新型コロナ入院措置
負担軽減へ政令見直し検討
加藤厚労相

2020年8月28日

新型コロナウイルスの感染者に感染症法に基づいて入院の勧告などを行っている現在の対応について、加藤厚生労働大臣は、無症状や軽症の感染者が多い実態を踏まえ、保健所などの負担軽減を図るため政令の見直しを検討する考えを示しました。

新型コロナウイルス感染症は、現在、感染症法の「指定感染症」とされていて、政府は法律に基づいて、入院を勧告したり、感染者の情報や感染経路などを調べる積極的な疫学調査を行ったりしています。

これについて加藤厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で「入院措置は、政令で『できる』と書いてあるが、現場では『そうしなければならない』という認識のもと、軽症や無症状の人でも入院し、それが医療機関や保健所の負担を高めているという指摘がある」と述べました。

そのうえで「指定感染症という位置づけは維持するが、宿泊療養などの実効性を担保していくため、具体的な対応をきめ細かく規定していく必要があるのではないか。そうした観点で政令の見直しを考えている」と述べました。

さらに加藤大臣は、症状が疑われる「疑似症患者」も届け出が義務づけられていることについて、インフルエンザと同時に流行した場合判別が難しくなるとして、医療機関の負担軽減のため柔軟な対応ができるよう見直しを検討する考えを示しました。

専門家「最新の科学的な知見をもとに考える必要がある」

感染症対応に関わる法律や制度に詳しい国立保健医療科学院の齋藤智也部長は、新型コロナウイルスが感染症法上の指定感染症となっていることについて「新型コロナウイルスは当初、指定感染症の中でも『二類相当』とされたが、ウイルスの性質に合わせて、無症状の感染者を入院措置の対象にしたり、濃厚接触者にも外出自粛の要請を行えるようにしたりするなど、本来の『二類相当』よりも強い措置を追加してきた。このため、今は、実際には感染症法上の『新型インフルエンザ』と同じような扱いとなっている」と指摘しました。

そのうえで、指定感染症への指定など、新型コロナウイルスの扱いを見直す議論については「全く対策が行われなければ、2月や3月にイタリアやニューヨークで起きたような重症者の急激な増加で、医療崩壊に陥るリスクが今も存在するということは忘れてはならない。ただ、医療の資源は限られているので、例えば無症状の人や軽症者を引き続き入院措置の対象にするのかなど、最新の科学的な知見をもとに考えていく必要がある」と話しました。

感染症法では危険度に応じて分類

感染症法では、国内での感染拡大を防ぐために、国や自治体が行うことができる措置の内容を、感染性や病原性などの危険度に応じて「一類」から「五類」に分けて定めています。

▽最も危険度の高い「一類感染症」には、エボラ出血熱やペストなどが、
▽「二類感染症」には、重い肺炎を引き起こすSARSや結核、鳥インフルエンザなどが、
▽「三類感染症」には、コレラや腸チフスなどが、それぞれ分類されています。

特に「一類」と「二類」に分類されている感染症については、致死率が高いなど危険度の高さから、都道府県知事が患者に対して、
▽感染症の対策が整った医療機関への入院を勧告し、従わない場合は強制的に入院させられるほか、
▽一定期間、仕事を休むよう指示できるなど、
人権の制限を伴うような強い措置を行うことができると定められています。

人権の制限を伴う措置が含まれるため、慎重な検討が必要だとして、「一類」から「三類」に指定する場合には、法律の改正が必要となっています。

一方で「四類感染症」や「五類感染症」の場合は、国や自治体が取れる措置が、消毒の実施や感染の動向の調査などに限られ、法律ではなく、手続きが比較的簡便な政令の改正で指定することができます。

