ストーリー野球

ソフトバンク流「強い組織」の作り方 平石洋介コーチが語る

2020-12-16 午後 03:05

「強い組織」とは、どういうものか。

 

日本シリーズ4連覇と、近年のプロ野球界で圧倒的な強さを見せている、福岡ソフトバンクホークス。

昨シーズンまで楽天の監督を務め、今シーズンからソフトバンクの「打撃兼野手総合コーチ」としてチームの日本一に貢献した平石洋介コーチにロングインタビュー。サンデースポーツでは未公開のトークも含めた完全版で伝えます。

 

新たにチームの中に入って見えた、組織としてのソフトバンクの「強さ」の裏側にじっくり迫ります。

 

後編では、平石さんが見た個別の選手たちの「強さ」。気鋭の若手をどう育てたのか。そして平石さんも驚かされたベテランたちの姿を語ります。

若手を育てる「我慢」の起用

楽天からソフトバンクに「移籍」した平石洋介コーチが、初めてホークスの選手たちを間近で見たのはちょうど1年前の秋季キャンプ。若手のバッターを育成することを期待されている平石さんの目に留まったのが、当時まだ1軍と2軍を行き来していた栗原陵矢選手でした。

 

 

ソフトバンクの強さを語る上で欠かせないのは、「育成」の力です。これまでもソフトバンクは、育成選手出身の千賀滉大投手や甲斐拓也選手の可能性を見出し、1軍に抜てきしてチームの主力に育て上げてきました。

平石コーチは、そうした思い切った起用を実現する監督の「我慢」に、ソフトバンクという組織の強さを感じたと言います。

 

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豊原 栗原選手の話を伺っていきたいんですが、平石コーチにとっては去年までは対戦相手としてもご覧になってきたかと思うんですが、彼の一番の良さ、魅力はどんなところだと捉えてらっしゃいますか。

 

平石 簡単に言えば、一番はバッティングですよね。去年楽天の監督として彼と対戦したとき、そんなに多くの打席を見たわけではなかったですが、「若くて良いバッターだな」と思っていました。それで去年の秋季キャンプで間近で見て、これはちょっと「別格」だなという印象は受けました。なんて言うんでしょうか、スイングスピードだけじゃなくて、ピッチャーと対戦する時の独特な「間」、そして雰囲気も全て含めてですね。ただ遠くに飛ばすだけの選手はプロでもいっぱいいますが、それとは違うと。経験を積めばすごいバッターになるんじゃないかなと、一瞬で魅力を感じましたね。

 

豊原 去年の秋にそうした印象を持ち、今年は開幕からずっとスタメンで使われましたけども、そういう構想がはじめからあったのでしょうか。

 

 

平石 いえいえ、最終決定は工藤(公康)監督がされますからね。当然スタメン起用に関しては僕らも案を出しますし、コーチ陣と監督とで話し合って決めていたんですけど、最終的な決断をするのは監督なので、ちょっと失礼な言い方なんですけど、「よく我慢して使ってくれたな」と思います。

もちろん栗原自身の頑張りもあってですよ。開幕前のオープン戦、練習試合で結果を出して、開幕してからもいい姿を見せてくれたからですよ。どれだけモノがいい、可能性を秘めていると言っても、結果で見せてくれなかったら、なかなか監督も使う決断には至らなかったと思うので。

 

豊原 栗原選手は一度調子落とした時期もありましたが、監督の決断で出場を続けましたね。そこでの苦しんでいる姿や、それでも試合に出続ける姿から、成長を感じた部分はありましたか。

 

平石 レギュラー奪って試合に出続けるとなれば、どんな選手でも何十打席と打てない時はあるんでね。それを乗り越えてたら一歩二歩と、階段を上ってくれると思っていました。まあ確かに試合に出て思うようにいかない苦しみは、本当にきつかったと思いますけど、これまで5年間試合に出たくても出られなかった事を考えればね、「試合に出られない苦しみよりは、試合に出ていろいろな悩みが出てくるだけ幸せじゃないか」というような話も彼にした事がありました。毎日試合に出る大変さは、体力的にも気力的にも、ものすごく感じたと思いますけども、でもそれを経験するだけのものはね、開幕前、開幕してからも彼は残してきたと思っています。

