ストーリーラグビー

実況アナは見た 漆黒と紫紺 思いが交錯した80分

2021-01-07 午後 05:50

薄暮と肌を刺す冷気。ナイター照明に照らされた緑のフィールドに漆黒のジャージーが躍動する。その揺るぎなく映る信念は、二年分の悔しさが支えていた。

 

対する紫紺も、伝統の「前へ」を実践せんと突入を試みる。対抗戦を制し、周囲からは二年ぶり王座奪回へ視界良好に見えた前王者。しかし実は試行錯誤の一年だった。

 

1月2日秩父宮。大学選手権 準決勝第二試合はそれぞれの思いが交錯した80分間だった。

 

 

天理は三年連続の準決勝。二年前は帝京の連覇を止める歴史的勝利をあげながら、決勝で明治に惜敗。小松監督は秩父宮を埋めた明治ファンの声援に「完全アウェイ感」と振り返った。その雪辱を誓って乗り込んだ去年の準決勝は、早稲田の厳しい戦術にミスを連発。「クオリティの差、我々の甘さを痛感」と小松監督。早明の高い壁に跳ね返された二年だった。

 

そこからスタートした今季の天理。夏に襲った集団感染による一ヶ月間の活動休止という試練に見舞われながら、過去二年の教訓をもとに、更に質の高いチームへと成長した。

 

 

この試合でも成果が随所に見られた。自分たちから体を当てていく意識で強いフィジカルを誇る明治に突き刺さる。

 

また、倒れてもすぐに立ち上がり防御ラインに並ぶ速さで、明治に突破口を許さない。攻めては将来を期待される大砲フィフィタが、相手ディフェンスを引きつけて味方の選手を生かす好パスを連発。意思統一されたラインスピードで、明治の防御網を分断した。

 

 

苦戦が予想されたFWも、低く硬くパックされたスクラムで明治重戦車を押し込んだ。完勝。ノーサイド後に見られた涙には、二年前に味わった悔しさが垣間見えた。決勝では同志社以来36大会ぶりの関西勢の優勝を目指し、もう一つの悔しさを晴らすべく早稲田戦に挑む。

 

敗れた明治も、去年決勝で宿敵 早稲田に敗れた悔しさからスタートした今季。対抗戦では帝京にフィジカル勝負で逆転勝ちし、早明戦は快勝。王座奪回に上昇ムード、に見えた。しかし、内実は苦しんだ一年だったようだ。FWの多くが卒業し、経験未熟な選手が多い上、コロナ禍で十分な準備ができぬまま、ぶっつけ本番でシーズン突入。試合を重ねながらチームを作ってきた。

 

さらに、開幕前にはチームの軸と期待されたスタンドオフの選手がケガで離脱。不動の司令塔を失った状態での戦いを余儀なくされる中、田中監督はシーズン途中からセンターの森選手をコンバートする大胆な采配。シーズン中ながら競争意識を高めることで底上げを図った。

 

そして迎えた四年連続の準決勝。田中監督は、天理の攻撃力を「半端ではない」と警戒。ディフェンスを最重要ポイントに上げ、ロースコアな展開を志向した。

 

 

しかし立ち上がりから、天理の圧力とスピードに翻弄された明治。田中監督は「完敗」と語った。ただ、主力選手の入れ替わりやケガなど、学生スポーツ特有の難しさに直面しながら、優勝候補として戦い抜いた経験は、必ず財産として引き継がれていくに違いない。

この記事を書いた人

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冨坂 和男 アナウンサー

大阪放送局アナウンス

平成2年 NHK入局。今回の大学選手権の準決勝 天理 対 明治の実況を担当。学生時代からラグビーに魅せられ、大学、日本選手権など多くの中継に携わる。2019年W杯でも実況を担当。

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