毎年流行する季節性のインフルエンザは「五類感染症」に指定されています。

一方で、感染症法には「一類」から「五類」までの分類のほかに、新たなインフルエンザが発生したときに、免疫がないことで全国的に急速にまん延して、国民の生命に重大な影響が出る事態を想定して「新型インフルエンザ等感染症」という分類も設けられており、患者に対する入院の勧告や就業制限に加えて、外出自粛の要請など、より幅広い措置を行うことが可能になっています。

ただ、新たな感染症が発生したときに、知見がなく危険度が正しく判断できない場合、法改正を行って強い措置が取れる「一類」や「二類」に指定する時間的な猶予がないため、政令を出すことで一時的に「指定感染症」として「一類」や「二類」に準じた対応を取ることができる仕組みが設けられています。

新型コロナウイルスは、この仕組みを使って、ことし1月「指定感染症」に指定されました。

入院対応はどうなる

厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスによる感染症は感染症法に基づく「指定感染症」に指定され、感染が確認された人には、都道府県が医療機関への入院を勧告できると定められています。

入院費用は全額、公費で負担されます。

感染者のうち、無症状や軽症の人には、原則、宿泊施設で療養してもらい費用は公費で負担することになっていますが、実際には入院を求めるケースも多いと見られています。

こうした対応が保健所や医療機関の負担にもなっているとして、厚生労働省は「指定感染症」の位置づけは維持したまま、無症状と軽症者への対応の見直しを検討することにしています。

仮に、入院を勧告せず、宿泊施設での療養も求めないとなった場合、入院や宿泊などにかかる費用を誰が負担するのかも議論となりそうです。

検査体制はどうなる

厚生労働省によりますと、全国の自治体では、新型コロナウイルスについて、8月7日時点で1日当たり最大8万6000件の検査をできる体制を取っています。

しかし、インフルエンザの患者が医療機関を訪れた場合、症状が新型コロナウイルスと似ているため、多くの場合、新型コロナウイルスの検査も必要になると見られています。

このため、国はインフルエンザの流行に備え、「抗原検査」の簡易キットを生産する企業に対して増産に向けた設備投資を支援するなどして、ことし10月中に抗原検査の簡易キットだけで1日におよそ20万件の検査ができるよう体制を強化する方針です。

このほかにも、ピーク時にはPCR検査などでさらに8万7000件の検査ができるようになる見通しです。

また、感染者が多い地域や、クラスターと呼ばれる集団感染が発生している地域の自治体に対し、医療機関に入院している人や高齢者施設を利用している人、それに職員を対象に公費で定期的に検査を行うよう求めることにしています。

地域の診療所で検査できる仕組みを整備へ

今後、秋から冬にかけてインフルエンザが流行した場合に備えて、厚生労働省は、地域の診療所が新型コロナウイルスの検査を実施する新たな体制を整備します。

発熱などの症状があり、新型コロナウイルスへの感染が疑われる人は現在、保健所などに設置された「受診相談センター」に連絡し、専門外来で検査を受けるケースと、地域の診療所を受診したあと医師会などが設けた「地域外来・検査センター」で検査を受けるケースが中心となっています。

しかし、今後、秋から冬にかけてインフルエンザが流行した時には、新型コロナウイルスの症状に似た発熱の患者が相次ぎ、検査を希望する人が急増するおそれがあります。

このため厚生労働省は新型ウイルスの検査体制を強化し、地域の診療所が診察から検査までを一括して行う仕組みを整えます。

検査を実施するのは都道府県に登録した診療所で、主に短時間で結果が出る抗原検査の簡易キットが使用されます。

陽性となった人は、保健所が入院先や宿泊療養先などを調整します。

一方で、かかりつけの診療所が検査を行えなかったり、土日で休診している場合は、これまでどおり、保健所の「受診相談センター」や「地域外来・検査センター」を経由して検査を受けます。

厚生労働省はインフルエンザの流行期には地域の診療所での検査を中心に据えたいと考えていて、今後、検査を実施できる診療所を拡大し、全国で1日当たり、20万回分の簡易検査キットの調達を進めることにしています。