特集 照ノ富士 自分にとっての大一番を乗り越えて

「この1日を乗り越えようと思っていた」
関脇・照ノ富士、初場所はすでに4敗。14日目、大栄翔の白星で取組前に優勝の可能性がなくなったが、何が何でも勝ちたい一番だった。2敗でトップに並ぶ大関・正代と対戦した照ノ富士は土俵下で今場所一番ともとれる厳しい表情を見せていた。
立ち合い。前に出たが正代にいなされてもろ差しを許した。本来の力強い相撲を全く発揮できない苦しい展開だ。さらに背中を取られて一気に土俵際に。万事休すかと思われたが、くるっと軽い身のこなしで難を逃れた。最後はこれまでの努力と苦労がかいま見えるテーピングで固めた両ひざに力を入れてふんばり、はたき込んだ。
大相撲初場所14日目 照ノ富士(左)が正代(右)をはたき込みで破る
29歳の照ノ富士。けがや病気で大関から陥落し、一時は序二段にまで番付を下げた。大関経験者が幕下以下に番付を下げたのは昭和以降で初めてだった。
2020年10月 稽古中の照ノ富士
それでもリハビリや地道なトレーニングを経て2年半ぶりに幕内に復帰した去年の7月場所で復活優勝を果たした。
2020年 大相撲7月場所で優勝
さらに三役復帰の先場所は13勝。目標にしている大関復帰には“3場所連続で三役を務め、あわせて33勝以上”が目安とされるだけに今場所は何としても、ふた桁白星の必要があったのだ。
ところが今場所は格下相手に黒星を重ね、前半戦で早くも3敗。先場所のような圧倒的な相撲もあまり見られなかった。それでも立て直し、朝乃山に続いて正代と二大関を破ってみせた。
大相撲初場所14日目
「(内容は)よくないが勝ってよかった。よく稽古してきたからじゃないか」
自信も見せ始めた照ノ富士に次の春場所での期待が大きく高まっているが“大関から十両以下に落ちた力士が大関の地位に戻れたのは100年近くで1人もいない”という厳しい現実もある。
1つでも星を積み重ねたい千秋楽の相手は、初顔合わせの平幕、明生。
「毎日やることを精いっぱいやるだけ。まだ一番残っている。あと1日、頑張ってから」
自分にとっての大一番を乗り越えた照ノ富士。“史上初とも言われる復活劇”は春場所で成し遂げられるのか。再び大関の座を狙う照ノ富士から目が離せない。
この記事を書いた人

坂梨 宏和 記者
平成21年NHK入局 福岡県出身
長崎局、広島局などを経てスポーツニュース部。プロ野球を担当した後、現在はサッカー担当。