ストーリー水泳

競泳で唯一、自然の水域で行われる!「マラソンスイミング」

2019-11-27 午前 09:00

2008年の北京オリンピックから正式種目に採用されたマラソンスイミング。海や川、湖といった自然の水の中で行われる長距離水泳競技OWS(オープンウォータースイミングの略)の一つで、水質や天候、潮汐など、自然条件の影響を受けるなかで選手たちの泳ぐ距離はなんと10キロ!競技時間はおよそ2時間!そう聞いただけで過酷さが伝わってきますが、実際にはどんな苦労があるのでしょうか??今回はマラソンスイミングについて深く知るため、実際に競技を経験している選手にお話を伺いました。

 

 

取材を受けてくれたのは、平井康翔(やすなり)選手。オリンピックに2大会連続で出場していて、前回のリオデジャネイロオリンピックでは日本人初の8位入賞を果たした選手です。そんな平井選手から、室内競泳にはない、マラソンスイミング独自の“過酷さ”を教えてもらいました!

豪雨でも強風でもレース開始!

 

平井康翔選手(以下・平井):雨が降っていたり、海が少し荒れていたりするくらいだったら、天候に関係なくレースは開催されます。自然の中で行う種目なので仕方のないところですね。そして、雨が降って風が強くなれば、波が立ってきてレース展開が大きく変わってきます。それもマラソンスイミングの醍醐味のひとつなので、レースを見るときは天候も気にしてみてほしいですね。

レースごとに水温が違う!

 

平井:レースの実施基準は「16℃以上・31℃以下」。一般の人はあまり意識しないかもしれませんが、水温の違いって競技者にとっては大きいもので、それによって“どの選手が強いか”までもが変わってくるんです。ちなみに20℃を下回るとウェットスーツを着ることができるんですが、着ることで浮力も変わってくるので泳ぎにも影響が出てきます。

選手同士の接触でケガをする!

 

平井:レース中は当たり前のように、ほかの選手と接触します。集団で泳いでいると、前を泳ぐ選手の足を避けきれずに蹴られてしまい、脳震とうで棄権することもあるんですよ。肘が当たって歯が折れちゃった選手もいましたね。そういった行為を故意にする選手がいないかをジャッジするため、審判が伴走船に乗って目を光らせているんです。

 

2008年、北京オリンピックへの出場権をかけたOWS五輪最終予選 マラソンスイミング10キロ女子の様子。試合中は、このように伴走船に乗った審判員が同行する

レース途中の栄養補給が必須!

 

平井:脱水症状の予防とエネルギー補給のため、給水はとても大切。釣竿のような道具を使って受け取るんですが、これはマラソンスイミングならではですね。ボトルの受け取りを失敗したときのために、水着の中に予備のエナジージェルを仕込んでおいて、それで補給できるようにしています。

 

実際の給水シーンがこちら。このように、泳ぎながらでも選手たちがわかりやすいように竿の先にはそれぞれ国の旗がついている。

クラゲに刺されてもレース続行!

 

平井:クラゲが群れでいるような時でも、そこがコースだったら泳がなければいけません…!もちろん刺されることもありますし、選手によっては刺されたところが傷として残っちゃう人もいますね。

超人たちの“生き様”を見てほしい

「過酷さ」についてのインタビューながら、笑顔で対応してくれた平井選手

 

そのほかにも、「レース後は体重が2〜3キロ落ちている」「レース後1週間くらいは疲れ切って体が使い物にならない」など、過酷エピソードが続々…。聞けば聞くほど、マラソンスイミングが過酷な種目だということがわかりました。しかし、そんな過酷さのなかにある“この種目のおもしろさ”とは、いったいどこなのでしょう?

 

──マラソンスイミングのおもしろさとは、ズバリどこなんでしょう?

 

平井:人間の限界に挑戦しているところ、でしょうか。10キロを2時間で泳ぎきる能力って、ふだんの僕らの生活には必要ありませんよね。それがオリンピックのひとつの種目として認められ、それにアジャストする体を作って勝負するというところにおもしろさを感じています。本当に過酷な環境でやる種目なので、そこを極めていくって、ある種アメコミのヒーローみたいじゃないですか。泳ぐことに特化している超人みたいな(笑)。選手である僕自身もそこがおもしろいし、見る人にとっても同じだと思いますね。

 

──観戦するときの見どころはどこですか?

 

平井:ゴール間際の競り合いは見どころだと思います。僅差の争いになったときは、まるで競馬のゴール前みたいで、初めて見る人も興奮するはずですよ(笑)。

 

東京五輪を想定して行われた8月のテストイベントでは、本番の半分の距離5キロのコースで実施。白い壁にタッチすることでゴールとなる。

 

あとは、選手それぞれの“生き様”ですかね。競技にかかわらず、オリンピックで戦う選手って、すべてを懸けています。4年に1回だけの、その一瞬に、自分の体やメンタル、経験してきた人生のすべてを注ぐんです。そう考えると、違った見方ができて楽しめるんじゃないでしょうか。

 

マラソンスイミングの競技会場となるお台場海浜公園。東京五輪では、選手たちはここを周回し、約2時間かけて10キロの距離を泳ぐ。

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