ストーリー野球

平石洋介コーチが明かす 日本シリーズ・ソフトバンクの戦略 

2020-12-16 午後 02:13

「強い組織」とは、どういうものか。

 

日本シリーズ4連覇と、近年のプロ野球界で圧倒的な強さを見せている、福岡ソフトバンクホークス。

昨シーズンまで楽天の監督を務め、今シーズンからソフトバンクの「打撃兼野手総合コーチ」としてチームの日本一に貢献した平石洋介コーチにロングインタビュー。サンデースポーツでは放送されなかった未公開のトークも含めた完全版で伝えます。

 

新たにチームの中に入って見えた、組織としてのソフトバンクの「強さ」の裏側にじっくり迫ります。

前編では、巨人に4連勝した日本シリーズの戦いから、ソフトバンクが重視していた勝負どころを明かします。

日本一に「ホッとしました」

日本シリーズ終了から3日。まだ日本一の余韻冷めやらぬ中、ロングインタビューに答えてくれた平石コーチ。打撃兼野手総合コーチとして、若手選手の育成や作戦面で監督のサポートをしてきた1年を終えて、まず率直な気持ちを豊原謙二郎キャスターに語ってくれました。

 

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豊原 あらためまして日本一、おめでとうございます。

 

平石 ありがとうございます。

 

 

豊原 平石さんにとっては、3連覇中のチームに加わった最初のシーズン。ある意味プレッシャーもあったんじゃないかと思うんですが、いかがでしたか。

 

平石 正直、少し「ホッとした気持ち」はありますね。僕の個人的な事を言わせて頂ければ、プレッシャーは正直ありました。リーグ優勝こそ2年連続で逃していたとはいえね、去年まで3年連続で日本一になっていたチームですから。これで自分が入って順位が上に行けなかったら、まあ当然いろいろなことは言われるだろうなとは思っていました。

 

豊原 日本シリーズ、対戦相手の巨人と戦ってみてのイメージは、いかがでしたか。

 

平石 僕は野手の担当ですので、相手のピッチャーや守備についていろいろ考えることがありましたね。イメージよりも厄介だなと思うピッチャーもいましたけど、ホークスの打者目線で言えばイメージ通りに近い戦いができました。本当に選手はね、想像以上によくやってくれたなと思います。

「共通認識」を徹底する

今年の日本シリーズは、セ・リーグを独走で2連覇した巨人に4連勝し、去年につづく「スイープ」での日本一。「ソフトバンク有利」といわれていた下馬評通りの結果を出したシリーズでした。その中でも平石コーチがポイントにあげたのは、初戦。そこにチームがシーズンを通して徹底してきた戦い方が詰まっていました。

 

 

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平石 去年4連勝したといっても、それは去年のことですからやってみないと分からない。「とにかく初戦」という思いはみんな強かったですね。ホークスの先発は当然、千賀(滉大)でいきましたけど、相手のピッチャーが菅野(智之)くん、本当に日本野球界を代表するピッチャーのひとりです。なんとか早い回に点を取って試合を優位に進めたいなとは思っていましたね。

 

豊原 菅野投手攻略のために、ホークス打線で何か意思統一した部分や戦略面というのはあったのでしょうか?お話しいただける範囲で構いませんので。

 

平石 これは正直、言いづらいところが…(笑)。結局短期決戦ですので、徹底した意識も必要ですが、いかに失投や自分の打てる球を逃さないかですからね。当然相手も研究して厳しい攻めをされますからね。打てる球を打ちにいかないと、打てない球ずっと待っててもしょうがないので。まあでも、“共通認識”はあったと思います。

 

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平石さんが語る“共通認識”。それは「狙い球を決める」ということ。ホークス打線がシーズン中から徹底してきたことです。日本シリーズ初戦の試合前も、平石コーチは若手選手たちに菅野投手のどのボールを狙うか確認したといいます。

 

その日、5番に起用された栗原陵矢選手の答えは「入ってくる球を狙う」でした。

 

左バッターの栗原選手のインコースに入って来る変化球はスライダー。菅野投手が得意とするボールです。

0-0の2回裏。その栗原選手の第1打席、2ボールからの3球目。菅野投手が投じたスライダーは変化しながらインコースへ。栗原選手はその球をフルスイングし、打球はライトスタンドを超えました。先制となる2ランホームランは、狙い球を1球で仕留める、まさにイメージどおりのバッティングでした。シーズンから徹底してきた準備が、大一番で結果につながったのです。

