【記者解説】原発事故時の避難 能登半島地震から見えた課題は

※動画は「宮城 NEWS WEB」でご覧いただけます。
(岩野キャスター)
次は、地震と同時に原発事故が発生した際の避難について考えます。
今月1日の地震では能登半島にある北陸電力の志賀原発で地震の影響による機器のトラブルが起きました。
半島にある原発で地震と原発事故がほぼ同時に発生した場合の避難体制は十分か、同じく半島に女川原発がある宮城県で考えていくべきポイントです。
取材を担当した内山記者です。
(内山記者)
まずはこちらの地図をご覧ください。
能登半島と、志賀原発から半径5キロと30キロの範囲を示しています。
原発から半径30キロの範囲は、原発事故の際、住民の避難などの必要があり、この範囲の中には15万人近くが住んでいます。
今月1日の地震で震度5強相当の揺れを観測した志賀原発では外部から電気を受けるために使われている変圧器で配管が壊れて油が漏れるトラブルがあり、現在も外部から電気を受ける系統の一部が使えなくなっています。
北陸電力は、ほかの系統で電気を受けていることなどから、使用済み燃料プールの冷却など安全上重要な機器の電源は確保されているとしています。
(キャスター)
今回、志賀原発でもし深刻な事故が起きたら、住民はスムーズに避難できたのでしょうか。
(記者)
大きく2つの課題が浮き彫りになったといえます。
1つ目は「避難路の確保」、2つ目は「屋内退避」です。
まず1つ目の避難路の確保についてですが、石川県の計画では、原発がある志賀町の住民の3分の1や原発の北東にある穴水町の住民は能登半島のより奥へ避難することになっていました。
しかし、今回の地震では能登半島につながる主要な道路が土砂崩れやひび割れなどの大きな被害を受け、各地で通行止めになりました。
今回もし原発事故が起きていたら、あらかじめ決まっていた避難所に向かうのは難しかったといえます。
(キャスター)
道路の寸断で孤立した集落もありましたよね。
(記者)
専門家は原発事故の避難計画は事故が地震などと一緒に起きる「複合災害」を想定してより具体的なものにすべきだと指摘しています。
(原子力防災に詳しい東京大学・関谷直也准教授)
「近隣の市町村も当然被害を受けている可能性もありますし、避難所に避難しようとしてもその地域の避難所にはすでに住民が来ている可能性もある。ですので、さまざまなパターンというか、県内だけでなく県外に避難することもきちんと考えておくとか、広域に避難する可能性を考えておくとか、柔軟な計画が大事だと思います」。
(キャスター)
2つ目の「屋内退避」はどんな課題なのでしょうか。
(記者)
改めて志賀原発周辺の地図を見てみます。
原発から5キロから30キロ圏内の住民は原発事故の際には被ばくを避けるため、まずは自宅など建物の中にとどまる「屋内退避」をすることになります。
しかし今回は地震発生直後から能登地方には大津波警報が発表、さらに住宅の倒壊やそのおそれがあることから多くの住民が建物の外に出て避難しました。
原発事故直後の屋内退避は国の指針で決められているものですが、地震などと一緒に原発事故が起きた時にはそれが有効かどうか改めて検証する必要があると専門家は指摘しています。
(原子力防災に詳しい東京大学・関谷直也准教授)
「地震の後の屋内退避は難しいというのは、いままでの地震被害の経験から考えれば当然議論してこなければいけなかった課題だと思います。きちんとここを今後議論をしていく必要はあるし、それを踏まえた避難の計画の見直しは必要だと思います」。
(キャスター)
避難計画も一度作ったら終わりではなく、必要に応じて常に見直しを進めてほしいと思いますね。
(記者)
2号機の再稼働が予定されている女川原発でも事故が起きた際には周辺に住む19万人あまりが被ばくを避けるための対応を迫られることになります。
東日本大震災を経験している地域だからこそ、今回の能登半島地震を踏まえていまの備えが十分かどうか改めて考える必要があると思います。