名張毒ぶどう酒事件 再審認めず 裁判官1人は反対意見

昭和36年に三重県名張市で女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」で、無実を訴えながら89歳で病死した元死刑囚について、最高裁判所は30日までに再審=裁判のやり直しを認めない決定をしました。
一方、5人の裁判官のうち1人は再審を開始すべきだとする反対意見を述べました。
63年前の昭和36年、三重県名張市の地区の懇親会で、ぶどう酒に農薬が入れられて女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」では、死刑が確定した奥西勝元死刑囚が無実を訴えて再審を求め続けましたが、9年前の2015年、肺炎のため89歳で死亡しました。
その後、妹が通算で10回目となる再審請求を行いましたが、名古屋高等裁判所がおととし3月に退けたため、弁護団が特別抗告していました。
これについて最高裁判所第3小法廷の長嶺安政裁判長は30日までに特別抗告を退ける決定をし、再審請求を認めませんでした。
弁護団は「ぶどう酒の瓶の注ぎ口に封をしていた『封かん紙」と呼ばれる紙に、製造段階とは異なる成分ののりが付いていることが鑑定の結果判明した。
元死刑囚以外の犯人が農薬を混入させたあとで貼り直した可能性がある」と主張していましたが、長嶺裁判長は「弁護団が主張する鑑定方法で『封かん紙』に付いた物質を特定すること自体、相当難しい。鑑定結果に、何者かが毒物を混入して再びのり付けした可能性を示す証拠としての価値はない」として退けました。
一方、5人の裁判官のうち学者出身の宇賀克也裁判官は「封かん紙に異なるのりの成分が付いているとした鑑定結果は高い信用性があり、犯人性に合理的な疑いが生じる。自白の信用性にも多大な疑問が生じる」として、再審を開始すべきだとする反対意見を述べました。
10回にわたる「名張毒ぶどう酒事件」の再審請求で、最高裁判所の裁判官が再審を開始すべきだとする反対意見を付けたのは初めてです。
弁護団は、再審=裁判のやり直しを認めない決定を受けて名古屋市内で記者会見を開きました。
この中で、弁護団長の鈴木泉弁護士は「今回の決定は、科学的知見にもとづく検討をしないで結論を出したと言わざるをえないような内容で納得できない」と述べました。
一方、これまでの10回にわたる再審請求で、最高裁判所の裁判官5人のうち1人が再審を開始すべきだとする反対意見を初めて付けたことについて「新証拠についてひとつひとつ丹念に検討を加えた結果、信用性を認めていて、まさに求めていた結論だった」と評価しました。
その上で、次の再審請求に向けて準備を進める考えを示しました。
また、再審請求を行った奥西元死刑囚の妹の岡美代子さん(94)に今回の結果を伝えた際、岡さんは「なぜ裁判所は真実を見てくれないのか」と訴えたということです。
その上で、「頑張って長生きをして、兄の名誉を回復するように全力をあげます」と話していたということです。