ストーリー野球

「このままじゃだめになる」 11年目の決断

2021-02-09 午前 11:30

若くして数々の栄光を手にした。それでも自分を追い込むため、甘えが許されない立場に身を置いた。

「このままじゃだめになる」

寡黙な男が心の内をのぞかせた。28歳、プロ11年目の大きな決断だ。

新たな一面

常に淡々と冷静に。グラウンドではめったに感情を出さない。取材に対しても本音を語りたがらない。プロ野球・ヤクルトの山田哲人にはそういうイメージがあった。それは今回の取材で裏切られることになる。

 

2月1日のキャンプ初日。円陣の中央に出た山田はチームメートにキャプテンとしての決意をこう語った。

 

「ことしからキャプテンを務めさせて頂きます。僕も頼りないところがたくさんあると思うんで、助けて頂いて。競争もあり、また協力も必要だと思うんで、みんなで協力していいチームを作っていきましょう」

 

 

すかさず前キャプテンの青木宣親が「いい顔してるね、哲人!」ともり立てた。

 

山田がチームメートに語った『協力』という言葉。練習ではさっそくみずから行動に移してみせた。初めてのキャンプで緊張しがちなルーキーには笑顔でアドバイス。若手を集めて手本も示した。大きな声で鼓舞することはなくても、自分らしいキャプテンシーを模索しているように見えた。

 

山田 哲人 選手

気づいたことがあれば個人的にしゃべったり。このご時世なので、食事とかは行けないですけど、気がついたらひとことひとこと声をかけて、コミュニケーションをとっていきたいとは思っています。

正直自分は元気もそんなにないかもしれないし、覇気もないかもしれないですけど。違うところで、野球に対する姿勢や考え方で引っ張っていきたいと思っています。

 

山田の意識の変化を先輩たちは見て感じとっている。

 

青木 宣親 選手

みなさんの協力とかっていうね。あいつからそういう言葉を聞いたことがなかったので。その場その場で感じたことをしっかりやっていってくれれば、絶対にキャプテンは務まると思います。

 

石川 雅規 投手

山田は山田らしくやる気は出ていた。哲人らしい哲人のキャプテンシーを発揮してくれると思うので、見守りたいなと思います。

本音

ドラフト1位で入団した山田。これまでの成績を見ると、華々しい数字やタイトルの数々が並ぶ。ホームラン王1回、盗塁王3回、最高出塁率1回、最多安打1回、リーグMVP1回、ベストナイン5回。代名詞となった「トリプルスリー(3割30本30盗塁)」は3回達成。複数回達成はプロ野球史上、山田ただ1人だ。

 

その山田が昨シーズン、けがの影響もあってか、スイングに本来の鋭さが見られず、打率.254 12HR 8盗塁とレギュラーとプレーした7年間で、最も成績が落ち込んだ。

 

 

自分自身トリプルスリーっていうのは目標に掲げてたんですけど、全然ほど遠い数字というか。達成できなかったんで。このままでいいのかなとか思ったり。なんですかね。いろいろ考えましたけどね、そのとき。

 

心機一転、移籍して環境を変えるか。シーズン終了後に取得したFA権の行使について人生で一番悩んだという。それでもチーム内からの「残ってほしい」という言葉に胸を打たれ、残留を決断。会見では「自分はすごい愛されているなと感じた」と語った。

 

その一方で、焦りのような感情も芽生えていた。

 

本当に周りの方に恵まれているというか。監督、コーチ、選手、裏方さん、球団の方とか、みんながみんなすごくいい人ばっかりで。なんていうんですかね。そこに甘えてしまうんじゃないかという。野球選手としてこのまま続けていけば、なんかだめになるっていうか。その可能性があるのかなっていうのも頭によぎってきたんで。

僕は自分に厳しくないので。すぐ甘えたい部分もありますし。楽したい部分もありますし。自分はそういう面倒くさがりというか。だめなところがいっぱいあるので。

 

 

キャプテンは小学4年生のときに務めて以来。「自分はそういうタイプの人間じゃない」と語ったこともあった。それでも高津臣吾監督にキャプテン就任を申し出た。甘えの許されない立場に身を置くことで、新しい自分に出会うことができると信じたのだ。

 

キャプテンになることによって、『キャプテンだから』っていうのは常に頭に入りますし。チームのためにも自分が先頭に立って頑張らなければいけない。一番は自分自身が結果を出して、チームのことを考えながら、自分自身もしっかりと成績を残せるように、野球のプレーで引っ張っていけたらなと思っています。

背中で引っ張る

 

インタビューから2日後のキャンプ第2クール初日。全体練習が終わったあとの室内練習場をのぞくと、マシンを相手に1人黙々とバッティング練習をする山田の姿があった。

 

ほかに報道陣の姿はない。みずからのスイングと向き合う30分間。200球以上、打ち続けただろうか。額には大粒の汗が光る。

 

構えのときの左足の体重の乗せ方を変えてみる。試行錯誤しながら、またバットを振る。

 

 

静寂の中、乾いた打球音だけが同じリズムで響く。気がつけば、ネットの向こう側でチームメートが山田の練習をじっと見つめている。

ことばはいらない。

 

汗でびっしょりぬれたTシャツの背中が、キャプテンとしての決意を語っていた。

 

3年ぶり4回目のトリプルスリーを目指す今シーズン。自覚と責任を胸に、山田がどのようにチームを引っ張るのか、目が離せない。

この記事を書いた人

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杉井 浩太 記者

平成20年NHK入局。富山県出身。
新潟、横浜局を経てスポーツニュース部。ヤクルト、日本代表、NPBを取材中。

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