2022年12月9日
アメリカ中間選挙 アメリカ

トランプ復活を止めた!?アメリカのZ世代たちが投じた1票

共和党の躍進、いわゆる“レッド・ウェーブ”が起きなかったアメリカ中間選挙。
ある候補の取材のため陣営を訪れた私の目に飛び込んできたのは、若者ばかり。
日本の選挙取材ではほぼ見慣れない光景です。

復活を期すトランプ前大統領の勢いをそぐ結果となった今回の選挙では、いったい何が起きていたのか。

(国際部記者 山下涼太)

“レッドウェーブ”は起きず

11月8日に行われたアメリカの中間選挙では、連邦議会上院で与党・民主党が主導権を維持しました。

民主党候補の勝利を喜ぶ支持者ら

さらに議会下院でも、野党の共和党が多数派を奪還したものの、共和党の圧勝にはならず、民主党が善戦しました。大方の予想を覆し、共和党のシンボルカラー、赤になぞらえた“レッドウェーブ”は起きませんでした。

期間中、現地アメリカで取材を続けた私(筆者)にとっても、少々驚きの結果でした。というのも、記録的なインフレが続くアメリカで、バイデン政権は選挙前から厳しい逆風にさらされていたからです。

もともと中間選挙は、4年ごとの大統領選挙のちょうど「中間」の年に行われるため、現政権への「信任投票」とも言われ、政権与党が苦戦するケースが少なくありません。

一方で、共和党側といえば、いまだその一挙手一投足に注目が集まるトランプ前大統領と、熱狂的な支持者たちの存在がありました。もちろん大統領の在任中、さまざまな対立も生み出してきたトランプ氏には反発も根強く、無党派層などの票が離れるのではないかという指摘があったことも確かです。

取材中に感じた“ほう芽”

実は私自身も現地で取材中に、民主党が巻き返している“ほう芽”のようなものを感じていました。フロリダ州の大学などで学生たちに投票で重視することについて聞いていたときのことです。

10代から20代のあわせて6人に話を聞いた際、全員が「気候変動に取り組んでくれる候補者を選びたい」と答えたのです。さらに、女性の1人は、2022年、アメリカの連邦最高裁判所が49年ぶりに判断を覆した人工妊娠中絶の問題にも関心があるとも話していました。

実際、選挙前のハーバード大学の調査や選挙後のアメリカメディアの報道などによれば、若者世代は「人工妊娠中絶の権利」や「気候変動対策」といった、民主党がより積極的に訴えていた問題に関心が高いとの結果が示されていたのです。

若者たちの行動が民主党の善戦要因に

こうした若い世代の投票行動が、今回の『民主党の善戦』の要因となった可能性が高いことが、選挙結果のデータからも裏付けられています。

まず、投票率です。若者の政治意識を調査しているタフツ大学の分析によると、18歳から29歳の若年層の今回の投票率は27%と推定されています。30%にも満たず、一見すると低い数字ですが、中間選挙は、4年ごとの大統領選挙と比べると、もともと投票率が低いのが実情です。

そんななかで、今回(27%)は、1994年以降に行われた中間選挙の中では、前回の2018年に次いで2番目に高くなりました。

さらに、投票した若者たちの多くが投票先に民主党の候補者を選びました。同じタフツ大学の調査で、連邦議会の下院議員選挙でみてみると、若年層が投票した候補者の政党は、▼民主党が63%▼共和党の35%と、民主党が共和党を大きく上回ったと分析されています。

こうした若者の投票行動が、当初の予想を覆す結果に影響を与えたと言われています。

「Z世代」政治的な意思表示に抵抗薄い

今回の中間選挙での最大の争点は、暮らしに直撃する記録的なインフレと言われていましたが、若い世代の間ではインフレ以外の争点も重視した人が多かったようです。

中でも注目されたのが「Z世代」と呼ばれる1990年代後半から2010年代前半に生まれた若者です。私が選挙前にフロリダ州で話しを聞き、気候変動対策や妊娠中絶の問題への関心を語っていた多くも、この「Z世代」の若者たちでした。

社会・政治課題への関心が高く、インターネットに幼い頃から慣れ親しんで育ったことから、政治的な意思表示に抵抗が薄いとされています。

Z世代の下院議員も登場

さらに、今回はこの「Z世代」から初めて下院議員まで生まれました。フロリダ州で25歳で当選を確実にしたマクスウェル・フロスト氏です。最年少の連邦議会議員となります。

マクスウェル・フロスト下院議員(ワシントン・2022年11月)

実は、私も渡米前から注目し、取材のアプローチをしていた候補者でした。

渡米後の2022年10月末、取材のためにフロスト氏の陣営が入った事務所に行くと、まずスタッフたちの若さに驚きました。20代の若者たちの姿が目立ったからです。さらに陣営側の窓口で、選挙戦を取り仕切っていた幹部が私とほぼ同い年だったことにも衝撃を受けました。日本での選挙取材では、まずない光景でした。

当選したキューバ系アメリカ人のフロスト氏は、国内で相次ぐ銃撃事件や自らも事件に巻き込まれた経験から、銃規制を求める運動のリーダー役を務めた経歴を持っています。選挙戦では、銃規制の強化や気候変動への対策強化などを訴え、支持を獲得していきました。

当選確実が出たあと、フロスト氏がツイッターに投稿したことばです。

「私たちが勝ちました!!!!歴史は今夜、作られました。フロリダの人々、Z世代、そして、私たち自身がより良い未来に値すると信じるすべての人たちのために、私たちは歴史を作りました。」

裏話ですが、実はフロスト氏への直接インタビューは実現しませんでした。全米でも最注目のZ世代の候補者とあって、メディアに引っ張りだことなり、忙しかったためです。でも、陣営幹部は、取材アポを申請したときには「取材はOKだよ」と気軽に応じてくれたので、ほぼ同い年の親しみやすさから安心しきっていました・・・。

ただ、アメリカの中央政界にこうした新しい世代の連邦議員が誕生したのは、5歳しか年齢が変わらない私としても、刺激的なことでした。

専門家は「Z世代」をこう見る

こうした若い世代は今後のアメリカ政治にどのような影響を与えるのか。

「Z世代」と政治との関わりについて詳しいフロリダ大学のスピロ・キオーシス氏にインタビューしました。

フロリダ大学 スピロ・キオーシス氏

ー取材した若者たちが口々に「気候変動対策」を重視していた

「従来の世代と違い、『Z世代』にとって気候変動は現実の問題であり、彼らの世代は短・長期的にその影響に取り組まなければならないとより強く認識している。彼らは気候変動を大切な問題として捉えており、今後も候補者選びなどに影響するだろう」

ーフロスト氏のような「Z世代」の立候補の動き、今後は?

「全米の世論調査をみても、あらゆる層の有権者がいまの候補者に満足していないと答えている。そのため、新たな視点を持つ候補者は幅広い有権者に受け入れられるだろう。さらに、政治経験も以前のようには重視されることはないだろう。『Z世代』は、民主党や共和党といった党派に関係なく、政治・社会課題の解決などにより大きな重点を置いている。『Z世代』がより成熟し、年齢を重ねれば、さらに政治に関わるようになり、今後いっそう大きな影響を与えるだろう。そうなれば、アメリカ政治の変革のスピードや争点は確実に変わることになる」

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