 

 

栗原選手はこの試合、菅野投手から3安打4打点の活躍で大事な初戦の勝利に貢献。その後の試合も活躍し、日本シリーズMVPを獲得しました。

 

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平石 菅野くんはいろんな球種を投げるピッチャーですが、特にスライダーは本当に攻略するのは難しいボール。その中で、どの1球を打ちにいくか、選手たちは狙いを整理して打席に立ってくれたと思います。栗原とはね、試合前にいつもどんな狙いでいくか話すんです。あの日はたぶんものすごく緊張していたと思いますが、彼は明確に「入ってくるボール狙います」と、しっかり整理できていましたね。それで本当に言ったとおりに、甘く入ってきたスライダーを打った。あの一打はチームに勇気を与えたと思います。彼もロッテとのクライマックスシリーズの2試合ノーヒットで悔しい思いしたと思うんです。だから日本シリーズに入るまでの間にしっかり整理してくれてね、あの1打は本当にチームにとっても、栗原にとっても大きかったなと思います。

 

豊原 一方で菅野投手のスライダーには、例えば柳田(悠岐)選手なんかは結構苦しめられて、初戦はノーヒットでしたよね。あれだけインコースを攻められて、2戦目以降に尾を引いたりするのかなと思って見ていたんですが、最終的には打率4割を超えて、全然そんなことなかったですね。そこも狙いを整理していたということなんでしょうか。

 

平石 なかったですね。柳田の場合はもう本当、すごいですよ。シーズン中からあれだけインコースを攻められていても、体が開かない。普通はどうしてもインコースが気になってしまうので、並のバッターじゃあんな見逃し方、あんな打ち方はできないですよ。当然日本シリーズでもインコースは攻められて、柳田自身も「あのスライダーは厄介ですね」とは言っていましたけども、次の試合に尾を引くようなことはなかったですからね。今年一緒にやってみて、そうした対応能力は本当に高いと思いましたね。

 

「自分の役割」を理解する

平石コーチが感じたソフトバンクの強さ。次にあげたのは「選手が自分の役割を理解している」ところです。

 

シーズン終盤、12連勝するなど首位を独走したソフトバンクの原動力になったひとりが1番バッターの周東佑京選手。プロ野球記録となる13試合連続で盗塁を成功するなど、自慢の快足でチャンスメイク。そこから3番柳田、4番グラシアル、5番栗原の中軸が得点につなげ得点を量産したのです。

 

ただ、平石コーチが重要だったと振り返ったのは、1番周東と3番柳田をつなぐ2番バッターの存在です。2番でチーム最多先発したのは中村晃選手。そして相手が左ピッチャーの際には左キラーのベテラン・川島慶三選手が「役割」を全うしたのです。

 

 

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平石 日本シリーズを含め、シーズン後半から周東が1番に定着して、右ピッチャーの時に中村晃が2番を打っていました。中村晃は技術の高さに加えて、「野球をよく知っている」選手ですね。それは(川島)慶三も同じです。

周東が出塁した場合、戦略のひとつとして彼が盗塁するのかしないのか、チョイスすることになります。これは口で言うのは簡単なんですが、ある程度「走れる」可能性があって次の塁に行ってほしいと思った時、打席に入った(中村)晃は周東が走るのを待たないといけないわけです。でも2球で追い込まれる可能性だってありますし、バッターからしたら結構苦しいことなんですよ。打席である程度自分を犠牲にしないといけない。でもチームのために周東が走るのを待ち、盗塁成功でランナー2塁になったら、次はヒットか、進塁打か、いかに3塁に進めるかを考える。当然凡打になることもありますが自己犠牲に徹する、それを淡々とできるバッターってなかなかいないです。淡々と仕事をしているように見えますけど、普通のバッターだったらものすごくストレスですからね。彼らも多分、2番としていろいろな制限の中で苦しかったこともあるとは思うんですが、「仕事を全うする」彼らの存在の大きさは、ものすごく助かりました。

もちろん自己犠牲だけでなく、例えば晃はシリーズの第3戦、周東が出塁した後にサンチェスから先制ホームランも打ちましたよね。あれはもう晃の技術の高さですよ。普通のバッターだったら振っているかもしれないサンチェスの低めの変化球をきっちり見逃して、ちょっと浮いた球をホームランですから。日本シリーズを振り返ると、2番中村晃はものすごく大きな意味があったんじゃないかなと思います。

