2024年2月21日
ウクライナ ロシア ヨーロッパ

「ロシアは10倍の砲撃」ウクライナ首相が訴える危機とは?

ウクライナの復興に関する会議に出席するため来日したウクライナのシュミハリ首相。

ロシア軍による軍事侵攻からまもなく2年となる中、NHKとの単独インタビューで語ったのは、前線に迫る“危機”でした。

東部の要衝アウディーイウカからの撤退を余儀なくされるなど、苦境が伝えられるウクライナの危機とは?

(ニュースウオッチ9キャスター 田中正良 / 国際部記者 野原直路)

話を聞いたのは

今月19日に東京で開かれたウクライナの復興に関する会議「日・ウクライナ経済復興推進会議」に出席したシュミハリ首相です。

シュミハリ首相はロシア軍による侵攻直後に公開された動画で、ゼレンスキー大統領のそばにいた人物です。

「私たちはここにいる」と語りかけるゼレンスキー大統領 左から2番目がシュミハリ首相(2022年2月25日)

兵士の犠牲をいとわないロシア軍の攻撃を受け、東部の要衝アウディーイウカからの撤退を発表したウクライナ。

今後、ロシア軍にどう対抗するのか。そして、日本には何を期待しているのか。その考えを聞きました。

(以下、シュミハリ首相の話。インタビューは2月19日に行いました)

アウディーイウカからの撤退 何が起きている?

いま、戦場ではロシア軍が制空権を握っています。先週、ロシア軍は何千発もの誘導爆弾をアウディーイウカに投下しました。

戦争というものは勝利や成功だけというわけにはいきません。命を守るためには撤退など、戦術的な決定をすることもあります。アウディーイウカは小さくも重要な都市です。

しかし、人命を守るため、総司令官は撤退の決断をしたのです。

ウクライナ軍が部隊を撤退させた ドネツク州 アウディーイウカ(2024年2月)

残念ながら、パートナー各国からの弾薬の供与は減り、1月のウクライナ軍への弾薬の供給はこれまでよりもはるかに少ないものでした。

自国で生産する無人機や新たな技術によって、その不足を補おうとしていますが、私たちにとって決定的に重要なのは特に射程が長いミサイルや弾薬です。

それがあれば、後方にあるロシア軍の補給拠点や司令部を攻撃できるのです。その不足が、前線において私たちが劣勢にある理由の1つです。

弾薬不足の原因は?

理由はいくつかありますが、そのうちの1つはアメリカやEUなどを含め、各国での弾薬の生産量が十分な量に達していないということにあります。そして、もう1つの客観的な理由はアメリカからの軍事支援の停滞です。

ウクライナへの軍事支援の予算案を可決するアメリカ議会上院(2024年2月)

このことは、これから3月にかけて、戦場に直接、決定的で深刻な影響を与え始めることになるでしょう。

ウクライナも自国での無人機の製造を100倍に拡大したほか、弾薬の生産にも取り組んでいますが、必要な量には達していません。

ウクライナに向けて輸送される砲弾(アメリカ デラウェア州 2022年)

ロシアは大きな兵器工場を持ち、イランや北朝鮮からも弾薬を調達していて、ウクライナの10倍もの砲撃を行っているのです。

去年6月に開始した“反転攻勢”の評価は?

反転攻勢はまだ続いていますが、残念ながら、友好国やわれわれが望む結果にはなっていません。

一方で、この経験はどうやってロシアと戦うかという点で新たな知見をもたらしていて、私たちは戦闘、抵抗を続けています。

バフムト近郊で戦うウクライナ軍(2024年1月)

ウクライナ軍はロシア軍の艦艇や戦闘機を攻撃し、艦艇を毎週のように破壊しているほか、戦闘機も撃墜しています。

私たちは戦場で弾薬不足という問題を抱えていますが、無人機やロボット、そして電子戦といった新しい技術によって、その問題を乗り越えています。

ことし中には非常に重要な、興味深い結果を出すことができると信じています。

それは反転攻勢でというより、新しい技術を使い始めるということであり、その成果は黒海で見られ、その後、戦場でも見られるようになるでしょう。

ロシア、アメリカで行われる大統領選挙への懸念は?