 

 

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実績がなくとも光るものがある選手は積極的に使う。そこで結果を出せるか、壁を越えられるか、我慢もしながら起用することで若手たちが成長していく。

 

そうして栗原選手はプロ6年目の今シーズン、勝負強いバッティングを生かして打線の中軸として活躍。日本シリーズでも打率5割の大活躍でMVPに輝いたのです。

「毎日フルスイング」の意味

2年連続で、日本シリーズで巨人に4連勝したソフトバンク。この結果に代表されるように、近年は交流戦やポストシーズンでパ・リーグがセ・リーグを圧倒しています。その差を考える上で良く語られるのが、パ・リーグのバッターの「スイングの強さ」。コーチの立場からは、選手たちにどのように声をかけているのか。長年パ・リーグのバッターを指導してきた平石コーチのフルスイング論です。

 

 

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豊原 ソフトバンクのバッターを見ていると、鋭いというか力強いスイングが印象的です。やはり指導の際に特に意識して振らせているとか、チームの文化みたいなものはあるんでしょうか。

 

平石 今年チームに来たばかりなので、これまではどうなんでしょう。特別そういう話は聞いたことないですけどね。でも練習からみんなしっかり振りますよね。確かにホークスだけでなくパ・リーグのチームには多いかもしれないですね、しっかり振る選手。これもいい「伝統」になっているのかなと思います。

僕も「振ること」はとても大事だと思っています。フルスイングって体を一生懸命振ることじゃなくて、「バットのヘッドがフルで走る」からフルスイングなんです。力み倒して振ってもフルスイングにならない。意識するのは、どうやったら効率よくヘッドを走らせることができるか。最初は無駄な力が働いたとしても、やり続けることによって無駄な部分が削ぎ落とされて効率よくヘッドが走るフルスイングになっていくと思うんです。これって毎日バットを振っていかないとなかなか覚えていかない。これはあくまでも私の考えなんですけど、あれだけの長さと重さがあるバットを操ろうと思ったら、一見オーバースイングに見えてもある程度、体の後方から勢いをつけないと、なかなか思ったところにはバットは出せないと思うんです。よく追い込まれてからファールで粘れとかね、逆方向にちょこんとバット当ててゴロを転がせとかよく言われますが、長さも重さもあるバットを手元で操れるわけがないんですよ。だから思い切り振る。ヘッドスピードを上げる。そうすると自分が思っているところにバットを出しやすいし、手が後ろから出てくるので変化球に対しても多少我慢がしやすくなる。フルスイングにはいろいろなメリットがあると思います。

 

豊原:聞いた話では、王貞治会長が選手に「打撃練習では全球ホームランを狙っていけ」と仰っていた時代があるとか。もちろんバッターにもタイプがあるので柵越えばかり狙うわけではないと思いますが、やっぱり「練習からフルスイング」というのは根付いていて、それが試合の結果にもつながったということですか。

 

 

平石 そうですね。フルスイングを「毎日やり続ける」ことが大事だと思います。毎日50%、60%の力で振っているのと、必ず100%で振っているのでは、1年経ったらそれはもう大きな違いになりますから。これはスイングだけじゃなくて、走塁や守備でもそうだと思います。もちろん毎日100の力でやるのはなかなかできないと思うんです。でもこれが10%でも20%でも違ったら、やり続けた後の差はすごく大きいですよね。これは本当にホークスにあるいい伝統なのかもしれないですね。

ベテランから若手へ

豊原 伝統という言葉もでたので、ソフトバンクの「チームとしての強さ」について伺っていきましょう。去年までは楽天のコーチ・監督として対戦し、外からソフトバンクを見ていたわけですが、今回チームの中に入って感じた強さの秘密みたいなものは、どんなものだったのでしょうか。

 

 

平石 僕もまだホークスに来て1シーズン終えたばっかりなので、分かったような口は利けないんですけれどもね、外から見ていた時のイメージ通りのこともイメージと違う事ももちろんありました。特に僕は野手担当なので野手のことを言えば、「経験のあるベテラン」、それこそ松田や川島といった選手が、ものすごく元気でいい姿を見せてくれている。これは外から見ていても思っていたんですけど。中に入って思ったのは、ただ元気なだけじゃなくて「チームに必要な声」もベテランがいっぱい出して、若手や経験の少ない選手が、思い切っていける環境を作ってくれているということでしたね。