控え選手にも共通する意識

豊原 日本シリーズを見ていて、例えば第3戦に代打で出て、内野ゴロでヘッドスライディングをした長谷川勇也選手もそうでしたが、果敢にプレーする、最後まで全力で走るという姿勢がとても印象的でした。それはどこから生まれてくるのでしょうか。

 

平石 ハセ(長谷川)のプレーは特にそうでしょうね。ファンの皆さんだけじゃなくて我々もグッとくるものがありました。あれが当たり前といえば当たり前なんですが、全力疾走はホークスでは常日頃から意識させている、というか選手が意識してくれていますね。例えば10回あるうちに9回力を抜かずにやっても、たまたま1回抜いた時にものすごく致命的なプレーになってしまったら、ほぼやってないと一緒なので。100回に1回かもしれないプレーに対しても準備する意識を、選手も持ってくれていましたね。

 

豊原 競争意識みたいな感じなんでしょうか。長谷川選手の場合は代打で出てきて、それで結果を残さなければという。当たり前のことかもしれないですが、誰でもできることじゃない。チーム全体に根付いているものがあるんじゃないかなとか思うのですが。

 

 

平石 これは今年僕が感じたことですが、そこが多分ホークスの強さなんだと思います。控えでスタメンを外れた選手は、自分の立場で何をしないといけないか。あの日本シリーズに限らず、スタメンの選手を脅かすような存在にならないといけないと彼らは自覚している、それが「強さ」なんじゃないかなと思いますね。それがハセのプレーにもつながっている。当然ハセは自分自身の結果もそうですし、試合終盤に監督が自分を代打に使った意図というものを、本人もものすごく感じていたと思います。彼らはね、その代打の一打席に向けてものすごく準備をしてますから、一打席にかける思いも当然強いわけです。長谷川であったり(川島)慶三であったり明石(健志)であったり、そうした選手たちが常にベンチに控えている。それがホークスのいい伝統なんだろうなと思います。

チームを支えた存在 川島慶三

2番打者の重要性、控え選手の意識と平石コーチが日本シリーズのポイントと考えたところで何度も話に出てきたのが、川島慶三選手です。37歳のベテランは毎試合スタメンで出場するわけではありませんが、スター選手ぞろいのソフトバンクの中にあっても、その存在感は絶大だったと言います。

 

 

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平石 主力の柳田中村晃、経験も元気もある松田(宣浩)…。チームにいい影響を与える選手はたくさんいましたが、僕はその中でも川島慶三の名前をあげたいですね。もちろん控えキャッチャーの高谷(裕亮)、経験のある明石や長谷川も本当にしっかりした考えを持った、影響力のある選手でしたが、中でも慶三の存在は大きかったなと思います。一番野球をよく知っている、理解しているのは彼だと思いましたね、今年一緒にやってみて。

彼ももうちょっと若かったらレギュラーを張っててもおかしくない選手ですよ。いろいろな状況で臨機応変に選手がそれぞれの立場でどう動かないといけないか。その状況で「何が必要なのか」を慶三の場合は必ず言葉にしますからね。そうすると事前に防げるミスをみんなで声をかけ合って防ぐ事もできる。逆に「何をしたらいけないか」も冷静に判断できるわけで、本当に彼は野球をよく知ってますね。

 

豊原 例えばこの日本シリーズで川島選手の存在が生きたなと、思われる場面はどんなことがありましたか。

 

平石 日本シリーズだけでなくてシーズン中から「いっぱいありすぎて」ね、なかなか今すぐ言葉にできないんですけど…(笑)。プレーを見ても、相手先発が左ピッチャーの時には必ずスタメンで出ますし、ここぞというの場面で代打に出るし。打席ではただ狙い球を待つだけじゃなくて、その球を投げさせるための「エサ」をまくこともありますし、本当にレベルが高いバッターです。プレーだけじゃなくて、ミスを犯してしまった選手がその後引きずらないようにフォローも必ずしていましたし、「あの状況ではこういう考えを持ってやったほうがいいんじゃないか」というようなアドバイスもしていました。コーチだけでなく、選手同士でそういう会話ができるのはチームの強みですよ。

それに慶三は若い選手だけじゃなくて、ある程度年齢が高い選手にもはっきりとものを言えるし、我々コーチ陣とも意見の交換をね、「ぶっちゃけ」で話をしに来てくれるんで、本当に彼の存在は大きかったと思いますね。

 

 (後編では、平石さんが見たソフトバンク伝統の育成法について語ります。)

 後編記事はこちら

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