ロシアのプーチン大統領にとっては、前線でいくつかの成功を収めていると示すことが重要になります。

アウディーイウカではロシア軍は多くの兵士を失いましたが、これはロシアにとっては“選挙のコスト”です。選挙の代償を、人命で払っているのです。

ことしはアメリカだけでなく、ヨーロッパなどの多くの国で選挙が行われ、新しい政治の方向性や決断が示されるでしょう。

すべての選挙に重大な関心を持っていますが、私たちにはパートナー各国と協力する以外に選択肢はありません。

本当に大切なのは、一般の人たちからの支援だと思います。選挙でどんな政治的な勢力が勝とうとも、それぞれの国の社会がウクライナを支援してくれるなら、それは私たちに勝利をもたらしてくれます。

日本に軍事支援を求めることはあるか?

それが不可能であることは承知しています。

しかし、ロシアによる軍事侵攻が始まったばかりのころ、日本はヘルメットなどの殺傷能力のない装備品をウクライナに供与するという、前例のない決断をしてくれました。

ウクライナへ輸送される日本の支援物資(横田基地 2022年)

これにより、何千もの若い命が救われました。心から感謝しています。

経済的な支援や避難民の受け入れについても、忘れはしません。

これまでに日本がしてくれた支援はなにものにも代えがたい、すばらしいものでした。

日本へのメッセージは?

日本の皆さんがウクライナを支えて下さっていることに感謝しています。ご支援を決して忘れません。本当にありがとうございます。

岸田首相との首脳会談(2024年2月19日)

この戦争は、ゼレンスキー大統領が提唱する「平和の公式※」の10項目によってしか終結させることはできません。ロシアは核保有国であり、たとえ私たちが領土の大部分を奪還したとしても、軍事的な意味で勝てないことは分かっています。

戦争の終結は、パートナーにも呼びかけて外交的な手法で行う必要があります。ただ、その唯一の方法は「平和の公式」にのっとることです。

世界の多くの独裁者がロシアとウクライナのどちらが勝つかを見極めようとしています。

ウクライナが負けたらそれで終わりではなく、世界各地で大小さまざまな戦争が数多く勃発するでしょう。

ウクライナとロシアだけの戦争ではないのです。だからこそ私たちは勝ち、主権と領土を回復し、戦争を終わらせなければいけません。

「平和の公式」 ウクライナが提唱する10項目の和平案
(1)核と放射線の安全
(2)食料安全保障
(3)エネルギー安全保障
(4)すべての捕虜と連れ去られた人たちの解放
(5)ウクライナの領土の一体性、世界の秩序の回復
(6)ロシア軍の撤退と戦闘の停止
(7)正義の回復
(8)環境の保護
(9)エスカレーションの防止
(10)戦争終結の確認

取材を終えて

おなじみのカーキ色の服ではなく、スーツ姿で現れたシュミハリ首相にそのことをたずねると、「ウクライナにいるときは戦場で戦っている兵士たちへの連帯を示すためにあのような服装をしていますが、外国に行くときは“外交”のためのスーツです」と、その理由を説明してくれました。

日本の民間企業がウクライナの復興に積極的に関われるよう、様々な分野で協力を深めることが目的だった今回の会議。

シュミハリ首相がインタビューで強調していたのは「日本にとっても、復興への参加が利益になる」ということでした。 「本当に大切なのは、一般の人たちからの支援」だと語るシュミハリ首相。欧米を中心に“支援疲れ”や関心の低下が指摘される中、日本の社会の関心をつなぎとめたいという、切実な意志が感じられました。

(2024年2月19日 ニュースウオッチ9で放送)

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