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巨匠デザイナーが明かす 東京五輪ポスター制作秘話

2020-01-21 午前 09:00

今月6日に発表された、東京オリンピック・パラリンピックの公式アートポスター。大会のコンセプトのひとつ、多様性と調和をアピールするために、様々なジャンルの20人のトップクリエーターが、それぞれのイメージを表現しました。

 

そのうちのひとつ、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんが制作した「五輪の雲」。5つの輪が複雑な軌道を描く、ちょっと不思議な作品です。今回、サンデースポーツ2020では佐藤さんインタビュー。日本を代表するデザイナーが1枚のポスターに込めた思いを、そこに至る99枚のスケッチからたどります。

グラフィックデザイナー 佐藤卓

 

佐藤卓さんは64歳。これまで数多くのヒット商品を手がけてきたグラフィックデザイナーです。
「奥歯」をイメージしたマークと光沢のあるパッケージが印象的な、日本一の売り上げを誇るガム。
売りである「搾りたて」を伝えるために、徹底的にシンプルにデザインされた牛乳。
佐藤さんのデザインは、社会の様々な分野で見ることができ、国内外の広告賞に輝いてきました。

 

そんな佐藤さんにとっても、今回のオリンピックポスターは大きな挑戦だったといいます。

佐藤卓さん

簡単に引き受けられない感じがあったんです。本当に大丈夫かと。それくらい、気を引き締めざるをえない状態でした。

「五輪の雲」までの99枚

 

今回、佐藤さんのポスター「五輪の雲」の完成に至るまでに描いたすべてのスケッチを、特別に見せてもらうことができました。およそ2か月の制作期間で描いたスケッチは、実に99枚。

 

 

1枚目と2枚目。描かれていたのは、グラスの氷に見立てた五輪マーク。真夏のオリンピックをイメージしました。12枚目は風船に見立てた五輪。

最初に取り組んだのはオリンピックシンボル、いわゆる「五輪マーク」の新しい見せ方でした。

佐藤さん

オリンピックのビジュアルなんだけど「何これ?」っていう。
見た事がない、面白いな、って思ってもらえるだろうかと。

 

 

15枚目。五輪の輪を直線にしてみたり。

 

17枚目。動きのある5本の矢印にしてみたり。

 

25枚目。ものづくりを意味する、手の平と五輪を掛け合わせたスケッチも描きました。

 

 

すると27枚目。なぜか通常の「五輪マーク」に行きつきます。

佐藤さん

いやあ、このマークはよく出来ているんですよ。「五輪」を全く見ないで書いたんですけど、大体こういう位置関係になるんです。「やっぱりこれが基本だぞ」って自分に言い聞かせる意味でね、もう1回「五輪」に戻ってみようと。

1964ポスターへの敬意

五輪マークにこだわる佐藤さん。強く意識していたものがありました。それは佐藤さんが「名作」と呼ぶ1964年のポスターです。

 

 

大会エンブレムでもある第1号ポスター。日の丸をイメージさせる大きな赤い丸。その下に配置された金色の五輪。シンプルで力強いデザインは、歴史に残る名作とされてきました。

 

作者は、日本のグラフィックデザイン界の巨人、亀倉雄策。佐藤さんが大きな影響を受けてきた存在です。このポスターの細部に亀倉さんのこだわりを感じてきました。

 

佐藤さん

五輪と赤い丸の間ね、ギリギリですよね。ここまで攻める。だけどくっついてはいないわけです。
この赤い丸と五輪を1つの「かたまり」にするために、亀倉さんは「こうじゃなきゃいけない」っていう判断を絶対しているわけ。
日本のグラフィックデザインを象徴するもののひとつになっていることは、間違いないと思います。

 

世界の5大陸の団結や、友好を象徴する、五つの輪。それを自分は、どうデザインするべきなのか。新しい可能性を貪欲に探り、自分でも「ありえない」と思うものも何枚も描き続けたと言います。

 

そして66枚目。佐藤さんは、可能性を感じさせる1枚にたどりつきます。中心から、「何か」が広がっていくようなデザインです。

 

佐藤さん

真ん中に小さなオリンピックのシンボル、五輪マークがあるんですよね。そこからすごい勢いで、顔みたいな何かが表れ出ている。国だったり地域だったり、様々な多様性みたいなものが、そこから表現できないかなと。しかも元気で何か楽しい。

1964→2020 象徴するものとは

しかし佐藤さん、このデザインでは満足できないと感じました。常に頭をよぎったのは、亀倉さんが制作したポスターの存在でした。

 

シンプルで力強い1964年のポスターは、敗戦から復興し高度経済成長期に突入した日本の勢いを、世界に示すデザインでした。

 

佐藤さん

「日本の存在を、世界によりアピールをする」。時代を感じますよね。亀倉さんのビジュアルはものすごく力強い。そこから多くの人が元気をもらった。

 

それならば、「2020年の東京オリンピックを象徴するデザイン」とは、何か。

 

佐藤さん

今のオリンピックは、開催国をアピールするイベントではなくて、世界のイベント。
出来上がったものを見せるという考え方ではないですよね。みんなが参加してできるものだと思うんです。


みんなが参加して、オリンピックを共に作る。
佐藤さんはデザインの核となるイメージをつかみました。

2020の「五輪の雲」

そして描いた88枚目はなんと…。

 

佐藤さん

また五輪に戻りますね!
でも五輪の中に点がついていますよね。「五つの輪が、五輪を目指して集約していく」というんですかね。多様性というか。軌跡が常に違う。

 

 

 

99枚のスケッチを経て完成した「五輪の雲」。
ばらばらの場所にある五つの輪が、ひとつになろうとする過程が描かれています。佐藤さんがポスターに込めたメッセージとは。

 

佐藤さん

「東京オリンピックは、これからみんなで作られるもの」だということですね。
みんなが参加してできるもの。共に創る。共創、共感、共鳴というイメージ。
そういう意識って、とても大切じゃないですか。これからの社会がどうあるべきか考えていく。そういうきっかけになると、私は思っています。

 

佐藤さんが作ったポスター「五輪の雲」には、様々な工夫や仕掛けが施されているそう。佐藤さんいわく、「じっくり間近で見てもらえれば、きっと分かると思います」。とのこと。

公式アートポスターは、東京都現代美術館で2月16日まで公開、その後は一般にも販売します。

 

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