に着目してそういったお子さんたちをいろんな感動体験に招待したり、お連れしたりしましょうということで活動を開始しました。
残念ながらコロナの影響で、これまでは、なかなかお子さんをいろいろな場所へ連れていくことができませんでした。
ことしの春ぐらいからゲーム制作のスタジオ現場を見てもらったり、大きなホールでクラシック音楽の生演奏に触れてもらったりと、いろんな体験を徐々にスタートしています。
これからもそういった体験を提供してくことで相対的貧困に苦しむお子さんに1つでも多くの体験をしてもらいたいと活動しています。
効果測定はできない難しい領域ですが、一石をよい方向に投じることができるんじゃないかと思っています。
ありがとうございました。
撮影:藤原こと子 編集:清水阿喜子
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