 

豊原 例えば、よく強いチームっていうのは、他のチームから見ると驚くようなことを約束事として徹底してやっているとか、ベテラン選手がプレーしている姿を見せ続けるとか、強さが続いていく理由があると思うのですが、ホークスの場合はどうだったんでしょうか。

 

平石 これはいろいろな人の考えがあると思うので一概には言えないんですけど、確かにチームとしてベンチのサインでプレーが徹底して管理されているのも強いチームかもしれません。でも個人的には、極端な話ベンチが何もサインを出さなくてもそれぞれの選手が状況に応じて、ベストなプレーのチョイスができるチームが理想だと思っています。

僕は今のホークスがここまでの強いチームになったのか、経緯を見ていないのではっきりしたことは言えないんですけど、ホークスには状況ごとにプレーを選択できる、いわば野球そのものを理解している選手が多いのは確かですよ。

 

豊原 そういう選手の姿を見て、若い選手もそうならなきゃいけないって思いますもんね。

 

 

平石 そうなんです。なので、「ここから」ですよね。「ここから」と言うのはこれまで積み上げてきたチームに失礼かもしれませんけど、今ちょっとずつ若い選手が出てきていて、今経験のある選手たちは本当にあと何年かで、いつかは野球選手として終わりを迎える時期が絶対に来ます。彼らがまだまだやれるにしても、もしいなくなってしまった時に、その後をどうやって引き継いでいくか。おそらくホークスにはそういう「伝統」がずっとあったと思うんです。相手チームとして見ていても、いい伝統だなと現役時代からすごく思っていましたから。今後さらにホークスがずっと勝ち続けるには、その伝統を受け継いでいくことがものすごく大事なんじゃないかなと思ってます。

 

豊原 そういう意味では、例えば今年は栗原選手と周東(佑京)選手が台頭し、上林(誠知)選手辺りも切磋琢磨していって、彼らが引き継いでくれるといいなという感じですか。

 

平石 そうですね。栗原も周東もレギュラーとしてやってまだ今年1シーズンですからね。来年がものすごく大事なシーズンになると思います。彼らが本当にレギュラーとして、ただスタメンで出ましたではダメで、今言ったような伝統も理解していきながら、本当にチームを引っ張っていける選手になれるか。これまでもホークスにはチームを引っ張って中心になれる選手が1人だけじゃなくて何人もいたと思うんです。今年もそうでしたからね。若い選手がどんどんホークスを引っ張るようになったら、もっといいチームになるんじゃないかなと思います。

組織の潤滑剤として

これまでは外から見ていた強いソフトバンク。今年から中に入り、その「強い組織」を生む伝統に触れた平石コーチ。この1年どんな思いで、チームのために働いてきたのか、最後にその流儀を聞きました。

 

 

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豊原 「打撃兼野手総合コーチ」という本当に幅広い役割を担ってきて、平石コーチ自身は、その中で自分が求められている役割はどんなものか、そしてこれからこんなことをやっていこうか、意識しているのはどんなことでしょうか。

 

平石 正しい表現かは分からないですが、チームの「潤滑剤」になればいいなと思ってやってきました。監督の考えを選手にしっかり理解してもらうことだけでなく、チームの中には監督とヘッドコーチ、監督とその他のコーチ、ヘッドコーチとその他のコーチ…、などなどいろいろな関わりがあります。僕は野手を総合して全体的な面も見ないといけなかったので、守備にしても走塁にしても各担当コーチと話したり、試合中には監督とヘッドコーチとも話したり。僕もちょっとだけ監督を経験させてもらったのでわかりますが、監督はものすごく考えることがあるので、正直頭が回らないことも出てくると思うんです。工藤監督も当然、先の展開をたくさん読んでいますけど、冷静に他の展開になった時のことを僕やヘッドコーチで準備して、なんとかサポートできればなと思ってきました。そういった意味で「潤滑剤」になれればと思ってやってきました。

 

豊原 シーズンが終わってお疲れの中、貴重なお話、ありがとうございました。

 

平石 こちらこそ、ありがとうございました!

 

(終)

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