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1からわかる!台湾(3)台湾有事って?今後はどうなる?

2023年06月07日
(聞き手:佐藤巴南 正木魅優)

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中国が台湾統一に向けて軍事力を行使する「台湾有事」も懸念されているそうだけれど、今後、台湾と中国の関係はどうなっていくのでしょうか。今後の展望を考える上で知っておきたいポイントを1からわかりやすく解説します。

中国は台湾を攻める?

学生
佐藤

「台湾有事」ということばも聞きますが、事態は深刻なのでしょうか?

中国がいますぐ台湾を攻めるということはないと思います。


支局長

中国は台湾を統一することを目標に「武力行使も辞さない」と言って軍事力をどんどん増強していますが、その一方で、できれば軍事力を使わず、台湾側が「わかりました。もう中国と一緒になります」と言うように仕向けたいと思っているんです。

逵(つじ)支局長は2005年から2008年までと2020年からの2回、台北支局に勤務。中国総局での駐在経験も。2回目の台湾駐在では、台湾有事に備える軍や民間の動きを取材することが増えています。

台湾がそう言わなかったら、中国は攻めていくのでしょうか?

台湾に攻め込むには海を渡らないといけません。

海を渡っていって占領するとなると相当な時間と兵力が必要なので、そう簡単にはいかないでしょう。

もし攻め込んで失敗すれば習近平氏の立場がもたなくなるので、絶対に成功するという自信が持てなければ、軍事力を使って攻めるというのは、いまのところはないと思います。

学生
正木

ロシアのウクライナ侵攻が長期化していることも影響がありますか?

破壊された集合住宅(ウクライナ キーウ近郊 2023年2月)

もし台湾を攻めても、ロシアと同じようになるかもしれないので、中国もウクライナとロシアの戦いを注意深く観察しています。

何でウクライナが頑張れているのかを観察して、対策を練ろうとしていると思います。

それから、アメリカや日本、ヨーロッパがロシアに経済制裁をしましたね。

中国は欧米や日本とも貿易をしているので、もし同じように制裁された場合はどれぐらい困るかとか、どれぐらい我慢できるかとかいう点も考えていると思います。

2023年3月に台北の逵支局長にオンラインで話を聞きました

またロシアは「核兵器を使うぞ」と脅しをかけたりしていますが、中国も核兵器を持っていますから、欧米がどれくらいこの脅しにひるむのか、その効果も注視していると思います。

いろいろな側面から分析していると。

それでも軍事演習をしているのはどうしてですか?

中国の空母「山東」(画像提供 防衛省統合幕僚監部)

「これだけうちは強いですよ、それでもやりますか。あきらめたらどうですか」と脅しているのだと思います。

中国の思想家で孫子という人がいますが「戦わないで相手を屈服させられるのが一番いい」と説いています。孫子の兵法と呼ばれていて、中国に昔からある考え方です。

習近平氏も戦争まで起こさずに台湾を統一できれば、それが一番いいと思っているはずです。

台湾が脅しに耐えきれなくなるのを待っているという感じでしょうか?

その通りです。もちろん軍事演習だから当然軍事的な目的もあって、本当に実戦演習なんです。

戦うと決めた場合にちゃんと武器が使えるように訓練しつつ、相手を脅しているわけです。

台湾の総統選挙と中国

先日のニュースでは、中国が台湾について「平和統一」と言っていると報道されていました。

私が見ている限り、中国が「平和的に統一します」というのは、ずっと言い続けていて、別に新しい話ではありません。

でも、なぜことしの全人代で「平和」に重点を置いたように見えるのかというと、来年行われる台湾の総統選挙をにらんでいるからだと思います。

ことしの全人代(2023年3月)

全人代(全国人民代表大会)

毎年3月に開かれ、向こう1年間の政治・経済・社会などの重要な政策や首相をはじめとする政府の閣僚ポストなどを決める。

台湾の総統選挙?

総統というのは、いわゆる大統領です。

台湾では、1996年から直接投票の選挙で決めています。

4年に一度行われているのですが、それが来年(2024年)1月に行われるんです。

台湾の選挙に中国がどう関係してくるのですか?

台湾には、国民党民進党という2つの大きな政党があります。

国民党は昔、中国共産党と内戦をしましたが、今は中国ともっと交流した方がいいと中国に対して融和的な立場です。

一方で、民進党は、もともと台湾独立という考え方を持っていて、中国に対して毅然とした立場をとっています。

現在の総統は民進党の蔡英文氏

いまの蔡英文総統は民進党ですが、中国としては来年の選挙で民進党に負けてほしい。国民党が勝つほうがまだマシだと思っています。

前回、2020年の総統選挙のときは、2019年に行った香港での反対運動に対する中国側の強硬な対応が、台湾の人たちの反感を買いました。

そして、民進党が勝ったという経緯があります。

香港での対応が台湾の選挙に影響したんですね。

ことしの全人代で「平和統一」という発言が注目されたのは、「中国、ちょっと強硬じゃなくなったね。話し合ってもいいかな」と台湾の有権者に思わせたいから、ちょっとマイルドなふりをしたのではないか。

そういう解釈はひとつできると思います。

それに対して台湾の人たちの反応はどうですか?

1回の発言ではそんなに変化はなく、もう少し様子を見てみようという感じだと思います。

中国の出方を見ていると。

はい。ただ全体的な基調としては、台湾の人は、最悪の場合には戦争になってしまうと思っています。

国民党と民進党はアプローチは違うけど、戦争にならないように努力しないといけないし、もしもなった時にはどうするかも備えなければいけないという雰囲気になってきています。

中国が台湾の選挙に介入しようとする可能性はありますか?

中国発と思われる偽の情報とか不確かな情報というのは普段からあります。

台湾民間団体が「偽情報」だとした画像

選挙に向けて偽の情報がどのくらい出てくるかは、いまはわかりません。

ただ、民進党政権の信頼をなくすようなニュースを流したり、「アメリカはなにかあったときに助けにこないぞ」といった情報を流したり、真偽がわかりにくい情報を出すことを、巧妙にやっているというのは言われています。

どうする?台湾

来年の選挙、台湾の人はどの政党を選びそうでしょうか?

それはまだわかりません。

連続2期目の現職の蔡英文総統は、憲法の規定で立候補できません。

なので、民進党は副総統の頼清徳氏を公認候補として擁立することを決めています。

次期総統選の民進党の公認候補 頼清徳 副総統(2023年4月)

いっぽう8年ぶりの政権奪還をねらう国民党は、有権者が最も多い新北市の市長を務める侯友宜氏を公認候補に擁立しました。

次期総統選の国民党の公認候補 侯友宜 新北市長(2023年5月)

台湾の選挙は、僕も幾度か見てきましたが、各党の勢いが急にがらっと変わることがあるんです。

がらっと?

先ほど、中国と戦争になったときの備えという話をしましたが、そのひとつが兵役です。

兵役があるんですね。

あります。民進党政権は、その兵役の期間を4か月から1年に延ばすことを決めたんです。

当事者や家族は、当然いやです。

去年11月に行われた日本の統一地方選挙のような選挙では民進党が大敗しましたが、それも理由のひとつだったと言われています。

そうだったんですか。

でも、ことしの3月に行われた立法委員(国会議員)の補欠選挙では、いつも国民党が勝つ選挙区だったのに民進党が勝ったんです。

勝ったり負けたりなんですね。それぞれの党の支持率はどれくらいなんですか?

3月に行われた複数の世論調査で、民進党は20%台後半、国民党は20%前後です。

台湾が民主化してからの政権を見てみると、国民党と民進党で3回も政権交代しています。

このほか、民衆党という政党が前の台北市長の柯文哲氏を立てます。

次期総統選の民衆党の公認候補 柯文哲 前台北市長(2023年5月)

世論調査では若い世代の人気が一番高いのは柯氏です。

中国との関係は大きな争点の1つですけれども、それ以外にも物価高騰対策とか、生活に密着したことも大きな課題で、台湾の人がどの党を選ぶのか、いまの段階ではわからないです。

「関心を持ち続けて」平和を守る

台湾と中国について、今後どこに注目していくべきですか?

どんな理由でも、戦争が起きるのはよくないと思います。

台湾側からしたら、外国の人たちが関心を持ってくれることがひとつの安全保障です。

中国に対して「力ずくはだめですよ」と、注目するのはすごく大事なことです。

そうなんですね。

桃園国際空港に到着した日本が提供した新型コロナワクチンが入ったコンテナ(写真提供:桃園市)

はい。例えばこんなエピソードがあります。

新型コロナのワクチンが台湾で不足して困っていた時に、日本から一番最初にワクチンが来ました。

大変な歓迎ぶりで、テレビ局も生中継で日本から到着する飛行機の様子を放送していました。

私まで、多くの人から「日本、ありがとう」って言われたりしました。

台湾は、自分たちを国として承認している国が世界で13しかなく、ふだんはすごく孤立感を感じています。

中国と区別がつかないという外国の人たちもいます。

だから、助けられたり注目されたりすると、「自分たちは忘れられていないんだ」という気持ちになるみたいなんですよね。

台湾大地震で活動する日本の救援隊(1999年9月)

ちょっと昔の話ですが、1999年に台湾で大きな地震があったんですけども、その時に、日本の救援隊が一番先に台湾に到着したんです。

台湾の人はその時すごく感激して、ああ日本の人、台湾のことちゃんと考えてくれてるんだと思いました。

そうなんですね。

2011年に東日本大震災が起きたとき、今度は台湾の人が、もちろん救援隊もすぐに来たし、200億円以上の義援金を送ってくれました。

これ、人口のことも考えると世界各国の中で断トツの金額ではないかと言われています。

あのときに日本が助けに来てくれたと。今度は自分たちの番、そういうことだったんですね。

台湾の立場をどう捉えるかは人によるとしても、台湾に2300万の人たちが暮らしていることをずっと忘れずに、関心を持っていくことが平和を守る大事な方法かなと思います。

きょうお話を聞いて、これからも台湾と中国に注目していきたいと思いました。

私も、もっと台湾について調べたり、考えたりしたいと思いました。ありがとうございました。

撮影・編集:岡野宏美

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